中国製のトロンボーン"Soleil"を購入し、20年振りに(体調の良い場合は)週末にカラオケボックスへ出掛けて練習を始める様に成り、そろそろ丸四か月が経過しました。「昔取った杵柄」とは言うものの、金管楽器演奏の根本である「口唇の筋肉」の復活には、やはりかなりの時間を要すると思われます。今現在の状態は、初心者2年生辺りの状態かな、若葉マークが取れた辺りと自覚しています。
口唇の筋肉の復活は気長に練習するしか無いのですが、口唇の状態とは別に、段々と楽器の状況が認識出来る段階に入って来ました。実際の学生さんでも、金管楽器を生まれて初めて手にしたばかりの1年目では、楽器の状態を認識する事は難しいのでは無いでしょうか。実はつい先日迄、僕もその様な状態でした。口唇の筋肉不足が原因で音が出ない、楽器のコントロールが出来ないのだ、と思い込んでおり、兎に角、原因を自分自身に向けていました。
ところが最近、楽器の状態を認識出来る様に成って来て、気付いたのです。この中国製"Soleil"の欠点が次々と。
ここでその欠点を挙げるときりが無いので、敢えて挙げる事は致しませんが、結果的に現在、輸入販売店に対し、調整整備の為、返送している所です。激安だった割には電話対応も丁寧で、購入後1年間の保証もしっかり付いており、とても良い対応です。今現在、調整中で手許を離れている為、帰って来る状態がどの程度なのか判りませんので、「まぁ、所詮激安中国製。」と割り切るつもりではありますが。
そこで実は先般、更に「別楽器」として掲題の通り、中古では有りますが、一般的に「脱」初心者が使用する楽器を、中古でネット購入してみました。

中古の楽器をネットで購入するのは、かなり抵抗が有りました。誰がどの様に使用していたのか全く分かりませんから、その前所有者による吹き方の「クセ」が楽器に深く染み付いてしまっていて、僕自身が固有に持つ、演奏の「クセ」に合わせるべく楽器の性格を変えるのに、大変苦労する場合が有るのです。その意味では新品以上に中古楽器は「当たりはずれ」が大きく成ります。ですが、「クセ」が少ない場合や、僕の「クセ」に近い場合は、簡単に吹く事が出来、「当たり楽器」と成り得る訳です。

そこで今回、ネット上で検索するにあたり、この「クセ」が少ないであろうと思われる希望的観測のもと、メーカーは「YA○AHA」、器種は最上位では無く、1ランク下の「Custom」。出品地は関西、中部から東海地区として検索。
理由としては、メーカーのYA○AHAはそもそも製造時の「クセ」が少なく、どうしようも無い完全なハズレ楽器が、まず無いメーカーです。また、最上位にしない理由は、これは当然の値段。も、然る事乍ら、学生が初心者を脱した時期に、親から買って貰えるランクの代表格。しかも、その中古の見た目の状態で、比較的使用感が少ない(傷や凹み、ラッカーの剥げ具合等々)物を選べば、中学、もしくは高校の3年間程度(6年間使用としても、状態が良ければ「丁寧に使用した」楽器の扱いを知っている、信頼の置ける前所有者と判断出来る)の使用に留まっており、前所有者の「クセ」が少ないであろうと、何となく判断出来そうですよね。更に、出品地。これは完全に主観ですが、関西地区と中部地区、そして東海地区は、学生の吹奏楽活動が盛んな地区です。恐らく関東よりも盛んだと思われます(あくまでも主観ですよ)。その様な地区からの出品であれば、前述の思惑に沿った物が出品されている可能性が高い、と踏んだからでした。

さて、実際に名古屋で出品されていた楽器を購入、演奏してみたところ。
これが「とんだハズレ楽器」でした。一応、ネット上でかなり吟味して購入したのではありますが、流石に管の内部までは解りませんよね。実はこの楽器、マウスピースのシャンクを受ける、スライド内部一番手前の管内内部部品「マウスパイプ」が断裂しておりました。(修理依頼をした際に発覚しました。)
その他は目立つ傷や凹みも無く、ラッカーの剥げ具合も何も問題は無いのですが、この「マウスパイプ断裂」、事態は深刻です。(特に高音域を)吹くと「ビーン」という金属の不快な響鳴音。これでは演奏が出来ません。いったい前の所有者はどんな使い方をしていたのだろう。まぁ、何となく想像が付くのですが。
先ず、前所有者は女学生と断定しても良いと思います。男性の持ち方ではほとんど擦れないスライド支柱付近の部分が、女性によくある持ち方(人差し指を立てる)で少々擦れています。また、音抜けの状態から、セカンド、サードパートの吹き込みが多かった筈。そしてF管の音抜けも、LowB♭の上のCだけに偏っていますし、高音域の替えポジションの音抜けも良くない。これらの状況から、あくまでも基本に忠実な練習に基づく音出しに徹した女学生の使用楽器と想像が付きます。
そして、日頃のメンテナンス状況。ここがポイントなのですが、恐らく練習時間を極力引き延ばす為に、楽器ケースにしまう際、管内の水分を普段からほとんど拭き取らずに片付けていたと思われます。このYSL-820GⅡは、それ以前のCustomモデルのケースと違い、ベルの部分を下にして、立てて保管が出来るケースです。スライド内部の水分を抜き切らずに楽器ケースにしまって、立てて保管すると。はい、ケース内で水分が、下のベル側に流れて溜まりますよね。なので、ケース内部、スライド収納部分のベル側(マウスパイプ側)にカビが発生して、起毛繊維が剥がれ落ちてしまっていました。
マウスパイプは、スライド内管の更に内部に固定されていますが、その様に立てて保管すると、構造的にスライド本体の金属とマウスパイプの隙間に水分が入ってしまうのです。更に、その隙間に一度入ってしまった水分は、拭き取る事はもう出来ない為、腐食の原因に成ってしまうのです。また、YA○AHAのスライドは、30年以上前、僕が初心者の頃から「腐食し易いから、練習後の水分除去は絶対に必要。」と、先輩方から教わっていました。
と言う訳で、前所有者の使用状況が目に浮かぶ訳です。
まぁ、それはそれとして、この高音域の不快な金属共鳴を仙台の或る楽器店に持ち込み、見てもらったところ、この「マウスパイプ」の断裂が発覚したのです。楽器店を通じたそのリペアマンさんからの情報だと、過去長い修理実績の中で、マウスパイプ断裂は、これで2回目だけ。極めて稀な事象だそうです。しかも、前回修理も同メーカー、同型番(モデル)だったそうで、この楽器はその意味でも日頃の奏者のメンテナンスが重要な楽器であり、メーカーとしても注意すべき楽器なのかも知れませんね。
と言う訳で、このマウスパイプを、改めてメーカー純正品に交換。スライドの平行調整等も完璧に仕上げられて、修理から帰ってきました。
するとどうでしょう。完全に悪い方向への別楽器に変貌してしまいました。響きが無く成り、音程も悪い。楽器の物理的な状況そのものに関しては、リペアマンさんは、誠心誠意、全力で修理して戴けたのは良く判ります。(本当に完璧なスライド調整でした。)しかし、再度、リペアマンさんに、響きと音程の悪化を理由に点検依頼したところ、そのリペアマンさんのプライドを深く傷付けてしまったご様子。「修理は完璧。」まぁ、確かに仰る通りです。リペアマンさんも個々の楽器、しかも奏者個人の吹き方に合わせた微調整など、出来る訳でも無し、責任が持てる訳でも無し。以降の対応を拒否され、差し戻されてしまいました。
楽器店を通じてリペアマンさんからは、断裂したマウスパイプは腐食も相まって、スライド内管の洋白に強烈に癒着しており、外すのが本当に大変であったと伺っています。今回の修理に当たっては、その強い接合イメージと、再度断裂して共鳴音が出る事を予防すべく、本当に強く再接合されたのであろうと、何となく想像出来るのですが、恐らく、それこそがこの原因の様な気もしております。ですが、リペアマンさんが客に対して良かれ、と思い一生懸命に作業された状況をお察しするに、これ以上の対応が難しい事も理解出来るので、素直に引き下がりました。
はぁ、少々溜息が出てしまいます。音色や響き、音程や倍音移行等のコントロールは、まずマウスピース選定が重要ですが、マウスピースの次に、(口唇の振動を乗せた)息が通るのは、マウスパイプですものね。今回は、マウスパイプの重要性が改めて実感出来る、(修理費と言う名の)高い授業料に成りました。
しかし、このままではマウスパイプ断裂時よりも、輪を掛けて悪い楽器と成ってしまったままです。今度は日曜日にメーカー直営の販売店に持ち込んで、スライド内管を丸々、新品購入する方向で相談してみる事にしましょうか。(前述のリペアマンさんには、バレない様に。これ以上、そのリペアマンさんのプライドを傷付ける訳には行きませんからね。)重要部品の新品購入です。更なる出費で、本当に高価な授業料になってしまいますね。
中古の金管楽器購入をご検討される皆様に、強くご忠告です。中古楽器は、ネットで購入するものでは無く、店頭でしっかり確認してから購入すべきですよ。