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古今東西のアートのお話をしよう

小説 命売ります 三島由紀夫

三島由紀夫のエンタメ小説ブログ第二弾、『命売ります』1963年

『肉体の学校』1963年、は女性誌“マドモアゼル”への連載
『命売ります』は男性誌“週刊プレイボーイ”1968年5月21日号ー10月8日号(全21回)への連載


あらすじは、

目覚めたのは病院だった、まだ生きていた。 必要とも思えない命、これを売ろうと新聞広告に出したところ......。
危険な目にあううちに、ふいに恐怖の念におそわれた。 死 にたくないー。
三島の考える命とは? 解説 種村季弘
』文庫本背表紙より



自殺に失敗した27歳の“羽仁男(はにお)”は、コピーライターとして勤務する広告代理店を辞め、『三流新聞の求職欄に、次のような広告を出した。 「命売ります。お好きな目的にお使い下さい。当方、二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑おかけしません」 そしてアパートの住所をつけておき、自室のドアには、 「ライフ・フォア・セイル 山田羽仁男」 と洒落たレタリングをした紙を貼った。


自殺の理由をしいてあげると、

・・新聞を拾い上げ、さっきから読んでいたページをテーブルに置 いて、拾ったページへ目をとおした。すると読もうとする活字がみんなゴキブリになっ てしまう。読もうとすると、その活字が、いやにテラテラした赤黒い背中を見せて逃げ てしまう。』エクリチュール(書かれたもの)は、一つの場所に留まらず、色んなところに流れ出し、解釈、誤解という相対的なものである。生業とする“文章”は絶対的なものではない。『ああ、世の中はこんな仕組みになってるんだ』と気づく。『わかったら、むしょうに死にたくなってしまったのである。



命を買う“男”と“女”、モテまくる“羽仁男”、謎の秘密結社、吸血鬼、淫乱女などワンダーランドな世界のハードボイルド小説



当時の日本は、1964年の“東京オリンピック”が終り、高度成長期の高揚感と虚無感が入り混じり、政治的には安保闘争と東西冷戦の緊張は続いていた


当時の映画は、この頃の時代の空気を反映している



日本一の男の中の男 1967年
主演 植木等、浅丘ルリ子

無責任シリーズ、日本一シリーズが絶好調、無責任で、明るく、軽く、モテまくり、出世もとげる
植木等、クレージー大好きです



殺人狂時代 岡本喜八監督 1967年
主演 仲代達矢、団令子

人口調整のために無駄と判断した人間を秘密裏に殺す秘密結社「大日本人口調整審議会」の首領はナチスの元同士、ブラックユーモア満載の荒唐無稽なハードボイルド
岡本喜八監督は、同年に、「日本のいちばん長い日」もリリースしている


日本のいちばん長い日 
岡本喜八監督 1967年
終戦の玉音放送をめぐる長い一日
主演 三船敏郎

どちらも素晴らしい作品です


当時の三島は、〈文士が政治的行動に足をすくわれる〉という、自身の〈危険〉を自覚していた三島は、それを凌駕する〈本物の楽天主義〉〈どんな希望的観測とも縁もない楽天主義〉がやって来ることを期待し、〈私は私が、森の鍛冶屋のやうに、楽天的でありつづけることを心から望む〉心境でもあった。』と書いている。
『われら』からの遁走ー私の文学 1966年3月より


『命売ります』1968年当時の日本は、経済成長は継続し、皆が楽天的な気分の一方、安保闘争、世界では東西冷戦の対立構造は変わっていない。

三島由紀夫は、自衛隊に体験入隊し、その後の「楯の会」の中心となる早稲田の学生、森田必勝と出会う

『奔馬』の連載開始、『葉隠入門』『文化防衛論』を発表し、「楯の会」を結成する。


そして、1970年11月25日日の三島事件に至る。



自殺に失敗した“羽仁男”は、三島由紀夫の当時の揺れ動く心境を反映しているのだろう、“羽仁男”の命を買う、学生服の少年“薫”は「森田必勝」なのではないか。

死を恐れない“羽仁男”は、後半では捨てたはずの生を渇望する。



ドイツ文学者・評論家の種村季弘は、文庫本の解説 三島由紀夫の全能と無能の最後を、

『ここには主人公羽仁男のそれよりは、小説家三島由紀夫その人の生身の魂の告白が、あからさまに吐露されているように思えてならないのである。』と結んでいる。



自殺に失敗した“羽仁男”の命を買う“男”と“女”、モテまくる“羽仁男”、謎の秘密結社、吸血鬼、ニンフォマニアなどワンダーランドな世界のハードボイルド小説は、村上春樹の小説を思わせる。村上春樹は三島由紀夫の『命売ります』に影響を受けたのでは?


★★★★☆


村上春樹好きにもお勧めします





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