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夢の傑作映画館・高島与一

ドラマ・映画のシナリオ、ルポ、ドキュメンタリー、構成台本、小説、エッセーなどの執筆とドラマ論、脚本指導

珍説・屋島~後の祭りに御用心②

2007-09-23 00:20:13 | シナリオ
悪常 のお、賭時。海は歴史を見つめていたであろうか?

賭時 ハァ、その様に存じますが……。

悪常 屁異家の連中が、何やら叫んでおるのお。

賭時 リメンバー屋島と口々に叫んでおるようでございます。

悪常 ハハハ。今回の屋島の奇襲が余程悔しかったのであろう。その上に、与一の手柄で大恥をかかされて、恥の上塗りじゃ。地団太を踏んでいるのであろう。所詮、負け犬の遠吠えよ。

賭時 我が連合艦隊の実力を、壇ノ浦の決戦で思い知らせてやりましょうぞ。短期決戦あるのみ。屁異家一族も周防灘の海の藻屑と消え果ることでございましょう。

悪常 しかし、戦を始めるのは難しいが、終わらせるのはもっと難しいのお(腕を組み格好をつけて)。

賭時 御大将、それは連合艦隊司令長官、山本五十六の台詞でございますが……。
 
悪常 おお、そうか。ちょっとオリジナリティがなかったのお。戦争映画の見すぎかのお。しかし、日本の映画界も「二百三高地」の「連合艦隊」のと、軍国主義発揚に協力しすぎじゃのお。あれを反戦映画という頓珍漢もおるが……そのうち、この元屁異合戦も映画になって、軍国主義発揚に利用されるやも知れん。

賭時 御大将の言葉は歴史に残るのでございますから、一語一語注意して喋ってもらいませんと……。

悪常 そうじゃな……歴史に名を残すというのは、しんどいことじゃのお。わしも与一のように百姓でもして、静とひっそりと楽しい家庭を持ちたいと思うこともあるのよ。

賭時 御大将が、そのようなマイホーム主義のサラリーマンのようなことを申されては、我が軍の士気に影響致しますぞ。

悪常 しかし、戦に勝てば勝ったで、鎌倉の兄に疎まれる。わしはどうすればよいのじゃ。このような戦は、政治が悪いからか。時代が悪かったと諦めねばならぬのか……まあ、そんな感傷も振り捨てて、ただ戦に勝ち抜くしか、わしが生き抜く道がないのはわかっておるが……。

賭時 それが軍人の定めと存じますが……。

悪常 しかし、そのような潔さ、諦めの良さを美徳と考えるのが、我が民族の欠点ではないのかのお。自分の生活を大切にすることをマイホーム主義と一律に否定するのは誤っているのではないのか。任務や仕事にひたすら忠実であることを求める国家や企業が、自己を大切にしよう、自分の生活を大切にしようという考えをマイホーム主義と否定的に呼ばせているのではないだろうか……わしも、兄上のように政治家としての才を持って生まれたかったのお。

賭時 そのように気の弱いことを申されますな。

悪常 しかし、いくら軍人が頑張ったとて、最後に民を掌握するのは政治家ではないか。

賭時 そうでございませんと、シビリアンコントロールが保てませんからでございます。

悪常 ホー! シビリアンコントロールか。そちにしては、なかなか洒落た言葉を知っておるではないか。わしは、兄上にコントロールされるだけの存在でしかないのか。結局、兄上がええとこ取りをされるのじゃ。

賭時 シビリアンコントロールが崩れてしまいますと、ファシズムになってしまいます。

悪常 やはり、お前は兄上の家来じゃのお。ファシズムでも何でもよい。わしは、天下をこの手に握ってみたい。

賭時 そのようなことを申されては、鎌倉殿が……。

悪常 その方が、兄上に告げ口いたすのか。

賭時 いえ、滅相もございません。ただ、あまり不穏当なことは口になさらぬ方が……。
 
悪常 思ったことを口にして、何が悪いのじゃ。今は言論の自由、民主主義の世の中ではないか。

賭時 それは、あくまで建前でございますから。

悪常 建前、建前。ああ、嫌じゃのお(嘆息するように)。本音で生きる生き方がしたいわ。

賭時 そのような御大将の気性が、政治家には不向きなのではございませんか?

悪常 そうじゃのお。わしもそれはわかっておる。政治家は建前だけの人間じゃからのお……この戦が終われば、大陸へ渡って馬賊の首領にでもなって、思い切り大草原を駆け回るか。それも一興じゃのお……(思いついたように)賭時、名誉とは何であろう?

賭時 名誉でございますか?

悪常 与一は、今日の手柄を名誉と感じているのかのお……。

賭時 それは、そう思いますが……。

悪常 何かに勝つとは、どういうことかのお……。

賭時 さて、私めのようにギャンブル好きの者にとっては、ただ勝つという快感が堪りませんが。

悪常 果たして、与一もそうであろうか?……弓を射る瞬間に、己が元氏の栄誉を代表しているという気負いがあったのであろうか……酒を飲みながら、あのようなことを、いとも簡単にやってのける人間とは、どういう人間であろう……。
  
賭時 やはり、手柄を立てたい、名誉を得たいという気持ちがあったろうと存じますが……ただまあ、与一の場合は名人としか言いようがございませんが……。

悪常 扇の的を射落とすことが、それほど大事なことかのお…。

賭時 それは、そういう状況で、そうすることが最善のことであれば…。

悪常 そもそも、元屁異の合戦は、それほど大切なことかのお…。

賭時 (驚いて)御大将、何を申されます!

悪常 屁異家の天下が、元氏の天下に変ったとして、それにどんな意味があるというのじゃ…。

賭時 御大将…(絶句)。

悪常 この戦が無ければ、この瀬戸内の海賊や漁師たちは、平和な生活を坦々と送っていたであろうとおもうのじゃ。

賭時 そのようなことを、いちいち気にしておりましたら、戦などできませぬ。もともと民とは無知蒙昧な者どもの群にすぎません。天下を動かすのは、英雄であり、限られたエリートでございますぞ。

悪常 しかし、古臭い英雄史観、鼻持ちならぬエリート主義じゃのお。

賭時 そう言われましても、御大将もエリートの一人ではございませんか。

悪常 そんなことは分かっておるわ…お主もマルクス主義ぐらいは、一応学習しておけ。そうでないと、まったく保守的な軍国主義者になってしまうぞ。今の人民支配は、もっとスマートに狡猾にやらねばならぬのじゃ…わしは、軍事の才に長けておるために、今このように屁異家追討の大将をしておる。しかし、何故わしが、静との平和な生活を望んではならんのじゃ。何故、歴史に名を残さねばならんのじゃ。

賭時 歴史に名を残すことこそ、名誉と存じますが。

悪常 この戦で死に逝く者たちは、何のために死んでいくのであろう…歴史に名も残さずに…わしは、元氏の子に生まれなかった方が良かったのではないかと思ったりするのじゃ。

賭時 しかし、我が元氏こそが選ばれた民ではございませんか…?

悪常 それも、古臭い選民思想じゃのお。ヒットラーのユダヤ民族虐殺も、我が天皇制の大東亜共栄圏・八紘一宇も、そのような驕りからきておるのじゃよ。

賭時 しかし、御大将は、一体何をお考えでございますか…? 先ほどから、ああでもない、こうでもないと…この賭時めには、御大将のお考えが、とんと合点がまいりませんが…。

悪常 わしはの、今、強いられてこのような立場におるが、本心はインターナショナルと非戦の思想が大切だと思うておる。屁異家とも戦など止めて平和に共存していけば良いと思うておるおるのじゃ。わしらは、所詮、名も無き民には勝てん。例え歴史に名が残ろうとじゃ…(歌いだす)アー、インターナショナル我らがもの~♪

賭時 御大将は危険思想の持ち主でございますか?

悪常 しかし、お前は根っからのアナクロじゃのお。

賭時 穴が黒いのでございますか?

悪常 阿呆! アナクロニズム、時代錯誤と申しておるのじゃ。

賭時 御大将も、いろんな時代の話をあっちへ飛び、こっちへ飛び、かなりの時代錯誤と存じますが…。

悪常 それは、歴史の大きな流れへの見通しを持っておるかどうかの違いじゃ。

賭時 して、その見通しをお持ちでございますか?

亜常 持っているからこそ、元氏の総大将という、おのが身の虚しさを感じるのよ。元氏の勝利とて、歴史の流れの中では、うたかたの夢にしか過ぎん。鎌倉殿には、そのようなことが、わかっておられぬのじゃ。権力の亡者よ。

賭時 石原慎太郎でございますか?

悪常 まあ、似たような者よ。

賭時 御大将は、いつそのような知識や理論を身に付けられたのでございますか?

悪常 鞍馬の山で修行時代、天狗に教えられての。平泉で滞在中に独学で学習したのよ。

賭時 御大将のお考えは、ご自分の身を滅ぼしてしまいかねない危険があるような気がしてなりませぬ。

悪常 自分の思想に逆らうことは容易ではない、また、自分の思想を貫き通すことは、それにも増して容易なことではないがの。自己の思想に忠実に生き抜くことが、敢えて申せば名誉なことと言えるののではないかのお…海が歴史をみつめているのはない。民が歴史を見つめておるのじゃ。名も無き民こそが、歴史を動かしておるのじゃ。

賭時 そのようにお考えあそばされては、無常感しか感じられぬと存じますが…。

悪常 そうよ。だからこそ、平家物語の諸行無常の思想が生まれて来るのじゃ。

賭時 いえ、御大将ご自身のことでございます。

悪常 同じことよ…祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり(朗々と)…つまりは、弁証法よ。

賭時 何やら御大将と喋っておりますと、歴史の事実をことごとく無視してしまっているようで、空恐ろしい気がいたしてまいりました。

悪常 歴史の事実などは、表面に現れたことに過ぎぬ。歴史の底を流れる地下水を見つめることこそ肝心なのじゃ。何年に何があったかを暗記しておったとて、そのようなものは、屁の突っ張りにもならんわ…だから、今の学校の歴史教育は間違っておるのよ。

賭時 それでは、私どもは一体どのようにいたせばよろしいのでございましょう…。

悪常 それは、己の頭で考えるしかない…価値観の多様化とか申して、のんびり浮かれておれば、歴史が手酷いしっぺ返しをすることになろうぞ。それだけは確かじゃ(じっと考えている)。

   間。

賭時 少しお疲れのご様子でございます。明朝は早うございます故、そろそろ陣屋の方へ戻られましては…。

悪常 おお、そうじゃのお…それでは、静の夢でも見ながら眠るといたすか…では、まいろうぞ。

   悪常と賭時、下手へ歩み去って行く。
   侍たちも下手に去る。
   上手より白髪の年老いた天狗が登場。
   暗転。天狗にスポットライト。

天狗 今、軍国主義の妖怪が、この国に跋扈しつつある。憲法9条改定の攻防戦は近づけり…悪常殿は、今一歩の地点まで来ておられる…(客席に向かい)平和と自由を謳歌される皆様方よ。我らは目に見えぬ鎖に繋がれておるぞ…(両目をギョロリと剥いて)カッ!と、両の眼(まなこ)を見開いて、己が社会と存在を凝視されよ…(両目を閉じて)いや、それより眼を閉じ、耳を澄ませて地下を流れる水の音を聴かれよ…犬のような嗅覚で時代の臭いを嗅ぎわけられよ…五官のすべてで世の中を受け止められよ…その時、大きな歴史の流れの中の、この一瞬が、大きな音を立てて動き出すであろう…いやいや、年寄りの冷や水じゃった…わしも、次の時代を見届けてから、あの世へ逝きたいのう…もう今では、わしのおる場所も無くなってしもうた…それでは、皆の衆、またどこかでお会いしましょうぞ。わしが、その時まで生きておればの…。

  天狗、ゆっくり上手に去って行く。

                  ~幕~

珍説・屋島~後の祭りに御用心①

2007-09-23 00:17:46 | シナリオ
これをあなたは笑えますか? ハチャメチャ・シリアス・コメディ…???

『珍説・屋島~後の祭りに御用心』(喜劇一幕)①

                            作・高島与一

   ☆登場人物☆

元本悪常(もともとのあくつね) 総本家・家元・元氏(げんじ)の総大将。苦労半官半民悪常。分裂症気味。
火事原賭時(かじわらのかけどき) 悪常の参謀。賭け事好き。
窮理与一(きゅうりのよいち) 弓の名人。アルコール依存症。
窮理大八 与一の兄。大八車曳きの名人。
侍A
その他 多数(5名くらいでも可)
天狗 老人
        ☆

  舞台の背景は海。夕暮れ時。
  下手には元氏(げんじ)の侍たちが控える。
  下手寄り中央に、悪常が椅子に座っている。
  傍らに賭時が控えている。

悪常 おやっ! あれは何じゃ?

  悪常、上手の方を指差す。

賭時 何でござりますか?

  賭時、その方を見る。

悪常 ほれ、あの舟じゃ。

賭時 ああ……はて、何でございますかな。日の丸の扇など立 てて……宴会でも始めるのでは……敵、屁異家(へいけ)も 最早、やけくそになりましたかな。

悪常 便所場の火事か……女が立って、扇を指差しておるぞ。

賭時 そうでございますな(考え込む)……ハハァ、あれは、 あの扇の的を射落としてみよという意味ではございませんか……。

悪常 うん、なるほど。さすが賭時……それにしても、挑発的 じゃのォ~。あの女、薄物を着て、パンティをチラつかせておるではないか。

賭時 これは、敵の撹乱戦法でございますかな。

悪常 まあよい。どちらにしても目障りじゃ。あんな扇、射落 としてしまえ。ついでに、あの女の薄物も弓で射落としてやれ……これは見ものじゃ。

賭時 しかし、我が軍に、それほどの弓の使い手がおりますかな。失敗いたしますと、敵の物笑いになりますが……。 

悪常 我が軍に、それくらいの弓の使い手の一人や二人おらんのか?

賭時 さあ~?

悪常 そちは、何のために参謀をいたしておる……今は大量生 産大量消費の高度経済成長の時代ではないのじゃ。馬鹿の一つ覚えみたいに馬に乗れるだけ、酒が飲めるだけ、歌が歌えるだけでは、この混迷した時代は渡って行けぬ。何にでもマルチに対応できんではのォ……だから、寄せ集めの促成の軍隊では、戦はできんと、あれほど鎌倉の兄上に申しあげておったのに……もっと早く徴兵制を敷いて、みっちり仕込んでおけば、このようなときに難儀いたさんでも済んだのじゃ……兄上は、わしの忠告に耳を貸そうとされず、憲法九条がどうの、時期尚早の、国民世論がどうの、右翼と見られるのは嫌の、軍国主義者にはなりたくないのと、子どもみたいな他愛もないことばかり言っておられるから、こんな羽目に陥るのじゃ。戦をするのに、軍国主義もへったくれもあるか……賭時、本当に誰もおらんのか!?

賭時 (侍たちに向かって)おい、皆の者、この中に、あの扇の的を弓で射落とすことのできる者はおらんか……射落とせば存分に褒美を取らすぞ!

   侍たち、ざわつく。

悪常 こらッ! 賭時、そういうお主はできんのか?

賭時 ハッ! 恥ずかしながら、拙者は馬一本でございまして……他に少々競輪とボートを嗜むぐらいで……。

悪常 たわけ者めが! そんなことじゃから、ギャンブル狂い、賭け事だけの「賭け時」と皮肉られるのじゃ。

賭時 ハッ、恐れ入ります。何分、名は体を表わすと申します故……して、御大将自らが範を示されましては?

悪常 これしきのことに、この元氏の総大将・総本家・家元・名取・苦労半官半民、元本悪常が出て行く幕ではないわ(大層に)……(急に声を落として)実はの、わしはアーチェリーの方しかできんのじゃ。

賭時 御大将の西洋かぶれには呆れ返ったものでございますな。我が大和民族、日ノ本の民、中でも誉れ高き総本家・家元・元氏の御大将が、そのようなことでは、民族の誇りが無くなってしまいます。この美しい国は、いかがなりますことやら(ヨヨと泣く)。

悪常 お主は、安倍一族の回し者か。これ、賭時、そのような古びた考えで、今の時代に生き残れると思うておるのか……たとえ西洋のものであろうと、良いものは、ドンドン取り入れていかんと、屁異家の二の舞になってしまうのじゃ。屁異家を滅ぼし、この大和を治めんとする我が元氏には、進取の気が無くてはならん。

賭時 しかし、精神的な誇りまで無くしてしまいますことを、拙者は恐れるのでございます。

悪常 そのようなものは、如何様にも操作できるのじゃ。お主は、マスコミと言うものを知らんであろう?

賭時 ハァ~? 増す米? それは、如何様な米でございます? 未だ食したことが……。

悪常 アホウ! 米ではない、マスコミじゃ。

賭時 マスコミでございますか? それも西洋の?

悪常 そうじゃ。このマスコミさえ使えば、民の心などは、どのようにでもなるのじゃ。

賭時 ヘェー! その様な便利なものがあるのでございますか?

悪常 そうよ。だから、西洋のことは勉強せんといかんのじゃ。分かったか。お主の様に、ギャンブルにばかり狂っておっては、時代に遅れてしまうのじゃ。

賭時 恐れ入ります……(侍たちに向かって)どうじゃ、弓の達人はおらんのか? 我こそはと思う者は名乗り出よ、先着順じゃ。

侍A (恐る恐る)あの~……。

賭時 何じゃ。その方ができるのか(弓を引く真似をする)。

侍A いえ、拙者ではございませんが、窮理大八と申す者が、弓の達人と聞き及んでおりますが……。

悪常 窮理か。どんなキュウリじゃ?

侍A 萎びた胡瓜。

悪常 お主は、すぐ吉本へ行け。

賭時 何をお戯れを。うん、左様か。それで、そやつはどこにおる? 窮理大八と申す者、前へ出よ!

   窮理大八、賭時の前へ進み出る。

賭時 その方が窮理か?

大八 ハッ! 窮理大八めにございます。

賭時 して、その方、先ほどの者が申した通り、弓の腕に覚えはあるのか?

大八 ハッ、お恐れながら、私は車を曳くのが得意でございまして、弓の方はどうも……。

賭時 車を曳く? 何じゃそれは!……お主は、無法松の親戚か!?

悪常 古ッ!

大八 いえ、私は人力車ではなく、大八車の方でございます。名は体を表わすと申します故……しかし、火事原殿、私めの弟の与一が弓の使い手でございます。裏千家の師範でございます。何卒、この手柄を弟の与一にお与えくだされたく……。

賭時 裏千家? そのような弓の流派があったか? まあよい。今度は真であろうな。嘘ばっかり吐いたら、すねちゃうから(おどけた声で)。よし、その与一を連れてまいれ!

   大八、礼をして下手に消える。

悪常 余市か。懐かしいのォ~。

賭時 御大将は、窮理与一と申す者をご存知でございますか?

悪常 いや、わしの言うておるのは、蝦夷の余市、ウイスキーの故郷、余市のことよ。奥州の平泉で藤原一族の世話になっておった頃にの、ちょっと脚を伸ばして、余市へウイスキーを飲みに行ったものよ。サントリーもいいが、ニッカもなかなかのものでな……。

賭時 ハァ、そうでございますか。私めは、飲む方は、どうも苦手でございますので、ウイスキーの味など、とんと分かりません。何せ、ギャンブル一本でございまして……。

   その時、大八が与一を連れて来る。
   与一、赤い顔をして、足元が多少フラついている。
   大八と与一、賭時の前に跪く。

賭時 何じゃ、こやつは。戦場で、昼間から酒など喰らいおって!

大八 申し訳ございません。ちょっと目を離しますと……多少、アル中の気があるものでございますので……。

与一 ウィ。火事原様、私に何か御用でございますか? ウイ!(完全に酔っ払っている)

賭時 大八! こんなに酔っ払っておっては、弓を射ることなど、ましてあの揺れる舟の上の扇の的を射抜くことなど到底できんではないか!?

与一 (遠くの海上を見て)あの扇の的を射抜くのでございますか? ウイ! そのようなことでございましたら、酒を飲んでいようが、お茶の子さいさい屁の河童えびせんでございます。ウイ!

賭時 それだけ酔っ払っておっても、あの日の丸の扇の的を射落とせると言うのじゃな。武士に二言はないな!

与一 ハァ、ウイ! あれは日の丸でございますか? 屁異家は、いつから国旗掲揚に賛成するようになったのでございますか? ウイ! さて、それとも今日は建国記念日でございましたかな、ウイ! (歌いだす)君が代は~千代に~八千代に~♪

悪常 こら、止めんか! 何を寝ぼけたことを言うておる。屁異家は、元々日の丸愛好家なのじゃ。我が元氏も日の丸愛好家であることをいいことに、それを弓矢で射落とさせ、仕損じたら笑い、射落としたら、この元氏を日の丸反対の左翼・反体制とレッテルを貼ろうとしておるのじゃ。エエイ、悔しい。

与一 そういう汚い手口は、ネトウヨのようでございますな。ウイ! (独り言)屁異家は2チャンネラーでございますか……しかし、ミクシィも低劣なアラシが横行いたしておりますが……。

賭時 何をブツブツ言うておるのじゃ。

与一 それで、私めは、いかがいたしたらよろしいのでしょうか? ウイ!

悪常 だからじゃ。あの扇の的を射落として、我々の実力を見せ付けた上で、あの横に立っておる女の薄物もついでに射落として丸裸にし、敵に恥をかかせてやるのじゃ。それを我らが、やんやと手を叩いて笑い冷やかしてやるのよ。

与一 ハア、ウイ! 御大将もなかなかの好き者でございますな。ウイ!

賭時 これ、失礼な! 本当のことを申すな! 

悪常 あの女、またパンティをチラチラ見せて、挑発しておるぞ……(思い出したように)うちの静もの、名前は静午前じゃから、名は体を表わすというように、静かなのは午前中だけでな……多少、低血圧症じゃからな。ところが、もう午後になると、昼日中から、あれを要求して来るのじゃ。お昼御膳を持ってくる時の静御前はの……アハッ! 洒落など言うてしもうたわい……ノーパンにエプロン姿でわしを挑発しよるのよ。可愛いもんよ。夜もな、静かにいたせ、隣りに聞こえるではないかと言うてもな、「もっと、もっと、あれっ! そこ、そこ、うふーん(感じを出して)」と大声で叫んでのお、何が静かなものか、それは喧しいのじゃ。そこがまた、かわゆうてのう(顔面が完全に緩む)……。

賭時 オホン(咳払い)! 御大将!

与一 御大将はアダルトビデオの見過ぎではございませんか?

悪常 あれは、なかなか良いぞ。お前は嫌いか?

与一 いえ、好きでございますが……。

悪常 それなら偉そうに言うな。わしなど、毎週欠かさずに見ておる。あれは閨の参考になってな……「後ろから、前から」とかの、ウヒヒヒ(涎を垂らす)。

賭時 御大将! いい加減になさいませ。

悪常 おお、済まぬ。こんなことを言っておる時ではなかった。これ与一、そちがつまらぬことを言うからじゃぞ。ところで、早速、あの扇の的と女の薄物を射落としてまいれ。仕損じるではないぞ。心してかかれよ。

与一 ハッ! ウイ! それでは、ちょっくら片付けてまいります。ウイ!

   与一、馬に跨ろうとして、鐙を踏み外してひっくり返る。何とか馬に這い上がって、弓を携え、馬に鞭を当て、海の中へ乗り入れて行く。馬が千鳥足で走って行く。上手の端まで行      く。

賭時 (心配そうに)大丈夫かのお……よし、与一が扇の的を射落とすのに成功するか失敗するか賭けをいたそう。さあ、皆のもの、成功か失敗か、どちらじゃ、張った張った(威勢良く)。

悪常 こらッ! 賭時! この様な時にギャンブルなどいたすな。不謹慎な奴め。

賭時 ハッ! 申し訳ございません。

   元氏の侍たち、一斉に与一の方へ視線を集中させる。
   後ろのほうの者は、立ち上がって見る。ざわざわと隣り同士で話をする。
   悪常、賭時、ハラハラした様子。
   与一、背中の矢筒から矢を一本抜き、弓に当ててキリリと絞る。

与一 南無八幡大菩薩、ウイ! あの扇の的を射させたまえ、アーメン、ラーメン、冷ソーメン! 南無妙法蓮陀佛!
 
   ヒューツという音を残して矢が飛ぶ。
   一瞬の静寂。
   元氏の侍たち、「オーッ!」というどよめき。「やった! やった!」と手を叩く。

賭時 御大将、やりおりましたな。

悪常 うむ……次が楽しみじゃの。

   与一、もう完全にリラックスしている。
   弦を引っ張っては放し、引っ張っては放し、矢を射る真似をしてウォーミングアップをしている。

与一 (歌い始める)窮理与一は一心不乱、屋島の浦でヒョーと射る♪ チャンチャンか……。

   与一、背中の矢筒から矢を引き抜き、弓に当ててキリリと絞る。
   ヒューと矢が弦を離れる。
   間。
   元氏の侍たちの「オーッ!」という歓声。

悪常 賭時、見よ! あの女、えろう慌てておるぞ(嬉しそうな顔)

   賭時も満足そうに頷く。
   与一、さらにもう一本、もう一本と続けさまに矢を射ていく。
   元氏の侍たち、やんやの喝采。腹を抱えて笑い転げる者もいる。

悪常 やったぞ! ワハハハ! 丸裸じゃ、ワハハハ、あの女、乳を押さえて舟の中を走り回っておるぞ!

賭時 やりましたなァ。さすが与一は弓の名人。

悪常 うん、これは実に見ものじゃ。十三ミュージックや天満座の比ではないわい。ワハハハ! 映倫ではカットされるのう、ワハハハ!(笑いすぎて苦しそう)

   与一、馬の向きを変えて、悪常の元に駆け戻って来る。
   馬を降り、悪常の前に跪く。

悪常 でかしたぞ、与一。

与一 ハッ! 有難き幸せにございます。ウィ!

悪常 何なりと褒美を取らすぞ。遠慮いたさず申してみよ……金か、それともウイスキー一年分か、それとも……(考える)。

与一 戦が終わりましたら、田舎で百姓をいたしたいと考えております故、わずかばかりの土地が欲しゅうございます、ウィ!

悪常 オオ、その様なことか。よしよし。その方は、大酒飲みで、弓の達人のくせに、わりと堅実じゃのお。

与一 ハッ! 恐れながら、私には戦があまり性分に合いませんので、ウィ!

悪常 そうか……いや、ご苦労であった。下がってゆっくり休むがよい。

与一 ハッ!

   与一、礼をして下手に消える。

                             (②へつづく)

精神病理学的ドラマ

2007-09-23 00:10:46 | シナリオ
僕は、以前『新部長刑事・アーバンポリス24』という30分の刑事もののシナリオを書いていたことがあります。この番組は43年間も続いた大阪の名物ドラマで、僕が子どもの頃からやっていた長寿番組でした。ギネスブックに載ったかどうか知りませんが……。昔は、ただ『部長刑事』というシンプルなタイトル。東京制作のスマートな刑事ものと違い、人間臭い、泥臭い刑事ドラマでした。子どもの頃に観ていたドラマを、まさか大人になってから書くようになるとは予想だにしていませんでした。
大阪ガスの1社提供で、大阪府警後援というまるで大阪府警の広報番組みたいなドラマです。大阪府警捜査一課の架空の特別班が舞台です。僕は、このドラマのシナリオを書くのに、かなりの抵抗がありました。というのは、大阪府警を常に「正義の味方」として描かなければなりません。しかし、僕は警察の腐敗を抉るようなドラマの方が好きであり、警察が「正義の味方」なんてちっとも思っていないのです。僕は、アル・パチーノの『セルピコ』みたいな刑事ドラマが書きたいのです。大阪ガス提供ですから、ガス爆発事件は、もちろんご法度ですが、性格が天邪鬼なので、やってはいけないと分かっていると無性にやりたくなるのです。
まあ、そんなこんなで、仕事としては、かなりストレスの溜まるものでした。そんなストレスの発散のために発表の場がないのに書いたのが、次のシュールなシナリオです。ほんのお遊びですが…。ラストを少し手直ししました。ただし、こんなシナリオを書くと、ほぼ絶対、賞は獲れません(爆)。
       
       『精神病理学的ドラマとしての部長刑事』

   警察の取調べ室。
   デスクを挟んで、部長刑事とシナリオライターの男が座っている。
   取調べ中。

刑事「あなたは、『部長刑事』というドラマのシナリオライターですね」

作家「そうです」

刑事「あなたは、殺された女優、池イケ子さんを準主役に『部長刑事』のシナリオを書いたんですね。蔵元そうさん?」

作家「そうです」

刑事「あなたと池イケ子さんとは、イケイケの関係だったんですね。蔵元そうさん」

作家「そうです……待て! これは、私の名前を利用した誘導尋問だ!」

刑事「あなたには奥さんがいる。池イケ子さんは、あなたの家庭を破壊すると脅かした。世間にあなたとの関係を公表すると脅した。彼女は役の上でも、こんな役は嫌だと駄々をこねた。あなたは、池イケ子さんの我儘に嫌気が差した。それで殺そうと思った……そして殺した」

作家「違う!」

刑事「誰でも一応は否定します。話を変えましょう。そのドラマは、どんなドラマだったんですか?」

作家「白々しい! このドラマだ。私は作家の役で出演している。彼女は女優の役だ。ドラマの上では、本当に死ぬことはない訳だ。彼女の死は、ドラマの上での死だ。私は、私生活をそのままドラマにした。私はリアルなドラマを作りたいのだ」

刑事「それで、本当に殺したのか?」

   間。

作家「もし、私が彼女を殺していなければ、このドラマはリアルな殺人事件として成立しない」

刑事「しかし、ドラマは作り事なんだ。殺したように見せかけて、視聴者の方は、それで殺されたと思ってくれる訳だ。約束事なんだから……」

作家「私は、そんな作り事、嘘に、もう嫌気が差したんだ。本物のドラマが欲しい」

刑事「ドキュメンタリーとドラマは違いますよ」

作家「限りなくドキュメントに近いドラマが作りたいのだ」

刑事「それでもやはり、ドキュメンタリーとドラマは違います。ドラマはフィクション、作りものです」

作家「しかし、私が彼女を殺していなかったら、このドラマはどうなったと思うんだ?」

   暗転。

   作家の部屋。
   作家と女優がいる。
   作家が女優にピストルを向ける。

女優「私を殺すの? こんなことくらいで、人を殺すなんて、動機が弱すぎるわ。あなたは、作家として失格ね。そんなに簡単に人は殺せないわよ」

作家「衝動的な殺人だってある」

女優「衝動的な殺人に見えても、殺すには殺すなりの理由がある訳で、それを描かなければリアルなドラマにはならないわ。あなた、作家のくせにそんなことも分からないの?」

作家「ア~、私は作家として失格だ……」

   作家、自分の頭」にピストルを当て、引き鉄を引く。倒れる。
   刑事が入って来る。

刑事「自殺未遂か? 女優が作家を殺そうとした殺人未遂か?」

女優「どうして私が、彼を殺さなければならないの?」

刑事「あなたは、自分の思い通りにならない彼に恨みを抱いていた」

女優「でも、彼は作家よ。彼を殺してしまったら、ドラマが進まなくなってしまうでしょ……自殺未遂であれ、殺人未遂であれ、彼は重態よ。じゃあ、どうして、このドラマは進んでいる訳?
このドラマの展開は、誰が書いているの?」

刑事「もちろん彼ですよ」

女優「私は、彼に殺されたんでしょ」

刑事「それは、ドラマの上の話ですよ」

女優「じゃあ、彼の自殺未遂も、ドラマの上の話でしょ?」

刑事「いえ、彼は本当に重態です」

女優「それで、このドラマは一体どうなるの?」

刑事「それは、台本通りに展開するはずです」

女優「とにかく、彼が意識を取り戻せば、すべてはっきりする訳よ」

刑事「そうでしょうか……? 彼が真実を語るとは限らない。あなたが、彼を殺そうとしたのであっても、彼はあなたを庇って自殺だというかも知れない」

女優「それほど、彼が私のことを愛していると思うの? 彼が愛しているのはドラマだけよ。人を愛せない人なの。現実の生身の人間を愛せない人なのよ」

   女優、下手に退場。
   作家、意識が戻る。

刑事「気がつきましたね……自殺ですか? それとも、彼女が殺そうとしたんですか?」

作家「私が、自殺なんかする訳がない。そんなことをしたら、このドラマは、そこで終わってしまうじゃないか……だから、私が彼女を殺さねばならなかったんだ」

刑事「しかし、あなたは死ななかった。殺しもしなかった。ドラマは続いている」

作家「じゃあ、私は狂言自殺をしたと言うのか?」

刑事「そうは言ってません。ただ真実が知りたいのです。彼女があなたを殺そうとしたんですか?」

作家「彼女が私を殺そうとするなんて、それでは彼女の役が良過ぎるじゃないか……私は、そんなドラマは書かない。あくまで、私がカッコいいドラマにしたいんだ」

刑事「一体、事実はどうなんです? あなたは死にかけたんだ。誰がピストルの引き鉄を引いたんです?」

作家「それは、私と彼女以外の誰かであっても言い訳だ」

刑事「あなたは、このドラマの作家でしょ! そんないい加減な無責任なことを言わないでください!」

作家「君だって刑事だろ。自分で調べたらどうだ」

刑事「だけど、あなたの協力がなければドラマは展開しません」

作家「どうして、そう、ドラマ、ドラマって拘るんだ! シナリオがそんなに大事なのか」

刑事「あなた、作家でしょ!」

作家「私は、作家として身体を張っている。君も刑事になり切りたまえ。台本など、あてにするな!」

刑事「分かりました。じゃあ、この現場に第三者がいましたね。それは、誰ですか?」

作家「君だ!」

刑事「私? 私がどうしてここにいるんです?」

作家「いたんだ。君が私を撃った」

刑事「何を言ってるんですか? どうして私が、あなたを撃つんです?」

作家「君は、今回の台本に不満だった。いつもの『部長刑事』らしくない展開が気にいらなかった。『部長刑事』はパターンがあって単純なドラマだ。事件が起こって、刑事が活躍して30
分で解決する。CMを除けば24分だ。古畑任三郎だって事件解決に1時間はかかるというのに……。2時間サスペンスなら2時間かかるのだぞ。それが24分で事件解決。そんな馬鹿な。君は古畑任三郎より優秀なのか? だが、私の今回のシナリオは複雑過ぎて、30分で終わるかどうかも分らない。しかも、作家役の私を中心にドラマが展開して、刑事の活躍する場面がほとんどない。君は、それを腹立たしく思っていた」

刑事「何を言ってるんですか? そんなことで、作家を殺そうとする訳がないでしょ。動機として弱すぎます」

作家「いや、まだある。君は、リハーサルの時から、女優に惚れていた。そして、自分のものにしたいと思った。しかし、台本は、彼女が作家に夢中だということになっている。そこで、君
は私を恨んだ。どうだ!」

刑事「うッ! あなたは、私を嵌めようとしている。部長刑事が殺人を犯したら、どうなるか分かってるんですか?」

作家「分かっている」

刑事「私は、懲戒免職になる。部長刑事がクビになったら、このシリーズは続かなくなる。そんな馬鹿なことがあるか!」

作家「そんなことはないよ。君が部長刑事を辞めたって、シリーズは終わらない。部長刑事の役は、既に何人も変わっている。私が書き始めてからも、篠田三郎、勝野洋、京本正樹、そ
れに君だ。君の代わりの役者なんて、いくらでもいるよ。私は、宮崎美子の女刑事の企画書も出している。なんなら、私がやってもいい」

刑事「なんて奴だ! 自分が主役を盗りたいために、こんな台本を書いたのか!」

作家「シナリオライターが部長刑事でもある。これは新しい画期的なドラマだよ。役者が刑事をやるなんて、もうありきたりなんだ」

   間。

刑事「ワッハッハ! 遂に吐いたな」

作家「何が可笑しいんだ! 何を言ってる!?」

刑事「とうとう白状しやがった」

作家「何だ! 何を言ってるんだ!」

刑事「あなたは、シナリオライターだ。あなたの台本に基づいて、私があなたを殺そうとした……私に、あなたを殺させようと仕組んだ張本人は、あなただ。あなた殺しを指示した犯人は、あなただ! シナリオライター殺人未遂事件の共同正犯として、あなたを逮捕する!」

作家「ちょっと待て! 私が犯人なんて、そんなドラマを私が書く訳がない」

刑事「往生際の悪い人だ。あなたは、白状してしまったんだ」

作家「ドラマはフィクション、所詮作り物だ!」

刑事「自分に都合が悪くなったら、ポリシーを変えるのか!」

作家「馬鹿な! これじゃあ、君がカッコ良すぎるじゃないか! 部長刑事の君が、この難事件を解決したことになってしまう……私が、そんなシナリオを書く訳がない!」

刑事「ハッハッハ! このドラマは、部長刑事の私が主役だ! あなたは、所詮シナリオライターなんだ!」

   ディレクターが上手から出て来る。

ディレクター「カット! どうもお疲れさんでした。いや、良かったですよ。迫真の演技でした……先生、次回は、もうちょっと分かり易いの書いてくださいよ。大阪ガスの了解取っておきますので、ガス爆発でも何でもいいですから、視聴率取れるようなの頼みます」

作家「……(落ち込んでいる)」

ディレクター「先生、大丈夫ですか? ガス自殺しないでくださいよ。洒落にならないですから。そこまで、私も、大阪ガスは説得できませんからね……まあ、焦らずに……先生が精神病院出て来られるのを気長にお待ちしてますので……高島センセ、私を信頼してくださいよ。長い付き合いじゃないですか。決してクドカンに頼んだりしませんから……三谷幸喜さんには、こないだ、ギャラ安過ぎるって断わられましたしね。高島センセしか、いないっす。こんなギャラで書いてくれる方。まあ、病院でアイデア浮かんだら、メールくださいよ。差し入れ持って、跳んで行きますから……いえ、差し入れったって、包丁やカミソリじゃないですよ」

作家「(声を荒げて)お、お、俺は、使い捨て100円ライターか!」

ディレクター「いえいえ、とんでもありません。センセあっての『部長刑事』。ゆっくり養生して、退院する時はジッポくらいにはなってください」

作家「……(薄気味悪い、自虐的笑顔)」

                     おわり
 

ドラマ・シナリオは誰でも書けます

2007-09-22 23:37:40 | シナリオ
◎シナリオを書くには、難しい文章力が必要ではないかと思っている人

 小説や詩を書こうと思うと、たくさんの言葉を知っていることや文章力が必要です。でも、シナリオは一般読者をターゲットに書かれるものではありません。
シナリオは映画やテレビドラマの設計図です。→現場の監督、デレクター以下のスタッフが読んで、ドラマのイメージを作り上げるもの。難しい言葉や文章表現よりも、分かり易いことが大切なのです。難しい言葉を使う必要はないのです。

◎シナリオって、どんなもの?

 シナリオはシーン(場面)が単位になります。
シーンの先頭には、そのシーンの芝居が行われる場所や時を指示する「シーンの柱」をまず書きます。そして、各シーンは台詞とト書によって、成り立っています。台詞は、日常会話のような生き生きした台詞が必要です。それは、みなさんが日頃しゃべっている会話そのものです。
ト書とは、情景や人物の動作、表情、仕草などを書いたものです。簡潔な分かり易い言葉で書きますので、小説のような表現力は必要ありません。

◎みんなも身近に自然にシナリオの表現を身につけています。

 今、ブームになっている「携帯小説」は、ほとんど台詞とト書で表現されていると言われています。ということは、ほとんどシナリオなのです。
コミックは、どうでしょう?
シナリオを基に、テレビドラマが撮影される時、カット割りという作業が行われます。映像の最小の単位はカットです。カットとは、カメラが「よーいスタート!」で回り始め「カット!」でカメラが止まるまでの連続した映像のこと。1シーンは、いくつかのカットを繋ぎ合わせて成り立っています。みなさんが、日頃読まれているコミックの一こまは、映像ドラマのカットととても似ています。だから、普段コミックを読んでいることで、テレビドラマの成り立ちが自然と身についるのです。

◎自分の書いたシナリオが映像になる。

 どんな名監督でも、悪いシナリオから優れたドラマを作り上げることはできません。良いドラマを創作するには、優れたシナリオの存在が必要不可欠なのです。
あなたの書いたシナリオがテレビから流れることを想像してみてください。ワクワクしませんか?

◎あなたは、明日のシナリオライターです。

 ドラマについて、シナリオについて楽しく学びましょう。明日のシナリオライターを夢見て。


台詞劇『グッバイ・ガール~人生はドラマ』

2007-03-19 13:15:38 | シナリオ

「アッ、ここだ……前、失礼します」

「荷物、棚に上げましょうか?」

「アッ、すいません」

「いえ、どういたしまして……」

「発車しましたね……」

「ええ、間に合ってよかった……」

「どちらまで?」

「新大阪です」

「僕もです。ご一緒ですね……煙草吸ってもいいですか?」

「ええ、どうぞ。私も吸いますから」

「最近は、どこでもおおっぴらには煙草を吸えないですから

ね」

「嫌煙権とか、うるさいですものね……」

「僕みたいなヘビースモーカーは、肩身が狭いですよ」

「……一日、何本ぐらいですか?」

「三箱くらいです」

「すごいですね……死んじゃいますよ(笑)」

「いいんですよ……別に長生きしたいと思わないし……」

「……缶ビールどうぞ。旅は道連れだ。楽しくやりましょ

う」

「ありがとう」

「……じゃあ、乾杯!」

「人生に、乾杯!」

「……東京へはお仕事ですか?」

「ええ、劇団で舞台をやってます」

「ヘェー、女優さんか……一度観たいなァ」

「ほんとですか? 来月の公演のチケットあります。よろし

かったら……」

「ええ、いただきます……実は、僕はシナリオライターなん

です」

「ウワー、凄い! 私、あなたのドラマに使ってもらおうか

な……」

「いいですね」

「嬉しい! ラッキーですわ。いい方の隣りに座って」

「そうだ。名刺をお渡ししときましょう……」

「……アッ、すいません……私、名刺を切らしてしまって。東

京でたくさん配ったものだから……川添茂樹……ペンネームで

すか?」

「いえ、本名です。これよりいいペンネームが思いつかなく

て(笑)」

「素敵なお名前ですね……アッ、今村由紀です。よろしく」

「よろしく……失礼ですけど、独身ですか?」

「どう見えます?」

「独身!」

「ピンポーン!……私ね、スティーブ・マックイーンが死ん

で、独身通すことに決めたんです」

「ヘェー、余程好きだったんですね」

「ええ、愛してました……」

「片思いですね……彼は、いい役者だったなァ……アクショ

ンがよかった。演技力もあるしね」

「川添さんもお好きだったの?」

「ええ、好きな俳優の一人です」

「まあ、嬉しい。意見が合いますね」

「彼ってもうひとつ評価が低いというか、正当に評価

されていないですね。ほとんどアクションスターとしか見ら

れていない」

「まだまだこれからって時に、死んじゃいましたから……」

「アカデミー賞も取らずに死んじゃったしね」

「ジェームズ・ディーンみたいに、もっと若くて交通事故死

だったら、永遠にアイドルスターとして残るんですけどね」

「そうそう、彼の場合は中年になってから癌で死んだから」

「若くて交通事故で死ぬのと、中年で癌で死ぬのとは違うん

ですね」

「僕も若い時に、交通事故で死ねばよかったな(笑)……今

では、中年で癌で死ぬしかないもんね……」

「案外長生きするかも知れませんよ」

「無理ですよ。一日に煙草60本だもの」

「睡眠が8時間として、起きてる時間が16時間でしょ。

6・6・36の……960分か……60本で割ったら……エー

ッと、16分に一本の割りね」

「一本で寿命が5分縮むって言いますから……60本で30

0分、毎日5時間ずつ寿命を縮めてるわけだ」

「1ヶ月が150時間……エーッと、約6日間よ」

「1年で72日、10年で720日、約2年寿命が縮むんで

すね」

「今、おいくつですか?」

「45です」

「じゃあ、普通75まで生きるとして、あと30年でし

ょ……すると、6年寿命が縮むから、64歳までしか生きられ

ないってわけね」

「今まで吸った分も縮みますよ」

「アッ、そうか……」

「10年ほど長生きするのと、煙草と、どっちが大切かってこ

とですね」

「そうね……そういう風に考えると、女の場合も結婚して失

うものと得るものと、どっちが大きいかってことね」

「結婚によって得られるものって?」

「安定感かしら……?」

「失うものは?」

「(同時に)自由(笑)」

「また意見が一致しましたね」

「もちろん結婚しておられるんでしょ?」

「ええ、自由を失くしてしまった(笑)」

「お子さんは?」

「12歳と8歳と二人います。どちらも娘です」

「可愛いでしょ?」

「下の娘が言います。お父さん、煙草を止めなさい。長生き

できないよって……お父さんは、60まで生きればいいんだ

よと言うとね、お父さん、孫の顔が見たくないの、だっ

て……」

「可愛いじゃないですか」

「まだ8歳ですからね……上の娘は、私、肺癌になるから煙

草吸うの止めて、ですからね……子どもが可愛いのは、ほんの

少しの間だけですよ」

「私、結婚はしたくないけど、子どもは欲しいの……よく劇

団の連中に言うんですよ。種だけ頂戴って……責任は問わない

からって……未婚の母って素敵でしょ……でも人工授精とか科

学や技術の世話になって子どもを作るのって何だか嫌なんで

す。一瞬でも男と女が愛し合って子どもを作りたい……」

「僕が協力しましょうか(笑)?」

「あら、嬉しい(笑)」

「でもやっぱり、男と女って違いますね。男は未婚の父にな

りたいなんて思わないもんね」

「そんなことないですよ。最近の若い男の人って、結婚はし

たくないけど、子どもは欲しいって人が増えてるんですっ

て……」

「ヘェー、男性がますます女性化しているのか……」

「そう、日本の男性はドンドン女性化している」

「女性が男性化するのと反比例ですか?」

「そういうことね。男性と女性の差がなくなって行く……ど

う思います?」

「いいんじゃないですか。男は男らしくあろうとすることで

不自由になってましたから……あまり男性的とか女性的とか意

識しない方が、自由でいいですよ」

「でも、女性化した男性に、女性は魅力を感じなくなってい

るんじゃありません? 30代でも独身の女性が増えてい

る……」

「過渡期なんでしょう……女性の方は、どんどん男性化して

いるのに、男性の変化は認めようとしないで、古い男性像にし

がみついている……でも、古い型の男性的な男なんて、そのう

ちいなくなりますよ」 

「昔のままの男らしい男は、映画の中でしか存在しなくなる

んですか?」

「そういうことでしょうね……だけど、ドラマの中の男性も

現実を反映して変化して行きますから……」

「クラーク・ゲーブルやハンフリー・ボカートは、もう出な

いのね?」

「スティーブ・マックイーンもね(笑)」

「私ね、ひとつだけ絶対に許せない言葉があるの……」

「ふーん、何?」

「女のくせに、っていう言い方なの……」

「僕なんか、娘にね、女のくせにメソメソするなって叱って

ますよ」

「変わったお父さん……川添さんて、自由な発想をする方な

のね。じゃあ、もし男の子がいたら?」

「男のくせに偉そうにするなって……」

「フフ、おかしい……」

「ドラマとね、現実の人生と、どちらがドラマチックかって

考えるんですよ」

「ええ……私は、人生というドラマを演じる女優なの」

「じゃあ僕は、人生というドラマを書くシナリオライターだ

(笑)」
 
「この前ね、DVDを借りてきて娘と二人でスピルバーグの

『フック』を観てたんですよ」

「いいパパね」

「いや……ラストでね、スピルバーグが珍しくメッセージ言

わせるんですよ」

「ふーん、どんな?」

「ピーターパンの奥さんがね、これで冒険もお終いねって言

うの。そうしたら、ピーターパンが、いや、人生こそ冒険だっ

て言うんですよ。スピルバーグはその台詞を言わせたかったん

だなァって……」

「人生こそ、冒険か……いいな」

「お腹は空きませんか?」

「そうね、少し」

「食堂車へ行きましょうよ。もっとアルコールも欲しいし」

「ええ、いいわ」

           ☆

「もうすぐ京都ですね」

「お話が楽しかったから、アッという間に時間が経ってしま

って……」

「……京都で降りませんか?」

「……」

「このまま、別れてしまいたくない」

「……愛してくださるってこと……?」

「あなたが、よければ……」

           ☆

「素敵だった……」

「はい、煙草」

「ありがとう。こうして愛し合ったあと、女性が火を点けた

煙草をくわえさせてもらうのが好きだから、煙草が止められ

ない」

「奥さん……煙草は……?」

「いや、吸わない……」

「何を考えてるの?」

「これは現実かなって……夢のようだ」

「次は、どんなドラマを書くの?」

「君を主役にしたドラマを書くよ」

「でも、私のこと何も知らないでしょ?」

「……もっと君のことが知りたい」

「知らない方がいいの……その方がミステリアスで……」

「君は、ほんとに独身?」

「さあ……」

「君は、ほんとに女優なの?」

「言ったでしょ。私は、人生というドラマを演じる女優な

の……」

「何も教えてくれないの?」

「たくさん喋ったからって、よく理解できるとは限らない

わ……二人で今、愛し合って心も身体も一緒になった。それ

がすべてよ。これ以上、何を知りたいの?」

「君は、言葉を信じないの?」

「そんなことないけど、言葉は裏切ることが多いでしょ……

無言の方が雄弁なことってあるわ……ドラマの中で作者のメッ

セージをストレートに言ってしまったら駄目だって言うでし

ょ……クライマックスは無言が最高だって……スピルバーグは

『フック』では、つい我慢できなくて喋らせてしまったの

ね」

「僕のドラマは台詞が長いんだ。理屈ぽいって、よく言われ

る……」

「思い切って台詞を短くしたら……1行の台詞で伝えられない

ものは、10行喋っても伝えられないわ……無言劇でもいい

……人間って、理屈だけでは解らないものでしょ?」

「君のことが、もっと知りたい」

「駄々っ子ね……ミステリアスな方がいいのよ」

「……僕は、恋をしてしまった……」

「お馬鹿さん……」

           ☆

「今度、いつ会える?」

「……私、あなたの奥さんに頼まれた興信所の調査員な

の……」

「何だって……」

「あなたが浮気をしているみたいだから、調べて欲しいっ

て……」

「嘘だッ!」

「その気配は、まったくなかったって報告しておくわ……私

たちは浮気じゃないでしょ。本気で愛し合ったんだか

ら……」

「……大阪までタクシーで送るよ」

「ここで、お別れしましょう」

「……君、連絡先は?」

「恋は長続きしないものよ……今日、子どもができていれ

ば、一生あなたに感謝するわ」

「君、ほんとに調査員なの?」

「何がほんとかなんて、誰にも簡単には解らないものよ……

言ったでしょ、私は女優よ。自分の人生というドラマを演じて

いるの。どんな役でもやるわ。調査員でも、貞淑な妻でも、娼

婦でも……」

「また、逢いたい……」

「舞台の上で、役者は孤独よ……誰も助けてくれない。自分

で自分の役をやり通すしかないの」

「君は、ほんとに何者なんだ?」

「あなたも頑張って、いいドラマを書いてね……」

「君の芝居、観に行くから……アッ! まだチケット、もら

ってなかった……」

「人生芝居はチケットなしよ……今日は、ありがとう……」

「教えてくれ! 僕は、どんなドラマを書けばいいんだ!」

「あなた自身の人生のドラマよ」

「君……」

「さよなら……」

「由紀ッー!」


                   END


シナリオの添削指導します

2006-11-07 12:06:24 | シナリオ
シナリオ作品の添削指導を行います。

400字詰め原稿用紙に換算して30枚前後(30分)の作品をメールで送ってください。詳しくはメールでお問い合わせください。

希望される方には、400字詰め60枚(1時間)の作品の添削指導も行います。

いずれも有料です。