明日からしばらく更新できないので、今夜のうちに。
昨日リリースされた、少女時代のニュー・シングル「GALAXY SUPERNOVA」をいそいそと買った。
http://www.universal-music.co.jp/girlsgeneration
ポップスの新曲をすぐに買うだなんてミーハー行動、一体いつ以来だろう……と遠い目になるが、遡るとすぐに前例に行き当る。1年半前、2012年の春は家入レオのデビュー曲「サブリナ」にしばらく燃えたのだった。
少女時代のシングルを買うのは、2010年の「Gee」以来。
容姿端麗なお姿は別として、曲の好みについてはやや縁遠かった。かっこいいけどなにか引っかからない、楽しいけどハッとはしない、とが続いて、ネットで動画を見るにとどまっていた。バラードや、女の子の味方だよ的な歩み寄り路線になると、もうあんまり関係ない人たちになったなあと。
今年になってからの「I Got a Boy」はめまぐるしい転調で攻める、ビヨンセの向こうを張るような尖ったもので、久々にオッとなったのだが、日本語ヴァージョンのCDは遂に出なかった。日本マーケットでは歩み寄り路線しか売れない、と見切られているようで、さびしい気がした。
しかし、リリース前の動画で見た今回の「GALAXY SUPERNOVA」は、久々に当たり感。
なにしろダンス・メインに戻っていてかっこいい。ごひいきの苦労人スヨンが心なしか、いつもより前に出ているし。
なのでDVD付きの初回限定盤を買い、CDのほうがオマケぐらいのつもりでいたのだが。
どうしてどうして、曲自体がいいのだ。あの日本上陸曲「GENIE」以来じゃないかと思われるほどキャッチーでストレート。
実際、買ってから2日で、DVDを見るよりCDを聴く回数のほうが多い。「Gee」は、実はCDのほうはほとんど聴かなかった。
まず、イントロからメイン・リフへと続く、いかにもなダンス・ミュージックらしいシンセがいい。この鳴りの既視(聴)感……、ほとんどヴェルファーレのビートではないか。
最新ビートでなく、90年代の近過去/直輸入からもっとマチバに下りたもの、であることが、攻めと歩み寄りのあいだを絶妙にとっている。作り手チームは海外の布陣だが、これを日本で出すと、わざわざいなたいディスコ・サウンドをチョイスする遠望深慮になって面白いのだ。
そうなると、彼女達が日本語ヴァージョンを歌う時の、独特な味が今までになく引き立つ。
メイン・ボーカル、テヨン(※ジェシカと前に書いてたのは間違い。コメントでご指摘頂き気づきまして失礼…)が「ウワサの的だわ」と声を張るパートの、伝法な思い切りのよさには特にゾクゾクした。
日本語をずいぶん勉強しているれっきとしたプロとはいえ、彼女が「ウワサの的だわ」と歌うとき、「あなたってすっかり噂の的、注目の存在なのよ」と声をかける感情の機微を身体ぜんぶが理解しているとは考えにくい。
とにかくここは「ウワサノマトダワ」と発音すればいいんでしょ、な割り切りが、カラッとしていていいのだ。
例えていうと、「Woo,What a Sanity Mat Down!」(意味不明ですが)と歌うフレーズが、空耳で「ウワサノマトダワ」と聞こえる感じ。
この面白さは、「上を向いて歩こう」が「フ・ヘ・ホ・ムヒイテ、アール、コール・ヨウ」と歌っているようにしか聞こえない、坂本九まで遡るのではないか。
九ちゃんが初めて歌いだしたとき、作詞の永六輔がなんてムチャクチャな歌い方だとガッカリしたのは有名な話。
リズムに乗せて歌うことを生理的に優先した戦後のポップス洗礼世代が、ものがたりの延長でうたを歌う義太夫以来の大衆芸能の情緒を、初めて解体した。
数年前、仕事でチリに行ったときのこと。その日は朝から、サンティアゴから数百キロ離れた漁師町に撮影に行った。帰りはかなりくたびれて全員無言。なのに、現地雇のドライバーのおっちゃんが、よくあるオールディーズのオムニバスCD(おそらくガレージ売りのバッタもの)をカーステレオでかけながら、「このCDにはおまえたちもよく知ってる曲が入ってる」と盛んに言う。
生返事をしながら日の傾きかけた海を見ていたら、本当に、「上を向いて歩こう」=「スキヤキ」が流れてきた。地球の真反対の国の、田舎道なのに。あれはヤバかった。ますます全員ムッツリ黙った。泣きそうになったので。
この、リズムに乗ると母国語のままインターナショナルになるポップスのフシギを学究的に考えたのが大滝詠一の音頭もので、さらに反転して、リズムに乗せれば長唄や落語のことばだってビートと一緒に撥ねるじゃん、いいじゃん、と感覚を実践で提示してみせたのが桑田佳祐。
そこから少女時代にいくまでには、アン・ルイスやアグネス・チャン、欧陽菲菲、BoA、それにテレサ・テンなど、踏まえなければいけない存在はたくさんいるのだが。
K-POPブームが一段落しようと、「GALAXY SUPERNOVA」は普通にいい。
なにしろサビの詞が、
「銀河系スケール感でNo.1!/うねるベースラインライクなshooting starsがcoming!」
である。ここまでナンセンスなチャンポンだと、ほとんどギャグ。そしてギャグというのは、とことんまで照れずにやると(美女たちがキレのいいダンスでキメると)、ものすごくカッコよくなる。
先の女性歌手の系譜を受け継ぎつつ、もしも先に書いたように、サウンドがヴェルファーレなんかのトランスを意識していたのなら、バブルの名残のパロディというあそび感覚は、もろに六八九トリオ~クレージー~サザンのセンでもある。9人の存在は、遂に日本の歌謡史に根付いたのだ、と思う。
で、「GALAXY SUPERNOVA」は、カップリングの「DO THE CAT WALK」もいい。おかげで〈曲自体はネットで見られるけど、CDを買ってよかった〉感を味わえた。
実は音作りは、「DO THE CAT WALK」のほうが凝っているのだ。ケイティ・ペリーが持ち歌にしていてもおかしくないぐらいで、メロディーも今のニーズ。
もっと言ってしまうと、ケイティ・ペリーっぽいから遡り、タイのパーミーの大ヒット曲で、日本盤も出た「大声で歌いたい」にすごく似ている。
ただ、パーミーにしても、70年代西海岸ポップスの魅力をもらい、自分の国の土で育てた良さだった。
胸がキュンとなるマイナー系のメロディを強調しながら、なおかつカラッと明るい気分にさせてくれる。こういう曲にするための音符の並べ方、編曲の工夫には、専門のひとなら分かる方程式がきっとあるだろう。
そこらへんのキモを見つければ、天才アーティストじゃなくても永遠の名曲ができる、と証明した「カリフォルニアの青い空」のアルバート・ハモンドは、一発屋の元祖みたいにいくら言われようと、なかなか偉大なのだ。
ついでに言うと、K-POPの次はT(タイ)-POP! と謳っての数年前の日本マーケット進出がうまくいかなかったパーミーのことは、ちょっと気の毒に思っていた。しかしこの前、You Tubeで最近のタイでのステージを見つけた。なにかの野外フェスのステージに現れたパーミーはもうすっかり姐さん風(日本でいうとアムロみたいな感じ)に堂々としていて、「大声で歌いたい」のイントロを彼女が口ずさんだだけでたちまち会場全体が大合唱。ああ、本国ではしっかり愛されていたんだ、と勝手に安心、カンゲキした。
そんな風に、西海岸~アジアともっと広いマーケットで売れるイメージのある「DO THE CAT WALK」がカップリングで、ワールドワイドからすれば古いアプローチと思える「GALAXY SUPERNOVA」が、日本向けの、久々にクールなお姉さま振りを強調したA面。
そう決定するまでの戦略にも、汗と工夫が感じられて、楽しい。
『噂の的だわ』は
テヨンちゃんですよ。