並木たより

写真付き日記

福島第一原発の本当のリスク

2011-04-10 02:25:51 | 日記・エッセイ・コラム

                       2011 年4 月8日(金)  清水基夫(末尾に略歴)

東日本大震災では、犠牲になった方々、また家族や家そして職場を失うなどの被害を受けられた多数の被災者の方々には心から哀悼と同情の意を表します。一月近い時間が経っても、日々の報道には、涙がにじみます。また、被災地そして東電の原発でご苦労されている方々には、深く敬意を表するものです。

1.余震のリスク

? 関東大震災級の大規模余震の可能性がある。
? 現状の福島第一原発は、過去の地震、津波、水素爆発、炉心溶融等のダメジにより巨大余震に耐えられるか疑問が大きい。
? 原子炉圧力容器等の破損は1 カ所でも起きれば、全系を放棄せざるを得ない。
? その結果、福島県全域が機能停止に陥る。これは東日本全体に大打撃となる。

3 月11 日から丁度4 週間が経過したいま、世間は少しづつ落ち着く方向が見えだしていますが、よく考えると震災の本当のリスクは未だ終わっていません。特に福島第一原発については、世間が考える以上の、はるかに巨大なリスクを抱えたままです。
それは、関東大震災(M7.9、10m の津波)に匹敵する巨大な余震の可能性が残されていること、そして、そのときに現状の福島第一原発が耐えられるかと言うことです。
具体的に整理すると
(1)東日本大震災(M9)の余震として、M8クラスの大地震が高い確率で予想される。(平均的に最大余震の規模は本震に比べマグニチュードで1.1-1.2 低い。従って今回はM7.8-7.9 の可能性がある。)
(2)発生するとすれば、時期はおそらく4 月中旬から5 月末の可能性が高い。
(3)もちろん震源は全く予測が付かないが、本震で壊れ残ったプレート境界と考えると、本震域の周辺で、青森沖か茨城沖などの可能性がある。
(4)福島第一原発は、地震、津波、水蒸気爆発、海水の大量放水、炉心溶融による超高温などの大量かつ極度のダメージを受けている。こうしたダメージは設計時に全く予測されていない。
(5)従って、いまM8 クラスの地震が福島に近い場所で発生し、震度が6-7 などとなった場合に、福島第一原発の1~4号機が耐えられない可能性がある。(津波を考えなくても)直下型などの場合、もっと小さい地震でも、震度が大きければ結果は同じ。
(6)破損の形態のうち深刻なものは、主要なパイプ等の脱落、原子炉圧力容器の破損、原子炉圧力容器の倒壊、使用済み燃料保管プールの崩壊などで、1~4 号機の何れか一つでもこれらが発生した場合、原発全体のコントロールが不能になる可能性がある。
(7)上記が発生した場合、様々な被害レベルが考えられるが、軽い場合でも福島県全域の機能停止、東北と関東の分断など極めて深刻な事態が考え得る。(郡山は約55km、福島市は約60km)
気象庁は「震度5 以上の余震の可能性がある」という発表をしていますが、殆どの人には震度5 は既に耳慣れてしまい、あまり気にもにもとめません。しかし、現実には関東大震災クラスの巨大地震と津波(10m?)の可能性があるのです。
私は宇宙システムなどのプロジェクトの現場の経験はありますが、地震や原子力の専門家ではなく、これらの技術的判断は出来ません。従って、本件は巨大なリスクに対する警鐘であって、(1)~(3)は地震研究者の詳しい分析を、(4)~(6)は原子炉工学者の分析と判断を、(7)は放射線学の研究者と政府の判断が必要です。
改めて強調しますが、巨大な余震の発生はかなり確率が高いと言うだけで、確実に、まして福島の近くで必ず起きるというわけではありません。あくまでもその可能性があると言うことであり、地震に関する大森の法則、バースの法則、グーテンベルク・リヒターの法則という経験則から確率的に予測されるだけです。(いわば人智の及ばぬ神の領域です。)

2.危機を乗り越える努力

危機を乗り越えるためには、以下が重要
? 当面、4 つの炉の冷却系の一刻も早い機能回復が重要。(ただし、現在の東電トップマネジメントには、その遂行能力がない事は明らか。)
? 東電のトップマネジメント体制の一新
? 国全体の体制整備(体制簡素化を含め即応体制)と国内外の全面支援体制の構築

震度計、防災無線など防災システムがかなり失われていることもあり、巨大余震は何処で起きても大変な事態です。とりわけ(7)の様な状況が起きれば、福島県はもとより、東日本に壊滅的な打撃を与え、日本全体に社会的・経済的に極めて深刻な打撃を与えます。
この危機を逃れる方法は、誰にも判りません。しかし、少なくとも4 つの炉の冷却機能の一刻も早い回復が、唯一期待される方法なことは明らかです。残念ながら、これに対しては現場の献身的努力にもかかわらず、4 週間を経過して実現の見通しがありません。この間、私はある経緯から、原発の対策行動を注目し続けてきましたが、東電のトップマネジメントレベルの著しい失態が続き、貴重な日時を浪費し、国際的な信用も失墜させました。おかしなことに、日本の報道機関はそのことを、大相撲の八百長問題ほどにも問題視していません。これについては、別稿で具体的にご報告しましょう。一つだけ象徴的な例を言えば、国家的に大迷惑をかけている会社の社長が全く顔を見せない無責任を責めず、あまつさえ「本社で“陣頭指揮”を執っている」などと言い訳をされて納得してしまうのはどういうことでしょう。失笑ものです。
政府も結果責任を問われますが、現在の原子炉というハードに関する事態を収拾できるのは、
直接的には原子炉を建設・運営する技術をもち、これを統括する経営的・技術的なマネジメントです。従って、本件は第一義的には東電に解決の気概と責任を持ってもらう必要があります。
(複雑な原子力災害の技術的な意味での収拾について、素人の政治家より劣るとすれば、世界最大の電力会社の経営者の資格はありません。)
ただし、東電の経営体制は直ちに一新されるべきと思いますが、日本が危機を乗り越えるために、東電の行動には全面的な支援が必要であることは、改めて強調しておきます。そして、リスク回避へ国全体の体制を整えること、国内・海外を問わない、必要とする全ての技術的支援を集めることが重要です。これは政治の役割です。(体制整備は,体制簡素化による迅速化を含む)
本稿のごとく危機を煽るような意見は、社会の混乱やパニックを招きかねません。もし巨大余震が発生しなかったら、それは幸いですが、逆に厳しく批判される可能性が大きいでしょう。
巨大余震と原発の脆弱性については、政府はごく婉曲な形で先行きの厳しさを示しています。
ただ、社会的な混乱を考えると、政府の立場では見通しも無く軽々に発表するわけにはいかないことも理解できます。しかし、リスクを知らずに不意打ちを受ける損害と、事前のパニック現象とを比べたとき、不意打ちの方が遙かに悲惨であると、私は考えます。不意打ちの場合は、途方もない事後のパニックの可能性もあります。既に多大な被害を受けている被災地に、更なる負担を要請することになりますが、ここで冷静な行動が出来るか否かは日本の未来にとって死活的です。小さなことですが、本件を明らかにすべきか否か、過去10 日間、眠れない夜を過ごしてきました。報道機関による発表も模索しましたが、残された時間がせまり、余計なお節介かと危惧しつつ、このブログの形を取ることとしました。
ご理解をお願いするとともに、各位の冷静なご判断を切望します。
(清水基夫)

清水基夫(略歴)
1987 年東京大学工学部精密機械工学科卒業:金属破壊メカニズムの研究を専攻
1969 年東京大学大学院修士修了(精密機械工学)
同年NEC 入社、光通信(光ファイバー、衛星間)の技術開発に従事、宇宙開発プログラ
ム関係の各種プロジェクトマネジャーを経験。
宇宙開発事業部長代理、宇宙ステーションシステム本部長、無線事業本部主席技師長
などを経て
2001 年名古屋工業大学大学院教授(システムマネジメント工学、プロジェクトマネジメント)
同大学副学長兼任(2004-2006 年)
2008 年同大学定年退職、(財)名古屋産業技術研究所研究部上席研究員
2009 年日本工業大学専門職大学院教授(技術経営研究科)
原子力関係は専門ではないが、米国TVA社の原発の光ネットワーク建設工事に従事、原研JT-60
(核融合研究炉)のプラズマ密度計測システム関係の副プロマネ、後にプロマネなど。
著書:「実践プロジェクト&プログラムマネジメント」(日本能率協会マネジメントセンター)