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「ある精神科医の試み」を読んで

2014-06-01 15:15:51 | 福祉
「ある精神科医の試み 精神疾患と542試合のソフトボール」 織田淳太郎:著

かつては炭鉱の町としてにぎわった、北海道の小さな市の総合病院。ある精神科医が、
ソフトボール療法として約11年間の間に542試合もの交流戦を行った。多くの患者、
スタッフ、対戦相手の病院や施設が関わったこの営みをノンフィクションライターが
描いたのが本著だ。

ソフトボール療法中心となった宮下医師をはじめ、登場人物の物語、人間性が
飾ることなく描かれており、個々の物語と、それぞれにとってのソフトボールとの関係が
縦横の糸となって紡がれる魅力がそこにある。

宮下医師もいうとおり、ソフトボール療法が病気にどこまで効果的だったのかは
はっきりしない。しかし、関わった多くの人に、少なくとも一時的には
楽しみな時間を与え、生活のメリハリをつけ、日常生活にも活気を与えた。

服薬治療は、医学的な効果こそかなりの精度で検証されているが、
だから人生が大きく好転するとは限らない。ソフトボールを楽しみに
生活する時間を得ただけでも、生きる喜びを感じることができる
貴重な取り組みではないかと感じる。

また、患者の中にはアルコール等の依存症患者の描写も多く、
精神疾患とはまた違った、依存症の厳しさを伺い知ることができた。

宮下医師の、頑固で勝ち負けにこだわり、精神科医1人体制に苦しむ姿は、
彼の強い個性を感じさせ、人間臭さが伝わってくる。薬物療法中心となりがちな
医療機関とは違った姿がそこにはある。

残念なことに、宮下医師は、昨年の8月に心療中に患者に刺されるという
ショッキングな事件で亡くなっている。彼の投じたソフトボール療法の輪が、
今後もつながっていってほしいと願う。