福島県いわき市で過ごすゴールデンウィークですが、昨日は、いわき市内の、或る高等学校の吹奏楽部による定期演奏会を覘いてみました。
現在の僕の職場にも、高校時代から吹奏楽を経験していらっしゃった方が居り、その方からの紹介で知った定期演奏会です。僕も高校入学から大学卒業、更に社会人に成ってからも数年間、初めて楽器に触れた時から数えてみると、仙台への人事異動で楽器を完全に離れてしまう迄の間14~15年位の楽器経験は有ったので「高校吹奏楽部定期演奏会」と聞いて、ちょっと懐かしく成り、聴きに行く事にしました。
日本での吹奏楽は、中学、高校、大学、一般と、各世代で、全日本吹奏楽連盟のもとで、世代ごとに、都道府県単位での各吹奏楽連盟が存在し、吹奏楽を知らない皆さんには想像が付かない程、その活動は大きく組織化され、活発、そして盛んなのです。
今回聴きに行った高校は、吹奏楽コンクールの全国大会で、高校の部、金賞を何度も受賞する有名校ですから、聴きに行く価値は有るでしょう。
写真は、僕が着席した場所から、客席を覗き込んで撮影したものです。僕が座った席は、音楽会の席としては、ステージ全体が見れない、とても良くない席です。
僕が会場に到着したのは開演15分前。1,700席を越す大ホールが、ほとんど埋まっています。さすが県内でも屈指の進学校、そして全国でも有名な吹奏楽部ですね、中高生を中心に、熱心なファンや、憧れている中学生も多いのでしょう。二日間に亘る定期演奏会、演奏曲数も多いですし、観客も一杯。一日分の入場料が1,000円、二日来ると2,000円です。東京公演も有るそうですが、CDも出していて、我が母校の高校吹奏楽部と比べてはならない程の活動内容で、その凄さを感じます。
比べてはいけない事は重々承知の上での話しですが、我が出身高校の吹奏楽部は、僕が入部当時、3年生は引退済みでした(2年生の8月のコンクール、東東京地区予選終了と共に引退し、9月の文化祭にさえ、出演しません)ので、実質活動人員は35名程度、コンクールはB組編成に出るのが精一杯でした。
但し、我が出身高校吹奏楽部の、しかも我がパート、トロンボーンには、大変優秀なOBが多く、①吹奏楽をする方なら誰でもご存知の普門館に関係する「東京○○ウインドオーケストラ」の現役バストロンボーン奏者、②年末に東京渋谷のBunkamuraオーチャードホールで年越しのカウントダウン(ジルベスターコンサート)をする事で有名な東京○ィル○ーモニー交響楽団の主席トロンボーン奏者(当時は東京○術大学の学生でしたね)、③(戦前から活動する)一般吹奏楽団で(1993年頃でしたか)3年連続全国吹奏楽コンクール金賞受賞吹奏楽団の主席トロンボーン奏者等々、その他音楽大学に進学する先輩方を多く輩出するパートでしたので、その伝統たるや、凄いパートではありました。
そんな高校吹奏楽部トロンボーンパートに新入生で唯一人、しかも初心者で入部した僕は、それこそ吹奏楽に青春を燃やしましたね。早朝から荒川土手でウォーミングアップをし、登下校の徒歩中に自分の歩速を一歩一秒に固定して腹式ロングトーンの呼吸練習、授業中はフルスコアとにらめっこしながら早弁当、休み時間はマウスピースで音階練習、昼休みにも練習室で音出し、部活中は先輩にこけ落とされ涙を流し(何度、部を辞めようと思った事か)、帰宅後はプロの演奏をレコードやカセットテープで聴いてイメージトレーニング。(カセットテープは擦り切れ、伸びて、ワカメに成るんです。)2年生に成ると、ユーフォニアムとチューバの不真面目な一年生二人をしごいた挙句に退部させてしまい、3年生ではその責任を取って引退もせずにユーフォニアムにコンバート。大学受験なんて何も考えていない、吹奏楽漬けで、本当に吹奏楽に青春を燃やした高校時代の日々でした。
ちなみに、楽器を使わない練習法も様々ですが、上記の他にも幾つも実践していました。入浴中にも、水道のホースを咥えて湯船に潜水し、水圧で肺を鍛えたり、湯船の湯を口に含んでから、狙いを定めて一点にだけ放水するアパチュアの確認。毎朝の洗顔時に鏡とにらめっこしながら色々な顔の表情を作る顔面筋肉の柔軟体操。通常の会話も声楽家の様な声を出して喉を開け、上半身、特に頭蓋内の各空洞部を共鳴させる訓練、等々。思い出すと懐かしいですねぇ。OBに成ってから後輩にこれらの練習法を話しても、誰にも信じて貰えず、実践してくれた後輩は一人も居なかったのですが・・・。
おっと、話が脱線しました。僕個人の話しはこれまでにして、今回の演奏会です。
初めに演奏されたのは、恐らく校歌だと思います。アインザッツ(休符後の音の出だし)が揃い、リリース(音の終わり、仕舞い方)も完璧。流石です。
学校長挨拶の後、第一部の開演。アインザッツ、リリースの完璧さはもとより、クレシェンド、デクレシェンドのダイナミズムが、パーカッション(打楽器)を中心に素晴らしく表現されておりました。
但し、この演奏は大人数ならでは、大人数の演奏だからこその表現だと思います。金管(特にトランペット、トロンボーン等)では、ファースト、セカンド、サード各楽譜が複数で構成されているので、テュッティ(全奏)全音符クレッシェンド時等は、息が切れても、一人隠れてブレスしても全く判りませんからね。それと、フレンチホルンが4人では、全体から見て少々少なく、コントラバスももう少し欲しい全体バランスかな。さて、各個人の奏者としての技量は?
木管パートは上手いですね。まずリードミスが全く無い。これは当然なのかも知れませんが、我が出身高校では、コンクール本番でもリードミスが有ったので、やっぱり流石。木管楽器郡による弦の表現も、テュッティ時の音の通りも素晴らしいと思います。
ですが、特にトロンボーンでは、まあ、高校生だからね、と言った感じが強くしました。9人構成のトロンボーン、そのほとんどが女子。トロンボーンを演奏していた僕が感じるのは、演奏上達の上で、ある時期、必ず男女の差を感じる場面が有る筈です。本当に残念ですが、その壁を越える演奏は、女子高校生では無理でしょう。
また、これも大人数の吹奏楽団としての宿命なのか、全日本吹奏楽連盟の伝統、好みなのか、どうもトロンボーンの音が、僕が当時目指した、僕が好きな音質では無いのです。Sir Georg Solti指揮、The Chicago Symphony Orchestra のトロンボーンパートの音色を愛する僕には、残念の一言です。特に初日のメインはModest Petrovich Mussorgsky作曲のNight on Bald Mountainですから、ロシア風の演奏を目指しても良いのでは?
まぁ、やはり全日本吹奏楽連盟が高く評価する音楽とは、この音なのかな。
僕の目指した音楽とはちょっと違うので、寂しい気分に成り、第2部、第3部のステージを残して、第1部のステージだけ聴いて、帰って来てしまいました。
何だか偉そうな事を書きましたが、僕はもう口輪筋と腹筋(一般的な腹筋運動で付ける筋肉では無く、腹式呼吸が作り上げる完全なインナーマッスルの腹筋)は完全に退化し、左中指のタコも消え失せ、僕自身の全盛期の音色は、もう二度と出せないでしょう。
これでも(社会人5、6年目位かな、楽器を始めて十数年目ではありましたが)僕自身の奏者としての全盛期は、都内どの楽器屋でも、音楽大学出身者と間違われる音を出し、荒川土手でエチュードを吹くと、橋の欄干に黒山の人だかりが出来て、アンコールを求める声が飛んで来たものなのですよ。
僕の目指した音楽と、世間一般で評価される音楽の違いを感じつつ、寂しい想いをしながらではありますが、今日は、定期演奏会二日目の演奏ですね。演奏者の皆さん、頑張って下さい。