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アイランド■第2回

2018年02月18日 |  アイランド

アイランド■第2回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所


「コロラド、いい島じゃないか」
 「ああ、まあな」
 「とても、何人もの人間が住んでいたとは思えんな。おっと済まん。
この島の住民を殺してしまったのは結局お前だものな」
 コロラドの眼の中には炎が燃えあがっていただろう。そう、この
島の住民が死にたえたのは彼の罪だ。
クワノンの生体ミサイルは、その落下地帯直径二kmを無人化す

る。というよりはその地域に生存するありとあらゆる生命体を石化
した。人々でにぎわう花や緑の町が突如奇妙な石塊で被われた町と
なっていたのだ。まるで中世の魔法にかかった町の様だった。しか
しこれは動かしようのない事実だった。
 コロラドの妻や子供もこのクワノンの生体ミサイルで石化したの
だ。彼はまだその頃、サンチェス島に防禦システムSDIIを導入
していなかったのだ。
 フルカラーの映画が突然モノクロームの両面に変化した。そんな
感じだった。島の風景が変ったのだ。


 サンチェス島ポートサンチェスは石の町に変化したのだ。

クワノンの生体ミサイルが絶対防衛圈を突破し、スカイウォッチャーズの
網をやぶって、地球上の一点、サンチェス島に落下した。
そしてを石化し、1人の男の心をも、石に変化させてしまった。



無限の闇の中から襲ってくるやつらに、ビィーは親近感を持ち始
めていた。
ビィーは、とにかく孤独だった。ビィーが考える事とい
えば母親アリスママの事だった。

 『ママ、そう思いませんか。僕はこの孤独の中で、思い始めていま
す。彼らははるか遠い星から地球をめがけてくるのです。そして母
星に帰れることなぞないでしょう。また地球を攻撃し、それに成功
したところで、どんな栄光を担えるわけではないのです。つまり彼
らは、精神的な意味での、僕のブラザーではないかと」

 ビィーは、彼と同じ時期に生産されたバイオノイド個体群の中で
の、唯一大の生き残りだった。ビィーが、すでに精神に障害をおこ
していたとして何の不思議があるだろう。ビィーは再び考え始める。

 「ママ、僕はあなたに会いたい。一刻でも早く。どれ程、あなたに
会う事を望んでいるだろう。あなたは母であり、父です』

 ビィーはバイオノイド・マザーアリス3537から生まれ、宇宙
空間に投げ出された。孤独で、まるで地球から追いだされたような
気がした。ビィーたちは地球を、外敵クワノンから守るために作り
出されたバイオノイドの監視隊、「スカイウォッチャーズ」だ。

 この時期の遺伝工学は種々のバイオノイドを生みだしていた。彼
ら、スカイウォッチャーズは無限に続く宇宙の暗黒を日々続けるのだ。
 ビィーたちは意識が途切れる事もなく、休を休める事もない。彼
らスカイウォッチャーズの意識にあるのは、背後にある母なる地球
であり、彼らを生んだママなのだ。

 ビィーはまた考えている。

 『僕達がいるのは地球を守るためではなく、ましてや、地球人を守
るためでもないのだ。そうママ、僕達はあなたを守るために、この
宇宙という大いなる暗所にいる』

 敵クワノンは地球はるか彼方から生体ミサイルを地球に向けて発
射する。その飛来する生体ミサイルをいち早く発見し、処理するの
がビィーたちの役目だった。ミサイルを防ぐために、スカイウォッ
チャーズの一人が犠牲になる。ミサイルー発にスカイウォッチャー
ズー人。マン=トゥ=マンディフエンスである。

 いつ襲ってくるか分からないクワノンの生体ミサイル群。つまり、
いつスカイウォ。チャーズは死ぬかわからないわけだ。
ビィーは、飛来してくるクワノンの生体ミサイルをついに認知し
た。

 とうとう死ぬ時がやってきたのか。
ビィーは考えた。このクワノンの生体ミサイルと相打ちして死ぬこと。
それが彼らスカイウォッチャーズのアイデンティティだった。

 何の恐れもなかった。
ぐいぐいと迫り来るクワノンのミサイル。
それをがっちりと受けとめるだけだった。
その瞬間、彼らスカイウォッチャーズの体はわずか数ミクロンの薄さまで拡がって、
直径十mはある球形のミサイルを包み込み、その中でミサイルを爆発させ
るのだ。
その時、スカイウォッチャーズは石球と化す。

 ビィー遠のなきがら、石の球体が宇宙空間のあちこちにちらばっ
ている。ビィーは仲間たちの体をかいま見た。ああ、なるのか、僕
も。

 クワノンの生体ミサイルも、ビィー遠の様に、思考機能を持って
いるのだ。今までその事は何となくビィー遠にも分かっていた。ビ
ィー達バイオノイドと生体ミサイルはいわば同類なのだろう。が、
しかし残念な事に、彼らは、やはり敵なのだ。


よし、ビィーは待ちかまえていた。自分自身が消滅する瞬間、それは一体、どんな気持ちなのだろう。二つの個体がぶつかる。
 『こいつは違う』
ビィーは、生体ミサイルを包み込んだ瞬間、思った。
 「ビィー」ビィーの順に声が響く。
 『君、君はだれなんだ』


 ビィーは意識が混乱しながら叫んでいた。
こんなはずはないんだ。
生体ミサイルを包み込んだ瞬間、死んでしまうはずなんだから。
『僕は、もちろん、クワノンの生体ミサイルさ』
 『でも、なぜ、僕は石化しないんだ』
 「それは、僕が、ニュータイプだからだ」
 『ニュータイプだって』
 「そうさ、我々、クワノンは、君達、地球人類と同化する事にしたん
だ」
『同化するだと』

『クワノンの歴史学者が、つい最近、新発見したんだ。クワノンと地
球人類とが同じ種から発生したものだという事実をね」
 『そんな事は信じられない』

 『君が信じようと信じまいと僕の責任ではない。さあ、ビィー、僕を
地上に連れていってくれ』
 『地球上など、僕も行った事がない』
 「何だって 君は地球人類じゃないのか」
 「そうだ、僕はバイオノイド。細胞から発生された生物機械
なのだ」
 『それはこまった。我々クワノン人は、君達こそ、地球人類だと思っ
ていたのだ』
 しばらくの間、ビィーの頭の中へ流れ込むクワノンの思考が、とだ
えた。何を考えているのだろう。しかし、彼の言った事は本当なのだ
ろうか。クワノンと地球人類が同種だって。
 『ビィー、君の行きたいところはどこなんだ』
 またクワノンの意識がビィーの内に戻ってきた。
 『行きたいところ、だって地球の事なぞ…』
 ビィーは思った。そうだアリスママの所が…
 『ママの所か、わかった』

『えっ、なぜ、僕の心を』
『君と僕とはI心同体なのさ』
『いつから』
『いまのいまからさ』
『ま、待ってくれ』
ビィーの意識はとぎれた。


突然、アリスは目覚めた。何かが自分の内に落下して来た。そん
な衝撃を感じた。

 『ママ、ママ………』
 体の中から声が響いてくる。自分の体にある人工胎室からの様だ。
誰だろう。現在、アリスの体の中にはバイオノイドの原料など注入
されてはいなかった。

 アリスは窓の外を吃た。アリスはアリス=ファームにいる。地表
から数千mにあるこのザ=タワーからは青空が県える。地平線もく
っきりと見えるのだ。上空を臼`あげる。その青い空のもっと上空で、
アリスの子供達が戦っているのだ。何人の子供たちが死んでいった
のだろう。もうその数を数える事すらあきらめようとしていた。

 死んだ子供の霊だろうか。空耳。
そんな事はありえない。だって
私はバイオノイドの母なんだもの。
人間的な不確実な感情や感覚などあるわけはない。

『ママ、僕は帰ってきたんだ』
 が、しかし、その声は確かに存在していた。
「あなたは一体誰なの」
『ママ、僕はビイーだよ。宇宙から帰ってきたんだ』
 『僕を覚えているでしょう、ママ』

 『ああ、ビィー、私が、自分が生んだ子供達を忘れるわけがないで
しょう。私がいままでに生んだ230人の子供一人一人を、はっき
りと覚えているわ。でも、ビィー、どうやって私の胎室の中へもど
れたの』
『ママは、信じないと思うよ。でも本当なんだ』
『なに、ビィー、あなたの言う事をすべて信じるわ』
『僕は、この星の新人類となるんだ』
『何ですって

『おちついて聞いて下さい。アリスママ』
ビィーとは違う声の響きだ。
 『だれ、だれなの、あなた、ビィーではないわね』
 「いや私はビィーの一郎でもあるのです」

 『ビィーの一部ですって、一体どういう事なの、あなたがすべてを
説明してくれるというの』
『そういう事です』


 ザ=タワーの防禦システムに、レッドアラームがついていた。
 コンソールの前のオペレーターは自らの眼をうたがった。おいお
い冗談じゃないぜ。
 ザタワーの中に侵入者がいるなんて、不可能だ。おまけにアリ
スファームだ。
 が、オペレーターはマニュアル通り、報告せねばならない。
 地球連邦軍機動兵が、アリスフアームの前に集合する。
(続く)



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