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源義経黄金伝説■第53回★

2013年10月13日 | 源義経黄金伝説
源義経黄金伝説■第53回★
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
Manga Agency山田企画事務所
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■ 1189年(文治五年)   
 平泉ちかく北上川の川縁にいる西行が、小船を用意している吉次の方に向って言った。

「さて、吉次殿。義経殿の逃げ先、よろしくお願いいたします」
「わかりました。すべておまかせを。して静殿は、いかがいたします」

「吉次殿、この手配りは、静殿には話していない。供を付けて京都に帰って
いただくか」
「わたしもそのほうがよいと考えます……」
吉次も首肯した。静は気を失って倒れている、
遠くやけくすぶる高殿、義経屋敷跡の煙が巻きあがっている…。

 二日後、北上川の船上に、ゆったりとすわっている義経がいた。
 吉次が姿を見せる。気付いた義経が話しかける。
「のう、吉次殿、十五年前もお主の船で、だったな」
「さようでございますなあ。なつかしい限りでござます」

 吉次は、遠くを見透かすような目をする。
「あの折りは、ものもわからぬまま、お主に連れられ、摂津大浦(尼崎)から多賀城まで一航海じゃった。が、あの頃の俺は、意気に燃えておった」

「何をおっしゃいます、義経様。これから、まだまだでございます。これからの行き先、蝦夷には、新天地が待っていましょうぞ」
義経にとって平泉は新世界であったが、まだ、その先の新世界へ行こうという
のだ。

「吉次殿、お前もあの頃に比べると、偉くおなりだな」
「あの仕事で、私に運が開けました。お陰様であの縁で、藤原秀衡様にかわいがっていただき、このような身代が築けました」
「ああ、そうか、すべては西行法師殿のお陰だなあ」
「さようです。西行様のお陰でございます」
「残念ながら、私は西行殿の役には立てなんだ」
 義経はすこし寂しそうな顔をした。

「西行様の思いとは…」
「あの平泉を、第二の京都、陰都とするとする事じゃ。そして崇徳上皇をお祭りする事だ。平泉王国を、北のそなえとして仏教王国として、平和郷を作ることだった。その将軍が私だ。また、主上を、平泉お招きするという案だ。この企みは、後白河法皇も気に入っておられたのだ」

「仏教の平和郷ですか。もう、それもこの日本にはございますまい。すべては鎌倉殿の思いのままになりましょう」
「藤原泰衡殿が、兄上頼朝殿と何とかうまくやってくれればよいが」
「それは、やはり、むつかしゅうございましょう」
吉次は冷たく突き放した。

北上川の水面も寒々と、月光をあびて澄み渡っている。



「なに、義経、自刀したとな」
京都の後白河法皇がうめいた。
「今、多賀城国府より知らせが入りました」
藤原(九条)兼実が答えた。

「しかたがないのう。後は頼朝が動き注意せねばなあ。ところで、義経が家
来、皆、討ち死にいたしたか」
後白河が、兼実に不安げに尋ねた。
 後白河の顔色を見て、藤原兼実が意地悪く尋ねる。
「院がお気になさっているのは、弁慶の事でございましょう」
兼実は、うれしげに返事を待っていた

「そうだ、あやつは朕が手先。が、途中で義経に寝返ってしまいよった。せ
っかく熊野の山で見つけた、朕がための闇法師だったのだが」
「さようでございましたな。院が熊野へ参拝なさったのも、もう三十回になり
ましょうかや」
「そうなのだ。弁慶は十度目の熊野参拝の折り、朕が、眼につけたのだ」
後白河はそのおりを思い返すように言った。

 この時期、蟻の熊野詣といわれるくらいに、熊野詣は流行っていた。我も我もと、皇族や貴族が和歌山の熊野に詣でるのである。京都から淀川をくだり、渡辺津から泉州をぬけて…

熊野は旧き日本の時から、1つの王国勢力であり無視できぬ。それゆえ、特別
の配慮が行われている。熊野三社は伊勢神宮と同格とされている。大和朝廷統一以前の勢力がいまでも残滓として残っている。山伏もこの地域を勢力範囲とした。

当時の海の交通には熊野の海商が、海の侍が大きな役割を果たしている。
熊野三社の供御人(くごにんー神社に属する人間)が、遠く奥州まで船を運んでにぎわっている。

熊野、伊勢の回船や船人をいかに把握するかが、この時期の日本の支配者には是非とも必要であった、山伏もまた、この時期の日本にひとつの勢力である、が、源頼朝と大江広元は、日本全国に守護地頭という制度をつくり、板東のご家人を送り込む事により統一しょうとした。

 十度目かの後白河法皇の熊野巡幸。その折りに山法師が後白河法皇の宿所に願を願っていた。
「殿下、弁慶とか申す山法師、ぜひともお目にかかりたいと申しております」
「どんな奴だ」
「いや、それは化け物のような…」
「化け物のようだと、おもしろい」
「朕が会ってみようかのう」
「お止めください。危のうございます」

その返事の前に、向こうで騒ぎが興り、何かが法皇の前に飛び出して来
ていた。雑色を振り切り、弁慶が雑色たちの人垣を跳躍して来たのである。恐るべき膂力であった。

「私が、その化け物の弁慶でございます」
 悪びれずに、その大男は言う。後白河は思わずたじろいでいたが、

「くはは、お主が弁慶か。ふふふ、おもしろい奴よのう」
 が、一瞬、後白河は、弁慶の顔に何かを見たようだった。
「いかがなされました、法皇様」
「いや、何でもないのじゃ。汗が目に入ってのう」後白河は顔をつるりとなでた。
「それでは、私の考え、お聞きください」
 護衛の武士が追いついて来た。
「恐れ多いぞ、何者ぞ。主上の前なるぞ。いかがいたした」
「よいよい、しゃべらせてやれ」
「よろしゅうございますか。法皇様、この世の中は、断じて間違ごうてございます」
「何をぬかす」
「よいよい、しゃべらせてやれ」」
「平家がごとき世の中を支配するとは、必ず法皇様、天を御所に取り戻してく
ださいませ。これらは我らが願いにございます」
「我らだと、我らとは誰だ」
「我々、山法師でございます」
「ほほう、気にいったぞ。ふふふ、お主の心根、面構え、名は何と申す」
「はっ、武蔵坊弁慶と申します」
「弁慶とやら、朕の闇法師を申し付けるぞ」
 ちらりと後白河は笑ったように見えた。が、弁慶は
「ありがたき幸せ」

 と深々と頭を下げているので、その表情が見えない。
「して、お主の母、ご鶴女殿は息災か」
「法皇さま、わたしの母親の名前をなぜご存じですか…」
「うむ、昔あったことがな、あるのだ」

20131013(続く)
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