ある「世捨て人」のたわごと

「歌声列車IN房総半島横断鉄道」の夢を見続けている男・・・ 私の残された時間の使い方など

映画「洞窟の女王」名場面とその箇所:改造社版アーカイブ

2013年10月31日 | 好きな歌

下書きです。 

 

聖書にある有名な語句の一つに「叩けよ、さらば与えられん」がある。

この語句が聖書のどこにあるかを探すには、聖書語句辞典(コンコーダンス・コンコルダンス)があるので便利だ。それは聖書がポピュラーな書物だからである。

そして、聖書は「第1章・第2節」というように区分けしてあるので便利だ。

これについては、こちらをご参照ください。http://soudan1.biglobe.ne.jp/qa5901789.html

このような解説もあります。

 http://okwave.jp/qa/q5901789.html

こちらが、その内容(そのまま) 

あのような番号を振るやり方は、ヘブライ語、ギリシア語、英語、日本語に共通ですから便利ですよね。

 同じ聖書でも、翻訳者や編者により、若干の差異は、ありますよ。 

章や節が付けられたのは、1206年に、パリで写経僧として活躍していたステファン・ランクトン(のちのカンタベリー大主教)が、写本の仕上がり検査のために、段落分けして旧約聖書のウルガータ(ラテン語訳)聖書に付けたのが、最初だと言われます。

 新約聖書は1551年パリのロベール・エティエンヌという印刷屋が、宗教改革者カルヴァンが印刷を依頼したフランス語訳聖書で、章節が、つけられました。

 元来は、写本校正印刷の便宜のために導入された章節ですが、現在では読解の導きとなっています

 聖書やコンコーダンス(語句辞典)は、一般書と比べると高価である。http://www.gospelshop.jp/catalog/index.php/cPath/1_1003_10039

 


 

一方、「洞窟の女王」のような古典的な小説などの語句がどこにあるのかを調べるのは、簡単ではない。
それは聖書ほどポピュラーでないからだ。

「洞窟の女王」語句辞典などという便利なものもない。

インターネットでも、調べるのは難しい。

「洞窟の女王」オーディオブック の英語版(英語)などで音声朗読を聴けるので便利だが、再生すると第1章から第28章(最終章)まで連続11時間38分13秒と長いのでご注意いただきたい。

「洞窟の女王」 オーディオブック英語版
She by H. Rider Haggard (FULL Audiobook) 11時間38分13秒
http://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=TohoWSac-Ts

次のような参考資料が検索されるようだが、テツは実行していない。
西洋古語辞典 : 翻訳のためのインターネットリソース
http://dir.kotoba.jp/ddcat.cgi?k=western_owords&fsz=2

 



 

SHE (1935)
アッシャとアテン 
She (1935) pt. 2/7 - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=EFi4j_BKUgU&feature=player_embedded  

この動画は、本来ならば、場所はアフリカを想定しているのですが、映画会社の資金の都合で撮影はロシア(北極圏)で行いました。従って原作とは異なっています。

続編の「女王の復活」Ayssha,the Return of She(1905年発表)では、チベットなどが活動の現場です。
たたし、続編の映画は作製されていないようです。

「洞窟の女王」で、主人公のレオ・ヴィンシィの二人は、アッシャを探して、舞台をチベットに移動することを予告しています。

原作との相違点などは、こちらを参照してください。

 She: A History of Adventure

 抜粋
The film version conflates characters, events and locations from all three books:

 The location of Ayesha's realm is a free adaptation from the second novel. In the film, it is located in the extreme north of the Russian Arctic, whereas in the original novel She the city of Kor is located in eastern Africa, in the caldera of an extinct volcano. The second novel, Ayesha has a reincarnated Ayesha living in a remote valley in the Himalayas, just south of Tibet, inhabited by descendents of a lost troop of Greek soldiers from the time of Alexander the Great.

In the books, Ayesha is so beautiful that she must be veiled at all times. The film skirts this (although Ayesha is veiled in her first on-screen appearance), and it does not mention all of the supernatural powers the books ascribe to her.[citation needed]

The film does not mention any of the Egyptian, African, or Arabian back story from the books.

The character of Tanya does not appear in any of the books; rather, she is a composite of the other rivals for Leo's affections: the Amahagger maiden Ustane from She, the Khania Atene from Ayesha and, Inez, the daughter of the trader Robertson, from She and Allan. In the books, Ayesha directly claims that Atene is the reincarnation of her ancient Egyptian rival, the Princess Amenertas. The fate of Tanya and the ending are different from the books.

以下は世界大衆文學全集第二十八卷『洞窟の女王 ソロモン王の寶窟』,改造社 (昭和三年七月一日印刷,昭和三年七月三日發行) を底本をにしたものです。ただし、抜粋して掲載しました。

http://web.archive.org/web/20040818095120/http://www.sm.rim.or.jp/~osawa/AGG/she/she-toc.html

第四章 狂風《はやて》

これから私が話さうとする場面は、これまで私の話して來た場面とは何といふ相違であらう! 靜かな大學の自修室も、風に搖れてゐる英國の楡も、白嘴鴉《しろはしからす》の啼き聲も、 書棚に見られた書籍類もみんな過去のものだ。

そしてその代りに、アフリカの滿月の下に、 くつきりとした陰翳にくまどられて銀色に光つてゐる靜かな大海の光景が現はれてゐるのだ。 吾々の乘つてゐる船は靜かな風を孕み、美妙な音をたてゝ舷側に打ち寄せる波をわけて走つてゆく。 もう眞夜中近いので、大抵の人は眠つてゐる。

中略

おや!あの雲はなんでせう?」 かう言ひながら彼に船尾から數哩はなれたところの星の空に浮んでゐる黒い斑點を指さした。

「行つて舵手に聞いて御覽」と私は言つた。

彼は立ち上つて兩腕を伸して行つたが、すぐに歸つて來た。

「あれは狂風《はやて》ださうですよ。けれどもずつと向うの方を通るつていふことです。」

ちやうどその時ジョッブがやつて來た。

彼は大層元氣さうに見えた。褐色のフランネルの獵服姿はちやき〜の英國つ兒であつた。 だが、彼の人の善い丸顏には困つたやうな樣子が見えた。それは彼がこの見知らぬ海へ乘りこんで來てからいじゆうのことだつた。

「ねえ旦那樣」と阿彌陀にかぶつた日よけ帽子に一寸手をやりながら彼は言つた。

「船尾のボートには、 鐵砲や何かゞみんな藏《しま》つてあるでせう。錠前附きの戸棚に入れてある食料品の方はいゝとしましてもですね。 私はそつとあそこへ行つて、あのボートの中に眠つた方がよいやうに思ふのです。 どうも私には(こゝで彼は聲をおとしてひそ〜聲で囁いた)あの黒ん奴の奴等の眼つきが氣に入らんのでしてね。

奴等はどうも迂散くさい樣子をしてゐますよ。若し奴等が夜中にボートの中へしのびこんで、 綱をきつてあの船にのつて逃げていつてしまつた日には、困つたことになりますぜ。」

このボートといふのは、吾々が萬一の場合の用心に、スコットランドのダンデイで、 特別に註文して造らせてもつて來た長さ三十�諱sフィート》の美しいボートで、 熱さを防ぐために坊は銅でこしらへ、防水設備を施した室なども設けてあつたのである。

「さうだねえ、ジョッブ」と私は言つた。「さうした方がいゝかも知れんねえ。あそこには澤山毛布があるから、 たゞ月の光にあたらぬやうに用心した方がいゝよ。さうしないと氣が變になつたり、盲人になつたりするからねえ。」

「かまふもんですか!あの黒奴の野郎の、薄汚い、泥坊じみた樣子を見たんでもういゝ加減頭が變になつてゐるんですもの。 奴等は肥掻きでもするより他に仕方のない連中ですよ。それにもう今から惡臭紛々たるもんでございますよ。」

ジョッブはこれでもわかるやうに、皮膚の黒い吾々の同胞の習慣や動作の讚美者ではけつしてなかつた。

中略

それから先のことは何もおぼえてゐなかつた。

すると突然、 恐ろしい風の唸り聲と眼をさました乘組員のけたゝましい恐怖の叫び聲とがきこえ、 水の飛沫《しぶき》が鞭のやうに顏を刺すのを感じた。二三の人々はかけつて帆索《ほづな》をゆるめて帆を下さうとしたが、 索《つな》が堅く喰ひ込んでゐて帆桁は容易に下りて來なかつた。

私は跳び上つて一本の綱にぶら下つた。 船尾の方の室は瀝青《ろくしやう》のやうに眞黒であつたが、船首の方にはまだ月が皎々として漆黒の闇をてらしてゐた。 月光の下には二十呎以上もある大波が白い波頭を見せて吾々の方へ突進して來た。大波は將に碎けやうとしてゐた。 月はその峰を照らし、その飛沫《しぶき》に光を注ぎかけてゐた。後から恐るべき狂風《はやて》にかりたてられて、 眞黒な空の下を、大波は突き進んで來た。突然、瞬く間に、黒いボートの形が空中高く、 碎けつゝある波頭の上に押し上げられたのを私は見た。ついで水がどつと打つつかつて、泡が沸き返りながら押し寄せて來た。 私は一生懸命に檣索《ほづな》にしがみついて、強風にあつた旗のやうに眞直ぐに引き伸ばされた。

船は船尾に波をかぶつたのである。

波は通り過ぎた。私は數分間も水の下にゐたやうに思つたが、その實それは數秒間であつた。 前方を見ると、大きな帆は、疾風のために引きちぎられて、手傷を負ふた巨鳥のやうに、風下の方へはた〜となびいてゐた。 やがて比較的靜かな瞬間が來た。その時に、私は「ボートはこちらですよ」と大聲でわめいてゐるジョッブの聲を聞いた。

私は氣が顛倒して半ば土左衞門になつてゐたのだが、それでも船尾の方へ突き進んでゆくだけの正氣はもつてゐた。

私は歩いて行く足の下で船が沈んでゆくやうな氣がした。船はもう水で一ぱいになつてゐたのである。 船尾の突出部《カウンター》のすぐ下で、ボートは狂氣のやうに搖れてゐた。 と、今しがたまで親船の舵をとつてゐたアラビア人のマホメッドがそのボートの中へ跳びこんで行くのが見えた。

私は眞直にぴんと張つた綱を金剛力を出して引き寄せ、同じくあとからボートへ跳び降りた。ジョッブが片腕をつかまへてくれた。 そして私は船底へころがり込んだ。親船の船體はずぶ〜と沈んでいつた。その時、マホメッドは曲つたナイフを拔いて、 親船とボートとを繋いでゐた緒綱切つた。すると忽ち吾々は嵐にかりたてられて、親船の沈んだ上を吹き流されて行つた。

「大變だ!」と私は叫んだ。「レオはどこにゐる?レオ!レオ!」

「レオ樣はゐなくなりました」とジョッブが私の耳のそばまで口をもつて來てわめいた。 それでも荒れ狂ふ暴風のために彼の聲はまるで私語《さゝやき》のやうにきこえた。

私は兩手をあはせて、ねぢまげながら懊惱した。レオは溺死したのだ。そして私があとへ生き殘つて彼の死を悲しまねばならのだ。

「そら、又浪が來ましたよ」ジョッブが大聲でわめいた。

私は振り返つて見た。第二の巨浪が吾々に襲ひかゝらうとしてゐた。私はいつそのことその浪に呑みこまれてしまひたいやうな氣になつて、 妙に、釣り込まれるやうな氣持ちで、恐ろしい浪の押し寄せて來るのをぢつと見まもつてゐた。

「さあ汲み出すんだ、水を汲み出すんだ」と叫びながらジョッブはせつせと水汲みにかゝつた。

けれども私はその時は水を汲むどころの騷ぎではなかつた。何故なら、月はもう雲間に沒してあたりは眞の闇であつたけれども、 一條のかすかな迷つた光りは、私のつかみあげた男の顏を照らしてゐたからだ。その男は船底に半ば横はり、半ば浮んでゐた。

それはレオであつたのだ。レオが波に押し返されて來たのだ。死んでゐるのか生きてゐるかはわからぬが、 正に死の顎《あぎと》から押し返されて來たのだ。

中略

「さあ水を汲み出さなくちや沈んでしまふ」とジョッブは聲を張りあげた。

私は腰掛の下に結びつけてあつた柄のついた大きな錫の椀をとつて、三人で一生懸命に水を汲み出した。 嵐は吾々の上に、まはりに荒れ狂ひ、ボートは前後左右に飜弄された。嵐はうづを卷いて、 水烟は棘のやうに身を刺し、眼をおほふ中を物ともせずに、吾々は死物狂ひの歡喜に荒れ狂ふ惡魔のやうにたち働いた。 死物狂ひにも一種の歡喜があるものだ。一分!三分!六分!ボートはだん〜輕くなつてゆき、新しい波はもう押し寄せて來ない。 それからまた五分もたつとボートの中の水は大抵汲み出されてしまつた。その時突如として、 恐ろしい嵐のたけり狂ふかなたに、鈍い、深い轟きがきこえて來た。南無三!それは激浪の音であつたのだ。

ちやうどその時、月はまた輝きはじめた。こん度は狂風《はやて》の通つて來る後の方からである。 少しく間隔をおいて二條の白い綫が、遙か彼方から押し寄せて來る。それは浪なのだ。ボートが燕のやうに水を切つて進むにつれて、 浪の音はだん〜はつきりして來る。

「さあ舵をとるんだぞ、マホメッド」と私はアラビア語で言つた。「もう一度あの浪を乘り切らなくちやならん。」 それと同時に私は橈《かい》を握り、ジョッブにも橈をとらせた。一瞬にして、吾々のボートは、 泡立つ激浪の中へ、驀《まつしぐ》らに、競馬馬のやうな迅《はや》さで突進していつた。

船は浪にぶつつかつた。筆紙につくしがたい、心臟の破れるやうな昂奮の一二分がつゞいた。 私のおぼえてゐるのは、たけり狂ふ泡の海と、こゝに、かしこに、至るところに、 大洋の墓場から拔け出して來た怨靈のやうに頭を擡《もた》げて來る波濤だけである。 一度吾々は渦のなかにまきこまれたが、運がよかつたのかマホメッドの舵の操りかたがうまかつたのか、 ボートの舳は眞直ぐにゆつと浮き上つた。又しても怪物のやうな浪があつて來た。吾々はそれを乘り越へた、 といふよりも潛り拔けた。息詰まるやうな昂奮がちよつとしづまつて、アラビア人が歡喜の銅鑼聲をあげた。 ボートは激浪を乘りこえて、やゝ靜かな海へ出たのである。

けれども、船はほとんど水で一ぱいになつてゐたし、半哩ほど先には次の浪が押しよせて來てゐた。 吾々は又もや狂氣のやうに水を汲み出した。

幸にも嵐はすつかり鎭まつて、月は皎々として輝き、 半哩以上も海上に突出してゐる岩だらけの岬がくつきりと見えた。浪はその岬までつゞいてゐるものと見えて、 岬の麓で浪が碎けて白い飛沫《しぶき》をたててゐた。 多分岬はそれからなほずつとつゞいて海面の下に沒して暗礁になつてゐるのであらう。

ちやうど吾々が二度目にボートから水をすつかり汲み出した時に、有り難いことにレオは眼をひらいた。 私は彼にそつと眼を閉ぢてゐるやうに言つた。彼は今の境遇を少しも知らずに、 多分もう起きて教會へ行く時刻だとでも考へてゐたのであらう、だまつて又眼を閉ぢた。 教會と言へば、ケンブリッヂ大學のあの居心地のいゝ自修室が何とも言へずなつかしい。 何故私はあの部屋をはなれてこんなところへ來るやうな馬鹿だつたんおだらう?

だが、吾々はまた浪のはうへ押し流されてゐた。しかし、風がしづまつてゐたので、 前のやうに急にではなく、たゞ潮流のまにまに押し流されてゐたに過ぎない。マホメッドはアラーの名を呼び、 私は神に念じ、ジョッブもなにかさけびながら吾々は浪にぶつつかつた。かうして危險は幾度も繰りかへされた。

だゞ以前ほど激しくはなかつただけのことである。マホメッドのたくみな舵の操縱と、密閉室のおかげで、 吾々の命はたすかつたのである。五分もたつと吾々は波を乘り切つて、櫂をとる力もなくなつてしまつたので、 潮に流されて、驚くべき速さで前に言つた岬のまはりを押し流されてゐた。

そのうちに船脚はだん〜のろくなつて、船はもう進まなくなつた。嵐は靜まり、空は拭つたやうに晴れ渡つた。 吾々は或る河口へついてゐた。潮の流れもおさまつて、船はしづかに海上に泛《うか》んでゐた。 月が沈むまでに船内の水の汲み出しもすつかり終つて、やつと船らしい形になつた。 レオはぐつすり眠つてゐたが私は起さぬ方がよいだらうと思つた。 彼は濡れた着物のまゝで寢てゐたのではあるが、暖い夜なので、 彼のやうな人竝以上に丈夫な人間には左程害はなからうと私も考へたし、ジョッブの考へもさうだつた。 それに第一手許に乾いた着替へはなかつたのだ。

以下がテツの好きな場面・・・ただしこの場面の動画は、無いようです。

まもなく月が沈んだ。そして吾々は、惱める女の胸のやうにひく〜と動いてゐる海上に漂うてゐた。 やつとのことで、今までのことを思ひかへす餘裕もできた。ジョッブは舳に、マホメッドは舵のところに、 そして私は船の中央のレオの寢てゐるすぐそばに腰をおろした。

月はしづ〜と美しく沈んでいつて、水平綫下に沒し去り、長い被布《ヴエール》のやうな影は空にひろがつて、 それをとほして星影が見えてゐた。

しかしそれも間もなく東が白むにつれて消えてゆき、 夜は明けはなれて、空は紺青の色にかはつた。海は益々靜かになつて、海面にたちこめてゐる柔い靄のやうにおだやかになつた。 曙の天使は東から西へ、海から海へ、峰から峰へと、その胸と翼とから光をまき散して行つた。 光は闇を追ひ拂つて靜かな海上に、低い海岸綫に、海岸綫の彼方の沼の上に、その上に聳ゆる山の上に、 平和に眠れるものゝ上に、悲しみに眼ざめてゐるものゝ上に、惡の上に、善の上に、生けるものゝ上に、 死せるものゝ上に、廣大なる世界の上に、世界の上に呼吸してゐる、 またかつて呼吸してゐた萬物の上にあまねく降り灑《そゝ》いでいつた。

それは美しい眺めであつたが、しかもなほ悲しい眺めでもあつた。恐らくはそれはあまりに美しいかつたためであらう。 昇る日と沈む日!それは正に人類と人類にかゝはりをもつ凡ての物との象徴であり姿態である。 その朝はこのことが妙に沁々《しみ〜゛》と私の胸にこたへた。今日吾々のために昇る日は、 昨夜十八人の吾々の同業者のために沈んだ日ではないか!吾々の知つてゐた十八人のために永久に沈んだ日ではないか!

アラビア船は彼等と共に沈んでいつたのだ。沈んでいつた人々は、岩や海藻の中を、死の大海の中の人間の流れのやうに流れてゐるのだ! そして吾々四人は助かつたのだ!

第二十六章 あゝ何たる光景ぞ

それからしばらくの間沈默がつゞゐた。アッシャは、猛火の試煉を受けるために力を集中してゐるらしかつた。 その間吾々は互に身體を擦りよせてしがみつきながら、固唾を呑んで待つてゐた。

そのうちに遠くの方から、微《かす》かな音が聞え、やがて音はだん〜高くなつて來た。 アッシャは此の音を聞くと素早く薄紗《うすもの》を脱ぎすて、金色《こんじき》の蛇の形をした帶を解いた。 それから美しい髮を外套のやうに身體のまはりに振り亂して、その髮の下で白い上衣《うはぎ》を脱ぎすて、 髮を埀れたまゝ髮の上から胴體に蛇の帶をしめなほした。そして彼女は、 アダムの前にたつてゐたイヴの姿さながらの姿で吾々の前に立つた。 身につけてゐるものとては、ふさ〜した髮を金の帶で身體にまきつけてゐるばかりであつた。 その時の彼女の美しさ、神々しさは、とても私の筆では傳へ難い。焔の雷車は刻々に近づいて來た。 焔が燃え上つて來たとき、彼女は黒い髮の塊りの中から象牙のやうな腕を出して、レオの頸にまきつけた。

「おゝ、戀しいあなた!」と彼女は低聲《こゞゑ》で言つた。 「妾がどんなにあなたを愛してゐたか、いつかあなたにわかるでせうか?」 かう言ひながら彼女は彼の額に接吻し、疑ふものゝやうにしばし躊躇《ためら》つた後、 つか〜と前へ進み出て命の焔の通路に立つた。

私は今でもおぼえてゐるが、この時の彼女の言葉と、レオの額にした接吻とには、 何かしら非常に強く私の心を動かすものがあつた。それはまるで母親の接吻のやうで、 祝福がこもつてゐるやうであつた。

風が林を吹き靡《なび》けるやうな音が、ごう〜と近づいて、渦卷く火焔の柱を前觸れする閃光が、 薔薇色の空に矢のやうにひらめき、更に火柱そのものゝ尖端が現はれて來た。アッシャはその方を向いて、 兩腕をさしのべてそれに會釋をした。焔は非常にゆるやかに渦を卷いて、 彼女の身のまはりを舐めまはした。私は焔の精が彼女の身體を舞ひ上るのを見た。 彼女はまるでそれが水ででもあるかのやうに、兩手でそれを掬《すく》ひ上げて、彼女の頭に注ぎかけた。 それから彼女は口を開けてそれを肺の中まで吸ひこみさへした。實になんとも言へぬ恐ろしくも竒《く》しき光景であつた。

それから彼女はしばらく動作をやめて、兩の腕を伸したまゝで立つてゐた。脣邊《くちべ》には神々しい微笑が浮んで、 まるで彼女自身が焔の精であるかのやうに見えた。

不思議の火は彼女の黒いぢゞれ髮《け》をなぶつて、まるで金色《こんじき》のレースのやうにその間からちよろ〜燃え上り、 黒髮のしなだれてゐる象牙のやうな肩や胸を匍ひ、咽喉から頭へ燃え上つて、きら〜輝く眼のところまで來て、 所得顏《ところえがお》に燃えさかつた。

あゝこの焔の中に立つてゐる彼女の美しさ!天から下つて來た天女だつてこれよりは美しくはなであらう。 今でも私は、裸體のまゝで火の中に立つて微笑んでゐたその時の彼女の姿を思ひ出すと氣が遠くなる。 もう一度あの姿が見られるなら、殘りの半生を棒に振つてもよいと思ふ。

SHE Hags Out 2分20秒
http://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=g-K58JHhM1M 

 動画のタイトル《SHE Hags Out》は 「女王は、(一瞬にして)醜い老いぼれ女になって死んでしまう」とでも訳せましょうか。
二千年も生き続けた絶世の美人女王も、若返るはずの地底の炎を再度浴びた結果、一瞬にして、老女と化し死んでゆく・・・・。 

  

だが突然に、何とも名状し難い變化が彼女の顏を襲つて來た。あまり突然で私にはどう言つていゝかわからない位だ。 それにその變化は私には何とも説明のしやうがないが、何しろ變化は變化にちがひない。 彼女の顏からは微笑は消えてしまつて、干乾《ひから》びた、硬ばつた容子にかはつてしまつた。 丸々してゐた顏は大變な心配事に惱まされたやうにやつれてゆき、眼の光も失せてしまひ、 品のよい眞つ直な體格はだんだん醜くまがつて來た。

私は眼を擦《こす》つた。そして何か錯覺に襲はれたのぢやないかと思つた。それとも、 あまり強い光を見たゝめに幻覺を起したのではないかと思つた。私が不思議の眼を瞠《みは》つてゐる間に、 焔の柱は徐々にねぢれて、下火になつて、やがて大地の腸《はらわた》の中へ消えてしまひ、 あとにはアッシャの姿だけが殘つた。

焔が消え去るとすぐに彼女はレオのそばに進み寄つて、手を伸してそれを彼の肩においた。 私は彼女の腕をぢつと見つめた。あの丸々した美しさはどこへ行つてしまつたのだらう? その腕は痩せてごつ〜骨ばつてゐた。そして彼女の顏はどうだらう! 彼女の顏は私の見てゐる前で、見る見る年を老《と》つていつた。レオもそれを見ただらうと私は思ふ。 彼はたしかに少し後退《あとずさ》りした。

「どうしたのです、カリクラテス?」と彼女は言つた。その聲はまたどうしたことであらう。 あの澄み渡つた鋭い響きはなくなつて、高いかすれたきい〜聲になつてしまつてゐるではないか。

「おやどうしたのです -- どうしたのです?」と彼女はどぎまぎしながら言つた。 「妾は眼が眩んでしまつたのです。火の質《たち》がかはる筈もないのに、 生命《いのち》の原質《もと》がかはる筈もないのに?言つて下さい、カリクラテス、 妾の眼はどうかしましたか?妾ははつきり物が見えないのです」 かう言ひながら彼女が手をあげて髮を觸ると -- あゝ恐ろしや! -- 髮は床の上へばさ〜拔け落ちてしまつた。 「まあ!まあ!まあ!」とジョッブは甲高い恐怖の聲で叫んだ。彼の眼は顏から飛び出し、 脣の間からは泡を吹いてゐた。「まあ!まあ!まあ!あの女が萎《しぼ》んでゆく!猿になつてゆく!」 かう言ひながら彼は發作を起して、口から泡を吹き、齒をくひしばりながら地べたにどさつと倒れた。

實際その通りであつた。アッシャは見る見る萎んで行つた。 彼女の美しい腰に卷いてあつた金蛇の帶はするりと臀を辷り拔けて地に落ちた。 彼女はだん〜小さくなつてゆき、皮膚のいろはかはつて艷々した白い色は、 古ぼけた羊皮紙のやうな薄汚ない黄褐色にかはつていつた。 しなやかな手は爪ばかりになり、保存しかたのまずい埃及《エジプト》の木乃伊《ミイラ》の爪そつくりになつてしまつた。

やがて彼女はこの變化に氣づいたものと見えて、金切聲をあげて叫んだ。 あゝ、あのアッシャが床の上を轉げまはりながら、金切聲を上げて叫んだのだ。

彼女は益々小さく凋《しぼ》んでいつて、たうとう猿位の大きさになつた。 皮膚には無數の皺が生じ、醜い顏には何とも名状できない程の老齡のあとがきざみこまれた。 私はこんなものを未だかつて見たことがない。誰だつて、生後二ヶ月の赤ん坊位の大きさで、頭だけ大人のやうに大きくて、 その恐ろしい彼に、無限の年齡をきざみつけられたこの時の彼女の顏のやうなものを見た人はないに相違ない。

たうとう彼女はぢつとしてしまつた。といふよりもほんの微《かす》かにぴく〜身體を動かすだけになつてしまつた。 二分前までは、此の世に又とない素晴らしい美人であつた彼女が、今は、猿程の大きさになつて、 彼女自身の髮の塊りのそばに、言語を絶した醜い姿をしてぢつと横はつてゐるのだ。けれども私はその時、 それは矢つ張り同じ彼女にはちがひないと思つた。

彼女はもう瀕死の状態であつた。それは有難いことであつた。といふのは生きてゐれば感情を持つてゐることだらう。 感情をもつてをれば變りはてた自分の姿を見てどんな感じがするだらう。彼女は骨ばつた手をあげて、 かすんだ眼であたりを見まはしながら、龜のやうに、そろ〜と頭を左右に振つた。眼はもう見えないのだ。 白い眼は角膜で蔽はれてしまつてゐたのだ。何たる哀れな眺めであらう!だが彼女はまだ物を言ふことはできた。

 

「カリクラテス」と彼女は嗄《しやが》れた慄へ聲で言つた。「妾を忘れないで下さい、カリクラテス。 このはづかしい姿をあはれんでください。。妾は死にはしません。また來ます。もう一度美しくなります。 誓つてこれはほんたうです!おゝ --」かう言ひながら彼女はがくりと顏を伏せて動かなくなつてしまつた。

さうだ。かうして、二千年以上前に、彼女が僧侶カリクラテスを殺した同じ場所で、 アッシャは自分から倒れて死んでしまつたのだ。

極度の恐ろしさに打たれて、吾々も、砂の床の上に打ち倒れて、そのまゝ氣を失つてしまつた。

 

私はどれ位の間氣を失つてゐたのか知らない。多分數時間もたつたのであらう。 私が眼を開いた時には、あとの二人はまだ床の上に横はつてゐた。薔薇色の光はまだ曙の空のやうに輝き、 生命《いのち》の精の雷車はまだその軌道を走つてゐた。私が眼醒めた時はちやうど火柱が消えてゆくところであつた。 かつては光榮に包まれた女王であつた彼女の干乾《ひから》びた皺だらけの皮膚におほはれた醜い猿のやうな屍骸もまだそこに横はつてゐた。 あゝこれはいやな夢ではなかつたのだ。嚴肅な、前代未聞の事實であつたのだ!

どうして一體この樣な變化が起つたのであらう?命を與へる火の性質が變つたのであらうか? ことによると、この火は、時々�カ命《いのち》の精のかはりに死の精を吐き出すのではあるまいか? それとも、この火を二度浴びると中和して前に得た力が相殺されてもとのとほおりになつてしまふのであらうか? かう考へれば説明のつかぬことはない。といふのはアッシャの死んだ時の有樣は、 何か異常な方法で、二千二百年も女が生きてゐたら、これ程にも年を老《と》るだらうと思はれる姿だつたからだ。

だが、この時何が起つたかは誰にだつてわかりつこはない。それは事實であつたのだ。 今までのアッシャは、生きながら墓所の中に閉ぢこもつて戀人の來るのを待つ外は世界の秩序に大した變化も起さずにゐたが、 若しこのアッシャが戀を得て幸福になり、不滅の若さと、神のやうな美と力と、 數千年の知慧をもつてしたら、社會に革命を起したかも知れはしない。人類の運命を變へたかも知れはしない。 かやうにして自然の大法に逆つた彼女は、どれ程強かつたにしても、遂にその自然の大法にはね返されて、 醜骸をさらすことになつてしまつたのだ。

しばらくの間、横になつたまゝ、ぼんやりと心の中で恐ろしかつたことを囘想してゐるうちに、 その場所の浮き〜した雰圍氣のせゐか間もなく私の體力は恢復して來た。 私は外の者のことを思ひ出したので、二人の正氣を恢復させることができるか、どうかを見るために、 よろ〜と起ち上つた。だが私は先づ第一にアッシャの下着と薄紗《うすもの》のスカーフを拾ひ上げた。 このスカーフこそは、彼女が彼女の眼も眩む美しさを人々の眼からかくすためにつかつてゐたものだ。 それから私は彼女のかはりはてた姿を見ないやうに顏をそむけて、それを彼女の屍骸の上にはふりかけた。 レオが正氣に返つてそれを見やしないかと思つて私は大急ぎでそれををへた。

それから砂の上に散らばつてゐた香の高い黒髮の塊りを踏んで、うつ伏せになつて横はつてゐるジョッブのそばへ行き、 彼の身體を仰向けにひつくり返した。私が彼を抱き起すと彼の腕は氣味惡くだらりと下つた。 私はそれを見るとぞつとして、けはしい眼をして彼の顏を見た。一目見たゞけで十分だつた。 吾々の忠實な老僕は死んでゐたのだ。これまで隨分恐ろしいことを見て來て、極度に傷けられてゐた彼の神經は、 この最後の物凄い光景を見て、すつかり打ち碎かれてしまひ、恐怖のために、 或は恐怖から生じた發作のために死んでしまつたのだ。

これも大變な打撃であつたが、吾々はもう次から次へと恐ろしい目に遭ひどほしだつたので、 その時は格別ジョッブの死には驚かなかつたと言つても讀者は理解してくれることゝ思ふ。 この男の死んだのは當然だつたのだ。それから十分程たつて、レオが呻きながら、そして四肢を震はしながら、 正氣づいた時、私は彼にジョッブの死んだことを話した。すると彼はたゞ「はあ」と答へただけだつた。 だが記憶しておいて貰ひたい。これは彼が無情な人間だからでは決してないのだ。 彼とジョッブとは非常に愛しあつてゐた仲だし、 それにその後�ニ々《しば〜》彼はジョッブのことを可哀さうだ可哀さうだといつて話す。 その時は彼の心がもう堪へられなかつたのだ。豎琴の出す音には、いくら強く打つたといつて一定の限度があるものだ。

この語句は、テツの好きな場面・・・ただしこの語句(場面)の動画は、無いようです。

豎琴の出す音には、いくら強く打つたといつて一定の限度があるものだ。
A harp can give out but a certain quantity of sound, however heavily it is smitten.

創元推理文庫1974年5月24日版の訳(訳者大久保康雄先生)
琴は、いくら強く弾いても、あるきまった音色しか出せないのと同じことだ。

 


 

「洞窟の女王」1935の抜粋(ハイライト)

http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=kTi2pWzzHSU 

 
SHE(1935)
アッシャとレオ(ハイライト)

http://www.youtube.com/watch?v=mqD7pkVyoOw&feature=player_embedded 

 She demonstrates her power
http://www.youtube.com/watch?v=MFFPYjsbt9A&feature=player_detailpage 

 

 


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