遙かなる絆-ランナー第2回●
(1986年作品)地球防衛機構(EDO)シリーズ
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」
第2回
エジプト、カイロ郊外にある、エスパー研究所が、内発爆弾によって襲撃されたのは、2027年5月のことであった。
この攻撃は、超テロ集団死の天使フイダイの仕業と思われたが、詳細は不明である。
現場に到着した警官達は、あたりの惨状に我が目をうたがった。
内発爆弾は、その爆発が内部に向かい収斂するのである。
爆弾が投げ込まれたのはESP能力がまだ充分に発揮されていない子供達の訓練センターである。
肉片が凝縮されて、ころがっている。肉片と研究所内部の機械が奇妙な具合に絡み合っているのだ。
体育館の広さ程ある部屋に、ボーリングのボール大の肉片が数十個ころがっていた。おまけに焼けこげだ肉の匂いがした。
警官の一人は、嘔吐した。その時、その警官はある.一条の光線が建物の中を照らしているのに気づいた。
光線のあたっている所にうごめきがあった。生き残っている子供がいたのだ。
子供はまるで嬰児のように体をまるめていた。
警官は急いで、その子供をだきあげ、救急車に乗せた。
その時、光は消えていた。
彼は「光は、世界最古の建築といわれるギゼーのピラミッドの方から来ていたに違いない。
これは大いなる神の守護である」と報告書に書かかれた。
そのたった一人、助かったエスパーは、カイロ病院の特別病棟の中で、十年間眠り続けた。
彼は全く成長せず、幼ない姿のままで十年間すごした。
意識は戻ってこなかったが、生体活動はそのまま続いていた。
名前は、「マコト」という。
彼は血液検査等の生体検査によって、日系の孤児であると判断されていた。
ケロン戦役時、戦闘巡航艇が、月近くをまわっている外航植民船の残骸の中で彼マコトは発見されたのだ。
彼以外に生存者はなかった。
不思議なことに、外航植民船は、植民省のビッグコンコンピューターにはフアイルされていなかった。
それは2026年のことであった。そのマコトは、このエスパー研究所で育成中、事故にあったのだ。
■
「死体配達人」が、リッカート家を訪れたのは、2032年8月のことであった。
黒い礼服を着た死体配達人、正式名称、宇宙連邦軍軍員死亡連絡人である。
モニターテレビで芝生の上を歩いて来る死体配達人を見ていたヘルムの両親は、ひどく衝撃を受けた。
「まさか、私の息子が」ヘルムの母親はその場でくずれ落ちた。父親は気丈にまだ立っていたが、その足はふるえていた。
無表情な死体配達人は、玄関に出迎えたヘルムの父親に、静かに告げた。
「あなたの息子さん、地球連邦軍、『第62装甲機団装甲機兵、「ヘルム=リッカート曹長」は、2022年6月30日、土星環戦役でおなくなりになりました」
ここまで聞いて、気丈だった父親は膝をくずし床にへたりこんだ。
「ヘルムが 」 ’
非常にも死体配達人は、言葉を続けた。
「リッカートさん、しっかりして下さい。まだ話の続きがあるのです。軍団付属の医療船が、リッカート曹長の肉体の「一部」を収集したのです。我々のライフサイエンスを使って、彼を蘇生させることはできます」
「お願いします。どうかヘルムを生き返らして」
母親が、部屋から飛びだしてきて、死体配達人の前にひざまずいた。
「が、奥さん、元通りの人間体にはできないのです」
「人間ではない」
「サイボーグにならざるをえないのです」
「え、サイボーグ」
両親はお互いの顔を見合った。サイボーグ。この時代では、サイボーグは数多く存在している。が、
これまではリッカート家にとっては、サイボーグなど縁のない話であった。外の嵐が急にリッカート家に襲いかかってきたのだ。
ロボットのような冷たい肌。母親は生理的嫌悪感から身ぶるいをした。私の子供あのヘルムが、鋼鉄の体になるなんて!
死体配達人は母親の心を読んだようにいった。
「大丈夫です。奥さん、最近のライフサイエンスは進んでいます。
合成皮膚も、人の皮膚と比較してわからない程進んでいます。近づいてもほとんど人間と変わりありませんよ」
ヘルムの両親は相談し、サイボーグ手術をヘルムに受けさせることにした。
「幸運だったのは、ヘルム曹長の脳漿が、無事に回収されたことです。もしそうでなければ、我々はこういう提供をしなかったでしょう。
残酷なようですが、この提案に付け加えておかなければならない事があります。
サイボーグの手術には、莫大な金を必要とします,この金額は失礼ながら、一家の財産ではあがなえません」
「と、いいますと、ヘルムの体は」
「そうです。お分かりかもしれませんが、ヘルム曹長の体は、連邦軍「サイボーグ公社」の所有物となります。
彼がサイボーグとして仕事。ミッションを遂行する毎にそれに相応する金額が支払われ、それが手術料金に相当した時、晴れて自由の身になれるのです。
どんなタイプのサイボーグになるかによって、後々の給与が異なり、それだけ自由の身になるのも早くなるのです。
サイボーグのタイプは数千種類あります。このメニューから選んで下さい」
両親はしぶしぶながら、その差し出されたデイスプレイ「メニュー」表から、タイプを選び、サイボーグ公社への契約書にサインをした。
この時に、「ロード・ランナー」走り屋、ヘルムは誕生した。
(続く)20090501改定
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾
最新の画像[もっと見る]
- 東京地下道1949第2回■アメリカ軍占領軍情報部(OSS)乾公介は窓下、東京分断壁を見ている。彼にMGB(在日占領軍ソ連保安省)のエージェントからの地図入手失敗の報告が。 2年前
- 消滅の光景 第9回地球に向かう調査船エクスの中で、情報省のチヒロや超能力少女ラミーに守られて、カド博士は、地球での行方不明者の共通因子を探ろうとするが、祖先霊が邪魔をする。 2年前
- 東京地下道1949■第1回1949年 日本は敗戦、分割占領。トウキョウ市アメリカ軍占領地区。浮浪児が、男たちの争いをみる。少年はカバンとトカレフ挙銃を手に入れ。「竜」のアジトヘ向かう。 2年前
- 源義経黄金伝説■第72回■最終回★源義経の存在が日本の統一を可能とした。 源頼朝は日本全国に守護地頭を置く。律法の世、貴族の世である日本を、革命においこんだ。 2年前
- 源義経黄金伝説■第71回京都神護寺にて 西行の宿敵、文覚は巨木に向かう。 「天下落居(てんからっきょ)」の時。師匠の彫像を、弟子の夢見、今は「明恵(みょうえ)」は微笑んで眺めている。 2年前
- 「支配者たち」短編(ハーモナイザーBIGIN)世界樹ハーモナイザーが支配する宇宙、2人の宇宙飛行士の物語。 2年前
- 源義経黄金伝説■第70回鎌倉、大江広元の前に静の母親、磯禅師が現れて、秘密を打ちあける。その秘密とは、源義経の遺児は。 2年前
- 封印惑星)第12回■最終回 地球意志は大球(地球)と結ぶ小球(月)に、星の武器を集め自爆にアーヘブンを 巻きこむ。アーヘブンは新地球の創造をユニコーン、北の詩人、ゴーストトレインが実体化。 2年前
- 封印惑星)第11回アーヘブンは、「天宮」と対峙。「天宮」は、ハーモナイザーと同化を拒み、地球・思想本図書館とイメージコーダーの合成体が 破壊された。地球思想書が、粉々に吹き飛ぶ。 2年前
- 源義経黄金伝説■第69回鬼一方眼との死闘のため、頭や顔は朱に染まり、足取りもおぼつかぬ文覚は、大江広元屋敷の元を訪れている。 2年前