ヲノサトル責任編集・渋東ジャーナル 改

音楽家 ヲノサトル のブログ

シコふんじゃった。

2009年07月30日 | 映画/映像


先週の講義が事故の処理で潰れたので、今日は『映像論B』補講。半期授業なのでこれが最後の講義だ。

もとより出席は取らない主義だし、レポート課題も終わっているので、成績評価的にはバックレたって問題ないはずだが、思いのほか出席率が良くて嬉しかった。今日のように上天気な真夏日の真っ昼間に、海にも街にもくり出さずに暗い大学のホールで映画なんか観ようっていう学生の皆さんのヲタクっぷりを、ここに賞賛しておきたい(笑)

『シコふんじゃった。』
1992年 周防正行監督




前回は『A』そしてその前は『[Focus]』(と『食人族』!)という問題作の連続だったので、最後ぐらい明るく後味良く終わろうという趣向で、この映画を選んだ。

周防正行監督の作品では、大ヒット作『Shall We ダンス?』の方がダンスも音楽もあってゴージャスだし良いかとも思ったけれど、あちらは就職もして結婚なんかもして歳をとってから見た方が共鳴できると思うので、ま、10年後の「宿題」ということにして。今日は学生にとっての同世代を描いた、こちらの映画。

しかし本作も『Shall We ダンス?』で発揮されたウェルメイドな映画術は冴えまくっていて、ぼくのようにほとんど相撲の知識がないような人間をもグイグイとひきつけてくれてくれる快作。同監督の最新作『それでもぼくはやってない』のように社会や時事問題に踏み込んだ作品ではないけれど、それだけに、時代を超えて楽しめる青春映画となっている。

ストーリーは「へたれチームが奮起して最後には優勝」というお約束な展開で、いわゆる典型的スポーツ映画だ。『ウォーターボーイズ』とか、タイ映画『アタック・ナンバーハーフ』とか、古くはテイタム・オニールが少女投手に扮した『がんばれ!ベアーズ』とか、ポール・ニューマンのホッケー映画『スラップ・ショット』とか。あのパターンです。

スポーツ映画は「最初は弱い→最後には強くなる」とか「最初はチームワークが悪い→だんだんまとまっていく」というように、負が正にひっくり返るところにカタルシスが生まれる。この映画における最大の「負」の要素は、「相撲なんて、かっこ悪い」という価値観だ。

映画がつくられた90年代初頭は、バブル崩壊直後とは言え、まだまだカタログ文化の残滓が漂う「お気楽、極楽」な時代。以前観た『就職戦線異状なし』でも「広告研究会」なんてサークルがチャラい活動している様子が描かれていた。本作の主人公が最初に属しているサークルも「シーズン・スポーツ同好会」(略称シースポ)なる軽~いサークル。

夏はテニスにサーフィン、冬はスキー……といった、めちゃめちゃミーハーで陽気な、絵に描いたような80年代「キャンパス・ライフ」の世界だ。そんな彼らから見れば、相撲なんて「裸でマワシしめてぶつかり合うなんて、かっこワリ~ッ!」という別世界なのだ。

ところが、就職は決まったけど単位が危ない主人公に、相撲部顧問の教授が取引を持ちかける。単位をやって卒業させるから、かわりに、部員がいなくて潰れそうになっている相撲部を救ってくれ。試合に出てくれ。

相撲なんかやりたくない主人公は、こうして嫌々ながら相撲を始めることになるが。初戦の惨敗を痛罵したOBヘの反発や、対戦相手とのライバル心から次第に本気になり、勝利をめざすようになっていく。

『Shall We ダンス?』で、社交ダンスなんて…と引いていた中年サラリーマンが、次第にのめりこんでコンテスト優勝を目指すようになっていく、あのプロセスと全く同じ構造である。お約束と言えばお約束だが、映画として「上手い」よね。

お約束と言えば、「お尻を見せるのだけは絶対イヤです」という条件で相撲部に入ったイギリス人留学生。アンダーパンツを履いて出場していたため、規約違反で土俵に上がれない。絶対にアンダーパンツは脱がない、と棄権を続けた彼が、最後の最後…ここぞという場面で、それを脱いでついに土俵に上がる! これまた超お約束な見せ場だけど、スカッとする場面だ。

ところで、本作には人物のクローズアップを何度も切り返す会話シーンが非常に多い。この構図と間合いは、明らかに小津安二郎映画の典型的な手法。

そう言えば周防監督のデビュー作は小津安二郎映画の作風を完全コピーしたパスティーシュ映画『変態家族 兄貴の嫁さん』(タイトルがヒドすぎて最高)。本人は「あれは1度限りの実験」というようなことを言っているらしいけれども、どうしてどうして、しっかり「小津」しているじゃありませんか、本作も。





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1 コメント

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Unknown (nico)
2009-07-31 23:46:22
中盤の熱いチーム感があって、最後の寂しさって感じがします。
寂しさが感傷的になりすぎないのが周防さん素敵です。

「マサオォー!!!!!」
「吉原…アメリカンチアガール…。」
の辺りも好きです(絶対バカだと思う)。


事故の記事を読んで本当に驚いたのと、在り来たりなんですけどヲノさんが生きてて良かった…と安心しました(奥様パワー強いです)。
あと、脱稿もパワー(そんな強くない)。
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