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■ロボサムライ駆ける■第3章9

2005年09月30日 | SF小説と歴史小説

■ロボサムライ駆ける■第3章9
C)飛鳥京香・山田企画事務所
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■第3章  (9)
 それは巨大なガラス箱に見える。
 西日本都市連合の議場は、京都郊外にある新京都ドーム都市の中に造られていた。
 この議場全体は透明強化プラスチックフレビレンガラスのドームで覆われている。中から近畿の外界がよく見えた。西日本の各市を代表する代議員が、--各市の場合、市長が多いのだが、--その一人一人がこの議場に送り込まれていた。
 近畿新平野がフラットだけに、ドームからはすべての町々がよく見える。レザー光線がよく届くのだ。
 各議員は、丁髷の上にヘッドベルトを巻いている。その後半分にレザー光線集約装置がついている。レザー光線は各都市の市議会との連絡ができる。直接アクセスができるので、嘘の発言はできない。
 各都市の市章が、各々の羽織りに鮮やかに描かれている。
 各々武士階級の出身者が多い。がしかし、腰の大小は議会場内の持ち込みはご法度となっていた。
 いよいよ、全国都市会議が開催されたのだ。 が、いかんせん意見の一致するところは少ない。
 二十年前に起こった「霊戦争」の影響で、日本は東西に大きくわかれていた。ロボット奴隷制の西日本と、ロボット自由主義の東日本である。
 霊戦争のおり、東日本では人間が数多く亡くなり、社会のシステムとして、ロボットに人権を与えなければ立ち行かないエリアとなっていた。それゆえ、統一国家としての日本の態をとるのは非常に難しい。それは「霊戦争」以後、どの国も同じであった。
 落合レイモンは、東日本を代表してこの会議に出席している。
 東日本側の立場としては、統一を望んでいるのが事実だ。現在の関が原関所により人的交流、ロボット的交流が阻害している現在では、日本国家としての発達は望めなかった。加えて、レイモン、あるいは、徳川公国の徳川公廣にとって、心を曇らせているのは、ロセンデールの動きである。
 ロセンデールは神聖ゲルマン帝国の後援を受けて、日本へ来ている。
 神聖ゲルマン帝国は、日本が再び統一国家として国力を充実するのを望んでいない。極東の分裂国家として存在してもらう方が、有り難かった。つまり、支配しやすいと言う訳だ。

 落合レイモンは、議場で訴えていた。
「日本は、心柱(しんばしら)によって統一されるべきです」
「その心柱というのは、実際どこに存在するのだ」
 議場のあちこちから罵声が飛んでいた。レイモンは声をおとした。
「西日本の方々、真実を申し上げましょう。その場所はすでに発見されておるはずです」 レイモンの顔は自信に満ちている。レイモンのこの発言の後、会場は一瞬無言となり、それから蜂をつついた騒ぎとなった。人の頭があちこちしている。熱気がドームを包む。「どういうことだ」
「説明しろ」
 がなり声がつづいた。
 続けてレイモンは、指で指し示しながら
「西日本都市連合の議長、水野栄四郎殿がすべて、ご存じのはずだ」
 『議長団席』の一角に占める水野の方に、人々の眼が集まる。議員の一人が言った。
「本当ですか、水野様」
 水野は二メートルもある長身を急に立ち上がらせた。場内は水を打った静けさとなる。皆聞き耳をたてているのだ。
「諸君、落合レイモン殿の諌言に惑わされてはなりませぬ。レイモン殿は、我々西日本の纏まりを壊すためにこの会議に派遣されてきたのだ。我々が、その心柱を探すために何年かけてきたと思う。ここで説明しておこう。ロセンデール卿に心柱を探すことをお手伝いしていただいておるのは、卿が優れた霊能力者であり、かつて各国の心柱の幾つかを発見なさっておるからだ」
 水野は断固とした口調で、すべてを締めくくった。会場が落ち着く。が、再び、
「まて、水野殿。ロセンデール卿は各国の心柱を発見することによって、その国を神聖ゲルマン帝国の支配地にされなかったか。ロセンデール卿こそ、新しい帝国主義のまわしものであるこに、諸君は気がつかれぬのか」
 レイモンは言い切った。再び、爆弾発言である。
「誹謗だ。誹謗だ」
 議席のあちこちから声が上がり、レイモンに向かって人々がこぶしを振り上げ殺到してくる。議会はパニック状態になる。
「いかん、主水。レイモン様をお助けしろ」 夜叉丸は立ち上がった。議場の控室にいた主水の耳のレシバーから、レイモンの付け人夜叉丸の叫びが響いた。
「レイモン様を無事に議場から脱出させよ」「が、夜叉丸殿。議場警備員たちに任せた方がよいのではないか」
「馬鹿者。あの議場の暴徒の中に、ロボ忍が交じっておったらどうする。あやつら、レイモン様を誘拐し、心柱の利用にレイモン様の力を使うつもりだ。わたしの後に続け」
「道を開けろ」
 主水は叫んで、飛び出して行った。
「こやつは」議場の警備員が罵声をあげる。 議会は混乱状態だ。そこに主水が飛び込む。「ロボザムライだ」
「何、東日本のロボットが、人間の議場にいるじゃと」
 ロボザムライを目がけて、いろいろなものが飛び交う。まるでレスリング会場だ。主水は思わず左腰に手を当てる。が、刀はそこにない。「むっ、しまった」
(しまったのは、西日本の役人だが…)
 むろん、主水はムラマサを抜くわけにはいかない。西日本に入るとき、関が原で刀は預けさせられている。
 主水としては、立ち塞がる暴徒たちを当て身で倒していかねばならない。
 但し、人間に傷を負わせるとこの西日本エリアでは重罪となる。
 すばやくなぐりたおした人間が山となっている。レイモンのところへようやくたどりつく。
 数十人の人間に囲まれているレイモンは、まるで団子だ。主水は一人一人をレイモンからはぎとっていく。ようやくレイモンの顔が見えた。
「レイモン様、ともかくこの場をお離れください」
「おお、夜叉丸に主水か、助けにきてくれたか。どうも私の言葉は人気がないようじゃのう」
 レイモンは我と落ち着いている。
「主水、御前を連れて先に逃げてくれ」
「夜叉丸どのは……」
「私は、後ずめじゃ」
「こころえもうした」
「レイモン様、お体を持ち上げますぞ」
「わしの薬品混合タンクを忘れるなよ」
 一言付け加えるレイモン。
 主水は、レイモンの体を、薬品タンクつきで持ち上げ跳躍した。
「レイモンが逃げるぞ」数人がそれをとめようとする。
「待て、待て。おまえ達の相手は私だ」夜叉丸が名乗りをあげる。
「何物じゃ、お前は……」
「こおいうものじゃ……」
 数人の議員があっと言うまに床に倒されていた。
 その間に、主水は議席の背もたれの約十センチ幅の部分を、次々と跳びはねて、ようやく議会室外へ逃げ出していた。
 いまや、議場は「レイモンを追え」の罵声に満ちている。パニック状態である。
 ようやく議場外の回廊に出た。が、そこに男がいる。まったく唐突にその男は現れていた。蓬髪に、羽織りのロングコートで顔ははっきりわからぬ。
「レイモン、まて、売国奴め」
 男はナイフを手にしている。レイモンにぶち当たってくる。どうしてこの議会に武器が……
「いかん」
 主水はナイフの前に自らの身を投げた。
 が、その一瞬主水の持病が出た。その時精神が空白となる。主水の体は倒れる。主水の体重は並の重さではない。人間の三倍はあるのだ。
 ナイフを突き出す男の腕ごと、主水の体で圧しつぶしていた。
「ぐわっ」男の腕はボキボキと折れ、気を失う。
「なんと、レイモンの護衛ロボットが人間を傷つけたぞ」
 まわりの人々が走り寄る。
 警備員がようやく気付き走ってくる。
「何だと」
 人々は殺気立っている。
「待て、待ってくれ。この男はレイモン様を殺そうとしたのだ」
 再び意識を取り戻した主水は叫んでいる。「うそを申すな。その証拠がどこにある」
 口々に人は糾弾する。
「この男がナイフを…」
 が、男のつぶれた手には肝心のナイフがない。
「レイモン様、ご助言を」
 振り向いた主水。が、レイモンの姿も消えている。
 呆然とする主水。
「これは、一体……」
「ロボザムライめ、おとなしく捕縛されよ」「何をいうのじゃ」
 主水は戦う姿勢をみせた。こうなれば戦わざるを得ない。
「こやつは我々人間に刃向かうつもりじゃぞ」「死二三郎、狼藉者である。出番じゃ」
「ようし、我々も、究極兵器を使うのだ」
 議会の護衛が大声でどなる。回廊にジャーンと音が響く。
 廊下の床が割れ、そこから何かが急にが起き上がってきた。それは何と刀を持つ侍ロボットであった。
 ドラキュラかおまえはと思う主水。侍ロボットは、かっと眼を開く。
「おおう、久しぶりで、わしの出番か。ありがたし」
 声はかすれている。あまり、出番などないのであろう。
 そのロボットは、ブルーの着物をきて、髪は、後ろは束ね、前は垂らしている。曇った虚無的な眼差しをしている。体の大きさは、主水と同等である。主水の方をゆーるりと見る。
「貴公か。人間の命令を聞かぬロボットなど、生きながらえる意味なし、死にそうらえ」
 冷たい声音であった。
 恐るべき雰囲気がそのロボットから発されている。
 死二三郎は刀を構えるが、あることに気付く。
「うむ、貴公、東日本のロボザムライか」
「そうだといえばどうする」
 ニヤリと笑う死二三郎。
「ふふう、相手にとって不足なし。お相手されよ」
 主水に武器がないことに気付く。
「剣には剣でじゃ。剣を取られよ」
 そのロボットは、自分がはい出てきた床の下の収蔵庫から剣を取り出し、主水にその剣を投げる。
「かたじけない」
 主水は、剣を受け取ろうとした。主水に隙が生じている。
 そう言った瞬間、相手は動く。
「ぐっ」
 ごとりと何かがころがった。思わず、主水は右手で切り口を触る。
「ひきょうなり」
 主水の左腕が見事に切り離されていた。習練の早業である。痛みの感覚が後から、主水を襲ってきた。
「ひきょうという言葉は俺にはない。勝負がすべてじゃ。次なる剣は貴公の首か、あるいは右腕か、どちらか決められい。そのように料理してくれよう」
 この対峙する死二三郎は主水があったロポザムライの中で、一番の使い手だった。
「まて、死二三郎。そやつには聞きたいことがある。死に至らしめるな」
 護衛がまわりから遠く離れて叫んでいる。誰も危険なところには近づきたくないのである。
 死二三郎は、主水に視線を置きながら、護衛たちの方へ怒鳴っている。
「お言葉でございますが、ロボザムライにはロボザムライの義というものがござる。ここは義に免じていただきたい。剣の敵に助けられたとあっては、武士としての面目が潰れ申す。我が手で、このロボザムライ死に際をきれいにいたし申す」
「ならぬ、死二三郎。命令である。このロボザムライを助けよ、さがれ」
 護衛は呼ばわった。
「死二三郎殿とやら、拙者も生き恥をさらしとうはない。どうか一刀のもとに貴殿の手で」と主水はつぶやきながら、チャンスを見ている。こやつには狂人の論理で立ち向かわねば。こやつは剣のことしか考えておらぬロボットだ。
「お覚悟されよ、そういえばお名前を聞いておらなんだな。何と申されるのだ」
「拙者、早乙女主水。徳川家直参旗本ロボット」
「おお、貴殿が噂に高い主水殿か。相手にとって不足はない。さらにお覚悟召されよ」
「死二三郎、待て」
 護衛全員が叫ぶ。切りかかろうとする死二三郎。
 その一瞬、天井から電磁網が死二三郎の体を襲う。電磁網は魚をとらえる投網のようなものである。魚のかわりに、ロボットだ。死二三郎は黒焦げになって倒れる。議会護衛がいいことを聞かぬ死二三郎を処分したのだ。「こやつは狂犬か」
 護衛の一人が倒れている死二三郎の体を蹴る。
「いいや、狂犬より始末に悪い」
「だから申したであろう。気違いに刃物。ロボットに刃物と」
 護衛同志の会話である。
 左腕を失った主水は、まだ戦う姿勢を見せていた。
「ええい、このロボットもからめとれい」
 電磁網が天井から降りてくる。
 電撃が主水の体を走る。
「いかん、わしも魚か」
 主水の意識がフェイドアウトした。


(続く)
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