昨日、ドクターがじろりと私を見て、問い質すように言った。
「歩いてます」
と、即答。
「うん、それなら良し」
ドクターが続ける。
「65歳以上で、1日6000歩以下の人と、
8000歩以上歩く人とでは健康寿命がかなり違う、
と統計にも出てるからね」
「そうなんですね」
神妙に頷く私。
いや、嘘ついたわけではない。毎日、何歩かは必ず歩く。
狭い住まいだが、歩かなきゃトイレにも行けないし。
でもねえ、8000歩以上歩く日なんてそんなにない。
2000歩くらいの日ならまあまああるけど。
で、嘘の埋め合わせとして、せめて今日くらい歩かにゃ!
と決心してうちを出る。
昨夜はたいへんだった。地震の時なんか、なぜか「ピ」とも
鳴らないうちのスマホが、夜中、何度も津波警報を発してきた。
電源の切り方もわからなくて、朝までそのまんま。
結局、あれは神奈川県だけの「事件」で、警報を出す側の設定ミスだったとか。
寝不足にも関わらず体調は悪くないし、良い天気。
金沢八景駅を通り越して追浜方面へどんどん進む。
丘の上にある泥牛庵。
寄っていきたかったけど通りの向こう側。
国道16号線は、信号一つ逃すと横断歩道がず~~~と先。
今日はあきらめよう。

路地の先にある金龍院。ここも良い風情。


この扉が閉まってることもあって入りにくいのだが
今日はありがたいことに開いてる。




ここには九覧亭という見晴台があって、そこからの
眺めは金澤一と、昔は賞賛されたという。
でも案内板もないのでどこから上がったら良いのかわからないし
気の弱い私は寺の人に尋ねることもできず、まだ未見。
金龍院を出てまた国道16号線沿いを歩く。
私の体感としては、かなり遠くまで来たな、
と感じたあたりで左の道に入る。
この大きな川は侍従川。支流の方へ行くと、
川辺に降りられるようだが、ここは河口に近いので、
護岸が固められている。
川の先にあるのは平潟湾。
昨日の津波騒ぎは関東全域に及んだが、水位が
上がっているようには見えなかった。

橋のカニ模様。

川の名前になっている「侍従」は小栗判官と照手姫の伝説にちなんだもの。
小栗判官は伝説上の人物で、歌舞伎などの主人公。舞台は室町時代。
あちこちに伝承があり、内容も異なるようだが、ここでは、
(ややこしいから理由は割愛)追われて逃げていた小栗判官の一行が
山賊一味のテリトリーに入ってしまう。
山賊は毒酒を飲ませて小栗達を殺そうと企み、遊女達に接待させる。
その遊女の中に美しい照手姫がいて、一目で小栗判官に恋をする。
姫は酒に毒が入っていることを、そっと彼に耳打ちするのだが
うまく伝わらなかったようで、一行は身ぐるみ剥がれて殺されてしまう。
照手姫は逃げ出すのだが、捕まって川へ投げ込まれてしまう。
これにショックを受けた姫の乳母「侍従」が、後を追って身投げ。
それでここは侍従川と呼ばれるようになったという。
じつは観音様によって照手姫は救われ、野島の漁師の家に
匿われていたのだが、漁師の妻が姫に嫉妬し、姫を松の木の
枝に吊り下げて、いぶり殺そうとした。
しかしうまくいかなかったので、妻は姫を人買いに売り飛ばした。
と、まあ、小栗判官との再会に至るまで、話は延々と続くのだがこれも割愛。
金沢八景駅のほど近くには「姫小島水門」という昔の水門跡がある。
また「姫の島公園」という大きな公園もその近くにあるが、どちらも
照手姫伝説にちなんで名付けられたという。
その侍従川沿いを平潟湾に向かって歩く。
もうこれ以上先へ行くと迷子になるので
帰途につくのである。
平潟湾プロムナード。

平潟湾。

ようやく初詣客が行列にならなくなった瀬戸神社へ寄り、
遅ればせのお参り。
本殿の裏の崖に、小さなお稲荷さんが祀られている。
ここ、好きだなあ。

醜女の姉と美貌の妹、という組み合わせで知られる
「イワナガヒメとコノハナサクヤヒメ」

というわけで、私としては15000歩くらい歩いた気分だった。
汗をかき、息を切らせて帰宅し、歩数計を覗いて見れば
なんと、10000歩にも達していないではないか!
がっくりした。
そしてもうひとつがっくり。
これを書いていて「横断歩道」という言葉が出てこなかった。
頭にはその情景がちゃんと浮かんでいる。
でもその名称がわからない。
そんな馬鹿な……ええと、信……信号?
そうだ、信号があるところ!
ああ、なんで出てこないのか。
ついに検索した。「信号を渡るところ」と打ち込んで。
そしてようやく「横断歩道」と書くことができた。
最近多いのだ。こういうことが。
もっと熱心に歩いたら改善されるのだろうか。
されなかったらどうなる?
怖いから、これ以上考えるのはよそう。