
フロイトは、
「妄想は何の根拠もなく起きるものではない」
と言った。
フロイトの言う妄想は、夢と同じように、その原因となる隠れた現実が歪んだ形で表現されたものである。
患者が妄想を強く信じなければならない理由、患者の妄想のなかで表現されている現実と、それに対する心理的反応を知らなければ、患者の治療を始めることは出来ない。
これと同じく、(いわば社会の妄想とも言える)社会が抱いている幻想を促す原因となっている問題を理解し、願望的思考に代わる現実的な解決策を与えなければ、私たちは社会の幻想を正すことは、決して出来ないであろう。
トランプは、偽薬売りのセールスマンかもしれないが、トランプが利用している社会の病は、まさに現実に起きていることなのである。
トランプが権力を勝ち取ったのは、アメリカンドリームから取り残された相当数のアメリカ人を苦しめている現実の問題に対して、的確ではないかもしれないが、手っ取り早い解決法を約束したからである。
困難と脅威の多い時代に、人間は部族主義に立ち返ろうとするようである。
人間のこの生まれながらの性向をトランプは利用したのである。
沸き上がる偏見が沸点に達するのは、雇用をめぐる現実的な争いや、言語や価値観をめぐる文化上の争い、そしてそうした争いを促すトランプのような触媒が存在するときである。
トランプは衰退するアメリカについての漠然とした国民の不安を、その原因とされている移民に対しての偏見に置き換えた。
トランプは、オートメーションにより失われた雇用とテロや犯罪に対する不安、グローバリゼーションに対する嫌悪、アメリカ第一主義を維持する願望と移民排除を論点をすり替えることによって結びつけることに成功した。
しかし、実際は、雇用の大部分がグローバリゼーションではなく、オートメーションによって失われ、だからこそ、いかに移民を排斥しようと失われた雇用は決して戻ってなどこない。
さて、1870年から1970年の間アメリカは賃金と雇用の上昇率で世界一となった。
初期の移民は、土地を求めてアメリカに行った。
そのあとの移民は、賃金の良い職を求めてアメリカに行ったのである。
しかし、1970年以来、アメリカの実質賃金は下がってきている。
トランプの最も強固な支持層は、自らの生活水準が親よりも悪いことを不公平だと感じている。
特に、最近、アフリカ系アメリカ人やラテン系アメリカ人が、自分よりもいくらか裕福であるため、そう感じるのかもしれない。
オバマがブッシュから引き継いだのは、暴落した株式市場、不況に近い状況、麻痺した経済であった。
オバマはトランプに活況を呈する株式市場、復活した経済、低い完全失業率をトランプにのこしたが、何百万人という鉱山労働者、工場労働者、小売業やサービス業、事務作業に関わる労働者は、依然として失業中から不完全雇用の状態にあった。
トランプの選挙戦で最も有権者を引きつけた謳い文句は、トランプが、いや、トランプだけが、海外の国々に外注した数多くの仕事をアメリカに取り戻すことであった。
グローバリゼーションというのは、特別にうま味がある目標である。
経済学者も、多国籍企業も、経営幹部も株主も、兎に角安い商品が好きな消費者もグローバリゼーションが大好きである。
しかし、すでに職を失ったか、または、失業の恐れがある人々にとって、グローバリゼーションは、生活の糧を奪ってゆく強欲なモンスターだろう。
巨額の選挙献金や、企業のロビイストの影響を受けた政治家たちは、常にアメリカの労働者を犠牲にして自由貿易を推し進めてきた。
その結果として生じる海外への仕事の外注は、世界的大企業に莫大な利益をもたらし、そのとばっちりを受けたアメリカ国内の小企業に多額の損失を与えている。
トランプの勝利が、中西部のラストベルトと呼ばれる州で確実となったのは、彼が希望を失った人々を擁護する者として自分を位置づけ、これまでの政治家で埋められなかったさまざまな空白を埋めたからに他ならなかった。
しかし、残念なことに、雇用に関する根本的な問題をすぐさま簡単に解決出来る方法はない。
先にも述べたように、雇用の大部分はグローバリゼーションにではなく、オートメーションによってよって失われているからである。
オートメーションにより何百万という雇用が失われているにもかかわらずアメリカ経済が健全に見える唯一の理由は、テクノロジーによる生産性の大幅な向上である。
しかし、やがて、コンピューターとロボットのおかげで今在る仕事のほぼ半分がなくなり、年間2兆ドルが失われる可能性がある。
アメリカ国民を安心させようとするトランプのことばたちも虚しく、必然的にきわめて多くの人々が、その人数に対してはるかに少なすぎる仕事を求めることになるだろう。
かつてテクノロジーの進歩は、ほとんどの人々にとって勝利を意味した。
しかし、もう、そうではない。
生産性が向上する傍らで、労働者の収入が伸び悩むという、これまでの歴史のなかで、はじめての痛ましい矛盾を経験しているのかもしれない。
だからこそ、そんな雇用不安や低賃金は、単純に移民を排除することで解決出来ると考えると、安心するし、
複雑な問題を「私たち対彼ら/彼女ら」という関係性に基づいた解決策で片付けると、気が休まるのだろう。
トランプは、このような考え方を展延して、国家主義者の激情、外国人嫌いと恐怖、侵蝕してくる怒り、見当違いの義憤を煽り立てている面があることは事実であろう。
そして、アメリカからの移民排除はトランプ独自の論点となったのである。
何故か、H・L・メンケンの
「どんな複雑な問題にも、わかりやすくて、単純で、間違った答えがある」
ということばが、何度も私の頭のなかに浮かんでは、消え、浮かんでは、消えた。
ここまで、読んで下さり、ありがとうございます。
現実は、国を機能させるために、アメリカが常に移民を必要としてきたことや、(トランプにとっては皮肉なことかもしれないけれど、)2016年度のアメリカのノーベル賞受賞者6名は全員が外国生まれであったことなども想い出しながら描きました( ^_^)
今日は、行楽日和ですが、暑くなりそうですね(*^^*)
体調管理に気をつけたいですね。
今日も、頑張り過ぎず、頑張りたいですね。
では、また、次回。