ある「世捨て人」のたわごと

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宗教の起源(2)言語と宗教、筆記と想像力

2015年12月31日 | 好きな歌

言語と宗教

宗教は人から人へと伝えられる言語のような記号的コミュニケーションシステムを必要とする。フィリップ・リーバーマンは「ヒトの宗教的思考と道徳感情は明らかに認知-言語機能に根ざしている」と述べる。サイエンスライターのニコラス・ウェードはこう述べる。

世界中の文化で見られる行動のほとんどと同じように、宗教は5万年前、アフリカから分散する前の祖先人類の人々の間で存在したに違いない。宗教儀式は通常、非常に口頭的な音楽や踊りを含むが、宗教的真理は定まっていなければならない。もしそうなら宗教は言語の出現に先行することができない。以前は出アフリカの直前に現代的な形の言語が獲得されたと主張されていた。宗教が明晰な現代的な言語の進化を待たねばならないとしたら、5万年よりもすぐ前に出現しただろう。

組織宗教の起源

人類の社会進化
時代:年前社会のタイプ構成人口
100,000-10,000 小集団 10s-100s
10,000-5000 部族 100s-1,000s
5,000-3,000 首長制国家 1,000s-10,000s
3,000-1,000 領邦国家 10,000s-100,000s
1,000-現在 帝国 100,000-1,000,000s
 
チャタル・ヒュユク母神像。二匹のライオン(ないし、猫科動物)が脇にいる。新石器時代の物

組織宗教はその起源を近東で起きた1万1千年前の農業革命にまで遡るが、世界の各地で独立して同様の出来事が起きたかも知れない。農業の発明は狩猟採集生活から、定住傾向の強いライフスタイルへと人類の社会を変革した。農業革命の結果人口は爆発し、技術開発の速度は加速した。食糧を集めるための移住集団から領土制国家や帝国への移行は、新たな社会的、政治的環境を反映したより専門化され発達した宗教の誕生を促進した。小集団や部族が超自然信仰を維持していたが、そのような信仰は権力者の支配権や富の移動を正当化したり、無関係な個人間での平和を維持するのには役に立たない。組織宗教は次のように社会的、経済的安定を提供する手段となった。

  • 領民に社会や安全のサービスを提供する見返りに税の徴収権を支配者に認めることを正当化した。
  • 小集団や部族は血縁関係にある少数の人々からなる。しかし国のようなより大きな集団は何千もの無関係な個人からなる。ジャレド・ダイアモンドは組織宗教が、それがなければ敵対的な関係に陥りやすい無関係の個人同士に結びつきを提供したと主張する。彼は狩猟採集民族の社会での主要な死因が殺人であったと主張している。

農業革命から生まれた国(古代エジプト古代メソポタミアのような)は首長、王、皇帝が政治的と精神的な二重の指導者を演じる神政であった。人類学者は実質的に全ての領土的社会と首長制国家が宗教的権威を通して政治的権力を正当化していることを発見した。

筆記と想像力

農業革命に続いて、3500年前の筆記の発明は技術開発のペースを加速させた。筆記はシュメールかエジプトで発明され、最初は説明のために用いられていたと考えられている。まもなく筆記は神話を記録するために用いられるようになった。最初の宗教的な記述は宗教史の始まりを示す。古代エジプトで発見されたピラミッド文書は知られている中でもっとも古い宗教的記述の一つで、紀元前2400-2300年頃の物である。筆記は宗教的習慣に永続不変の概念を与え、組織宗教の維持に重要な役割を果たした。

認知科学的研究

ダン・スペルベルは初めて、教義のような形而上的概念が事実であろうと無かろうとに関わらず、宗教は人間の脳の産物であり科学的探求の対象になると主張した。

宗教の進化心理学

進化心理学は心臓免疫系と同じように、認知能力にも遺伝的基盤があり、従って自然選択によって進化したという仮定に基づく。宗教は人類の歴史の初期に脳の構造が進化した事によって生み出されたという一般的な合意が認知科学者の間にある。しかし宗教的精神の進化を駆動したメカニズムについては議論がある。二つの主流な説はどちらも、宗教は自然選択によって進化したと考えているが、一方は宗教それ自体が選択上の有利さをもたらしたと考え、もう一方は宗教が他の精神的適応の副産物だと考えている。「他の精神的な適応」には次のような能力が含まれるかも知れない:

  • 危険を加えてくる可能性のある存在を推論(し発見)する能力
  • 自然の出来事に原因となりそうな物語を備え付け(原因療法のように)対応する能力
  • 他の人にはそれぞれの心があり、それぞれの信念・欲求・意図があることを認める能力(心の理論

認知心理学者は人が生まれつき持ついくつかの世界を理解するための能力、素朴心理学や素朴物理学素朴生物学といった概念[33]実体二元論を好む傾向が宗教概念の基盤となっていると推測している。捕食者を素早く自動的に察知する能力は持ち主の生存可能性を高めるが、それは風の音や雲に浮かんだ人型の模様にも反応するかも知れない。しかしそのような誤作動には進化的なコストがかからない。これらのような適応は人間がすぐには説明できなかった多くの事象、例えば太陽の動き、生命の複雑さなどに意図を持った行為者の存在を想像することを可能にする。

心理学者スティーブン・ピンカーにとっては宗教的信念に向かう普遍的な傾向は真に科学的な謎である。彼は宗教が適応と見なせる基準を満たしておらず、宗教的な心理は祖先の生存を助けた他の精神的適応の副産物だと考えている。一方D.S.ウィルソンは宗教が集団の生存を助けた群選択的現象であると主張している。

心理的プロセス

宗教認知心理学は宗教的思考と宗教的習慣の背後にある心理的プロセスを解明しようと試みる新たな研究分野である。この分野の先駆者である認知人類学者ダン・スペルベルスコット・アトランの研究に基づく。二人は初めて、宗教的認識が(例えば思考や感情のような)実体のない領域について、印象的で記憶に止めるよう働く他の様々な精神的な適応の副産物であり、目的論的に働く人の心の産物ではないかと主張した。またアトランは宗教的概念が、人に生まれつき備わった現実世界を理解するための知識、素朴心理学(心の理論:他者にも意図があることを理解する)、素朴物理学(物理法則を理解する)、素朴生物学(生物と非生物を理解する)の産物であると推測している。

二人の研究に基づいてパスカル・ボイヤーは従来の宗教の起源に対する説明、つまり1.宗教は説明を与える。2.宗教は安らぎを与える。3.宗教は社会を形作る。4.宗教は認知的錯誤である。の4つを検討した。ボイヤーの視点によれば、1.人は必要があって説明するのであって、説明を与えたいという情動に突き動かされて説明するのではない。またどんなことでも説明されるわけではない(例えば何故罰が当たったのかは説明の対象になっても、神は具体的にどのような方法で罰を当てるのかは疑問視されない)2.宗教自身が恐怖を煽ることは珍しくない。3.必要性があることと、制度が作られることは同じではない。4.全ての突飛な概念が受け入れられるわけではなく、受け入れられやすい概念とそうでない概念は区別できる。このような従来の説明は、宗教の理解に役立つが、起源の説明としては十分ではないと指摘した。

宗教的概念はすこしだけ現実世界の通常の法則(特に素朴物理学や素朴心理学)を侵害する。ボイヤーとジャスティン・バレットの実験では、全能の神を説明するよう求められると、祈らなければ思いが通じない、同時に一つの行いしかできないというように、人々は全能の神であっても人間からかけ離れた存在として想像しなかった。そのようなわずかなありえなさが人の心に忘れがたいという印象を与えるのだとボイヤーは考え、神学的妥当性(PCにちなんでTC)と名付けた。宗教概念はミームとして人の心で作り出され、受け継がれていき、その過程でより忘れがたく受け入れられやすい(TCとしてより妥当な)概念は頻度を増してゆく。

ボイヤーは宗教の様々な成分、儀式や超自然的概念、規範の指示、葬儀や死への説明などについて、それぞれが異なる認知能力に根ざしており、異なる起源を持ち、したがって現在見られる宗教の起源を説明する単一の理論は存在しないと述べている。

遺伝学

一部の研究者は宗教が人間の本性と遺伝的に「堅く結び付けられて」いると主張している。議論が多い一つの仮説は「神遺伝子」仮説と呼ばれる。一部の人々は宗教的啓示に傾倒する素因を与える対立遺伝子を持っていると主張されている。このように主張されている遺伝子の一つがVMAT2である。ただしこの説は学術誌に発表された物ではない。

関連項目


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