中国シンセン☆で踊る

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携帯電話は微笑む

2007年07月07日 | 茶餐廰

気がつくと男が前の席に座っていた。

相席するほど店内は混んではいなかった。

変だとは思ったが気にも留めないでいた。

僕は一瞥すると、またお粥を食べはじめた。

 

男は向かいのベンチシートの端っこに、

いつでも動き出せそうなかっこうで座っていた。

視線は宙に浮いていたまま僕の肩越しをさまよっていた。

 

我々の席は丁度どこからも死角になっていた。

僕は座っている場所をずらすと、

置いてあるバックを壁と体で強くはさんだ。

前ポケットの携帯電話に触れ確かめた。

財布の入っている後ろポケットのボタンをゆっくりはめた。

そして、武器になる物は無いかとあたりを見回した。

 

店内には朝のテレビニュースの広東語が響き渡っている。

 

やがて男は急にこちらに顔を向け微笑んだ。

内側に返した手のひらには真新しい携帯電話が光っていた。

「××××?」

広東語だった。

僕は要らないと手を振った。

「××××?」

繰り返した。

僕は無視した。

 

 

明け方振った雨で道路はまだ濡れていた。

空気はいつもより澄んでいるようだった。

店を出ると白タクのおっさんが視線を合わせ微笑んだ。

 

それはつい今しがた見た微笑によく似ていた。

 

 

 



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