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義経黄金伝説●第5回

2005年01月01日 | SF小説と歴史小説
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■義経黄金伝説■第5回 
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(C)飛鳥京香・山田博一
http://www.geocities.jp/manga_ka2002/
第1章6 一一八六年(文治2年) 鎌倉
■■一一八六年(文治2年) 四月七日。鎌倉。静の舞前

 静かの母、白拍子の創始者磯の禅師(いそのぜんじ)
が頼朝の御台所、北条
政子(ほうじょうまさこ)に呼ばれている。
「よろしいか、禅師殿。このたびの静(しずか)殿の舞
にて、頼朝殿の心決ま
りましょうぞ」
「舞とは…」
 禅師は、娘の静とは、しばらくの間会っていなかった
。いや会えるはずがな
かった。静は義経の行方を調べるために、獄につなぎお
かれたのだ。
「その舞に頼朝殿への恭順の意を表されれば、頼朝殿も
お考え改めましょう。
それに私が内々のうちに、静殿の和子生かす手立て考え
ましょう」
「ありがとうございます。このご恩、決して忘れませぬ

 禅師はまた床に、はいつくばった。その頭上から政子
の冷たい声が聞こえ
た。
「よろしいか、宮中への事、大姫のこと、くれぐれも…

「わかりました」
禅師は深々と頭をさげた。
■■
一一八六年(文治2年) 四月八日鎌倉。静の舞当日 
その思いにふける禅師の前で、ようやく静の舞は終わり
、舞台の袖にいる禅師
の方へ戻って来るのが見えた。
 磯禅師が静を問い詰める。「静、なぜお前は、この母
の言うことを聞けぬ
か」 激しい口調である。
「母上、私はあの義経様に愛された女でございます。私
にも誇りがございま
す」
「義経殿の和子を、危険な目にあわせても、私の言葉を
きかぬのか」
「それは……」
静は言葉に詰まり、涙ぐんでいた。
「もう、いかぬ。残る手だてはあの方か……」
 禅師は、期待するような眼差しで、観客席の方を見や
る。頼朝と政子は退席
しようとしていた。頼朝の怒りが、禅師には手に取るよ
うにわかった。諸公の
前で、笑い者にされたのである。頼朝はプライドの高い
男なのだ。それがあの
ような形で…。

■■一一八六年(文治2年) 四月七日。鎌倉。静の舞前

 政子を訪れた同日、磯禅師は大江広元(おおえひろも
と)屋敷を訪れてい
る。
「よろしい、広元の一存じゃが、禅師殿、静殿の生まれ
た和子、私に手渡して
くれ」
「和子をどうなさるおつもりですか」
「よいか、義経殿、すでにもう平泉に入っているやもし
れん。秀衡殿と示し合
わせ義経殿が、この鎌倉へ軍を進めたときの人質に、そ
の静殿の和子がなろ
う」
「和子を人質になさる……」
 禅師の顔色が変わっていた。そのような、人質だと。
「どうした、我が処置に不満か」
 広元は強気で禅師を追い込む。広元としては、万全の
方策をとっておきたか
ったのである。今や、鎌倉の中枢は広元が握っている。
「いえ、そのようなこと」
 禅師は、ここは広元の話に乗って置く方が善策と考え
た。
「よろしいか、禅師殿、和子を助けるだけでも、ありが
たいと思い下されよ」
と、広元は押し付けがましく言う。が、その時、禅師は
、別の人物に話す言葉
を考えていた。

■■一一八六年(文治2年) 四月七日。鎌倉。静の舞前

同日、磯禅師は、源頼朝と関係深い勧進僧(かんじんそ
う)文覚(もんがく)
の前にいる。
「文覚殿、お願い申し上げます。どうぞ義経殿の和子生
き残れますよう、お
力をお貸しください」
「禅師殿、わかり申した。この文覚、いささか頼朝殿と
は浅からぬ縁がござ
る。この伊豆に源氏の旗をあげさせ、決起するもとを作
ったのは拙僧でござ
る。まかされよ、頼朝殿の心を反してみましょうぞ」
「よい話でありがとうございます」
 禅師と文覚がふと目が会う。お互いが、今の言葉から
おこる出来事を考えて
いるのだ。

■■一一八六年(文治2年)四月八日。鎌倉。静の舞当日
「大姫(おおひめ)様、あなた様のお気持ち、この静は
わかります」
静は舞いの後、大姫の前に呼ばれている。
「まて、姫のおん前であるぞ。直接お話を申し上げると
は何事だ」
 警備の武士が静を引き離そうとする。
「よい、静の好きにさせるがよい。それが大姫がためじ
ゃ」
 政子が許しを出した。
「大姫様、志水冠者(しろうかじゃ)様のこと、それほ
どお思いでございまし
たか」
 志水冠者は木曽義仲(きそよしなか)の息子であり、
頼朝の命で殺されてい
た。
 志水冠者の名が静の口から上ると、大姫の嘆きは一層
激しくなるのだった。
「わかります。大姫様、お泣きなされ。それしか、方法
はございますまい。こ
の私とて、義経様には恐らく二度と会うことなどできま
すまい。いっそ死んで
しまいたいくらいです。が、私には、義経様の和子の命
が宿っております」
■■
「禅師殿、お願いじゃ」
「これは政子様。何かこの静が」
 政子は舞の日の夕刻、密かに禅師のもとを尋ねて来た
のである。
「静殿の舞いを、今一度見せてはくださらぬか」
「政子様、それはお許しください。そんなことを繰り返
せば、頼朝様の怒りが
増すばかりでございます」
「いや、そうではない。この政子の娘、大姫一人のため
に踊ってほしいので
す」
「大姫様のため、一体何のためでございます」
「この子気鬱を晴らしてやりたいのじゃ。のう、禅師殿
も母親ならば、おわか
りであろう。娘を思う親の気持ちが」
 結局、大姫一人のために、静は政子の別棟で舞うこと
になった。
「しずやしず、しずのおだまき繰り返し…」
 その静の踊りを見て、大姫は泣き崩れたのである。静
はすぐさま大姫の前に
跪いていた。
「静、それ以上しゃべるでない」
禅師が止めた。
「いえ、言わせてください、お母様」「よい。話されよ
、静殿」
「私は頼朝の手にありましても、常に義経様と一緒なの
でございます。義経様
と二度と会うことはできなくても、私はこれからの一生
、義経様を愛し続けま
す」
「お前は何ということを」
禅師が絶句する。
「静殿」
かぼそい声で、大姫が初めて口を開いた。まだ13歳のあ
どけなさが残る。が、
すでに婚約者を殺されている。心の傷は大きい。
「この世で、初めて、友を得たような気がします」
「ありがたい、お言葉でございます、大姫様、、、、」
 二人の女性は、お互いに手を取り合って、泣き崩れる

 そばにいる二人の母親も、その光景を目にして、しば
し言葉がでない。やが
て政子が口を開いた。表情が変わっている。
「禅師殿、私は心を決めました」
「はい」
「この政子がお約束いたしましょう。必ずや、静の子供
を助けると」
「政子様、そのお言葉、ありがとうござります。力強ご
ざいます」
禅師は「京都」ばかりでなく、「鎌倉」も手に入れてい
た。
(続く)
(C)飛鳥京香・山田博一
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