牛熊日記

趣味や関心事を中心に日記をつけてみます。

日本国債は大丈夫か

2012年02月11日 10時42分50秒 | 日記

日本国債は大丈夫か、という題で話しをさせていただくことになった。

2002年9月の日本の10年国債入札で初の札割れが発生したその日、
拙著「日本国債は危なくない」(文春新書、現在絶版)が発売された。

この本では、実はどこにも日本国債は危なくない、との表現はなく、
編集者が内容を吟味し最終的に付けたタイトルであったが、
あとで振り返れば、2002年当時は実際に日本国債は危ないという状況にはなかった。
日本国債を消化するだけの資金が十分に国内に存在していたためである。
需給への懸念以外には、日本国債を売るような要因はなかった。
デフレや日銀による量的緩和政策など、むしろ国債を買う材料の方が多かった。
2002年9月の10年国債の札割れは、買い手が引いてしまったというよりも、
日銀による金融機関の株式購入や、通常はないはずの週末の利付国債入札といった条件が重なってしまった結果であった。
だから、このときの国債相場の下落は一時的であり、すぐに値を戻している。

その後も国債の大量発行は続くことになる。この場合の国債発行とは、新規国債の発行を示す。
大量に発行される新規の国債を購入できるだけの余裕資金が国内に存在すれば需給面では問題はない。

ただし、国債を買い支えてきていた生損保や年金、さらにゆうちょ銀行などの国債保有額は頭打ちになってきた。
しかし、それをカバーしてきたのが銀行であり、預金増に対して融資が伸びず、その分国債に資金が向かうことになる。
当初は個人の預金増などが影響していたと思うが、ここ数年では企業による預金の増額分がかなり国債をカバーしている。
さらに最近では、海外投資家による日本国債の保有が増加するなどしており、いまのところ国債需給に問題はない。

1998年末の資金運用部ショックをきっかけに、財務省と市場参加者との意思疎通が図られるなど
国債管理政策が進められた結果、毎年度の国債増発に関しても相場への影響は極めて小さくなっている。

それでは本当に日本国債は大丈夫なのかと問われれば、大きなリスクを孕んでいると答えざるを得ない。
そのリスクについて考えさせられたのが、2010年からのギリシャを発端とする欧州の信用不安である。
これは何かしらのきっかけで、国債の信用が失われ、それが利回り上昇を招き、
その結果、あらたな国債発行を困難にし、政府の資金繰りを悪化させ、
さらに金融機関にも影響を与え、問題を深刻化させる事態を見せつけられた。

これはユーロというシステムに内在する問題とは片付けられない。
ギリシャの問題も財政赤字を操作していたというきっかけで信用が失われ、
それがポルトガルやスペインを経由し、イタリア、さらにフランスまで及んだ。
これには格付け会社による格下げが、火に油を注ぐことになったが
国債の信用が毀損し、国債の利回りが上昇することで、何か起きるのかを我々に見せてくれたのである。

つまり、日本国債も今回のギリシャというよりもイタリアのような金利上昇が起きる可能性がある。
その要因となりそうなものに、経常収支の黒字の減少がある。
貯蓄率の低下等を含めて、国内の資金が日本国債がいずれカバー仕切れなくなるであろうとの観測である。
国内の個人の金融資産は無尽蔵にあるわけではなく1500兆円程度である。
国債の残高が増えなければ問題はないものの、毎年度40兆円を超す新規の国債が発行され、
それはまだこれからも続くことが予想される。単純にあと10年で400~500兆円の新規国債が発行されるとして
それを消化するだけの国内資金があるのかどうか。金融機関もすべての資金を国債に振り向けることはできない。
むしろ、国内で消化が難しくなるであるとの予想だけでも相場は先んじて動く。
大手銀行なども、いまそこにあるリスクではないものの、将来のリスクはかなり気にしていることも確かであろう。

それではその懸念により、国債に売り圧力がかかった場合に何が起きるのか。
巨額の資金を国債以外に振り向け先はなく、日本国債が売られることはないと考えるのは早計である。
他人よりも早くそのリスクを回避すべきとばかり、流動性の大きい債券先物などに大量売りが
もしも国内大手銀行などから持ち込まれれば、それだけで市場は動揺し、長期金利は跳ね上がる。
そして、その長期金利の上昇が、2%という大きな節目を突破したとき、その動揺はさらに広がる。

これはイタリアの長期金利がそれまでの天井とみられていた4%を上回った際と同様のものとなろう。
そこから6%あたりまでの上昇は早かった。このイタリアの10年国債の利回りの動きを見ても
日本国債も2%の節目を突破した際に利回り上昇ピッチが早まり、4~5%近辺に跳ね上がる可能性がある。

日本国債の場合に発行額があまりに大きいため、1%の利回り上昇による影響は非常に大きくなる。
利払費用の増加によりさらに財政を悪化させ、大量に日本国債を保有する金融機関にダメージを与える。

このような懸念が存在する以上、日本国債は絶対に大丈夫と言うことはできない。
ただし、いつ、何をきっかけに日本国債の利回り、つまり長期金利が跳ね上がるのかは予想が難しい。

しかし、そのようなリスクを押さえ込むこともできなくはない。
そのためには現在、欧州各国が取り組んでいるような財政再建を行う必要がある。
そうしなければ、現在、ギリシャが行っているような財政緊縮策が求められることになる。
ただし、日本の場合あまりに債務が大きすぎて、IMFなどは口は出しても金は出せないことになろう。

何故、イタリア、スペイン、ベルギーの国債が売られたのか

2012年02月08日 19時12分55秒 | 日記

ギリシャの債務削減交渉が大詰めを迎える中、
イタリアなどの国債利回りの動きを見ると、急速に信用不安が収まってきた様子がうかがえる。
イタリアの10年債利回りのグラフからは、二度にわたり、7%台に乗せた後、現在は5%台に低下している。
スペインの10年債も、6%台半ばあたりから、一時、5%割れまで低下した。
そして、ベルギーの10年債も一時6%近くに上昇したが、今度は4%割れとなっている。

いったいイタリアやスペイン、ベルギーについては何故、それほどまで利回りが上昇しなければならなかったのか。

今回の利回り低下の背景としては、ECBによる資金供給のよる影響が大きかったとの見方が強いが、
それでイタリアの信用が戻ったわけではないはずである。
ECBによる資金供給は国債需給面で多少、影響はあったかもしれないが
今回のこれらの国の金利低下は、欧州の信用不安そのものが後退したためである。
ギリシャは確かに問題を抱えているのは確かであるが、イタリアにそれほど大きな財政上の問題があったのか。
イタリアのプライマリー・バランスは黒字であり、ベルギーは経常黒字の国である。
今回の欧州の信用不安は、まさに不安の連鎖であり、その不安を沈めることが最大の問題解決法であった。

いまはたぶんそれに成功しつつあるのではないかと思う。
これにはドイツやフランスのトップが何度も協議を繰り返し、またユーロ首脳会議でも真剣に時間をかけて協議を行い
なんとしてもユーロというシステムを守ろうと不断の努力を行ってきたことを、市場も理解し始めたのではなかろうか。

信用は移ろいやすい。だからこそ、ソブリンリスクが国債の利回りの変化を促し、火が付いたところに格付け会社が油を注いだ。
しかし、火が消え去れば油を注いでも、もう燃え広がらない。

これで欧州の信用不安が解消されたということは言えないが、ヤマ場は超えたのは確かであろう。
周辺国の利回り上昇が落ち着けば、金融機関への影響もその分、減少する。
もちろんギリシャの問題の影響は今後も残るが、損失額が明らかになれば、不透明感も払拭される。

市場にとって先が見えないことほど恐いものはない。これは市場に限らずそうであろう。
だからこそ、イタリアやスペイン、ベルギーの国債利回りも以上なほど上昇したのであろう。
しかし、先々がある程度見えるようになれば、不安は急速に収まる。それが今の姿かと思う。

国債に対する信用不安が生じた際に、どのようなことが起きるのか。
今回のユーロ圏諸国の国債の動きは、たいへん貴重な事例になろう。
米国債もあと15年か20年で危機を迎えるといった見方もあるが、それより前に危機を迎えるであろう国の国債もある。
このためにも、貴重な事例研究として今回のユーロ圏の動きはたいへん参考になるのではなかろうか。

「日本国債のケースD、第二回 国債の信用を見るには」

2012年02月06日 19時24分36秒 | 日記


(糸川教授)日本国債の現状について、小川君から説明してもらったが、それでは次に日本国債の信用度について考えみたい。今回は日本国債の信用度は何を元にしたら良いのかというのが、ひとつの課題となる。これについてはゼミ生の意見を聞いてみたい。各自、思うところの意見を出してほしい。

(ゼミ生、森岡)債券の信用を計るとすれば、やはり格付け会社による格付けではないでしょうか。国債についてもソブリン格付けというかたちで格付けされているので、それで信用度を見ることができると思います。

(ゼミ生、鮫島)格付け会社の格付けは、あくまで格付け会社の意見であり、絶対に正しいというわけではないと思います。実際にソブリン格付けについては、過去のデフォルトの事例なども限られているので、企業の格付けなどに比べて正確性に問題ありと思います。

(ゼミ生、岡野)それではCDSはどうでしょうか。債券がデフォルトに陥るリスクに備える保証料を示すCDSスプレッドも信用リスクを見るための参考になると思います。

(ゼミ生、宮間)そのCDSスプレッドなのですが、マスコミなどで良く取り上げられることも多く、私たちにも信用を見る上で参考にできるものと思うのですが、以前、債券市場の参加者に話を聞いたところ、CDS市場そのものの規模は日本の国債市場に比較して極端に小さく、参加者も極めて限定的であるので、あくまで参考程度にしかならないと言ってました。

(糸川教授)いくつか意見が出てきたが、ここでひとつ基本的な事を聞きたい。国債ではなく社債などは、信用度というか価値はどのような形で表現されているのか、説明できる者はいるかな。

(岡野)それは同じ残存期間の国債の利回りに上乗せされる金利で表されていると思います。

(糸川教授)その通り。債券の発行体などに対してどの程度信用できるかはその上乗せ金利、つまり利回りのスプレッドで表現される。これはあくまで国債がリスク・フリー資産であるということが前提となっているが。

(小川)国債がリスク・フリーの資産であるかどうかについては、米国債も格下げされるなどしたことで疑問も生じていますが、それを考えるとややっこしくなりそうなのですね。

(ゼミ生、沢)なるほど、教授のおっしゃりたいのは金利ですね。国債の利回りは市場で決定されるわけであり、そこには市場参加者の信用度も価格形成に影響しているはずなので、利回りが信用度を測る物差しになると思います。

(糸川)さすが沢君に読まれたようだな。格付けについてはかなり批判も出ているように、ことソブリン格付けについては、私もやや懐疑的だ。これについては時間があれば、のちほど皆で議論したい。またCDSも市場への影響度を考えれば、市場でつけられた利回りの方が信用度は高いと言える。このため、今回、国債の信用度については、利回りをベースにして考えてみたいが、どうだろう。

(小川)そうですね。他に適切なものがないとなれば、国債利回りの変化で信用度の変化を見るという前提で良いのではないでしょうか。その上で、国債の信用度の変化による影響を考えていきたいと思います。

(沢)国債の利回りと信用度の関係について見るとなれば、もう少し具体的な利回りの水準との関係を見る必要もあると思いますが。

(糸川)このあたりは市場関係者の話を聞く必要がありそうだな。どうやら、宮間君は知り合いに市場関係者がいるようなので、その人から話しを聞くなりしてもらうと良いかもしれない。また、他の人も特に日本国債について、この利回り水準が何かしらの目処になっているといった話を聞いてきてほしい。それを次回のゼミにて発表してほしい。いくつかの目安をつけて、それを基にそれぞれのケースで起こりうることを、皆で議論し合うということでどうだろう。

(小川)了解しました。それでは時間も来たので今日のところはここで終了します。

続く


「日本国債のケースD」 NO.1

2012年02月05日 17時39分54秒 | 日記

 それではゼミを始める。課題としておいた日本国債に関する信用度の変化による影響について、今日は皆と一緒に議論していきたい。それではまず助手の小川君に日本国債の現状について発表してもらいたい。

(小川助手)それでは、先ほど配った資料を見てほしい。2011年度の日本の国債発行総額は169.6兆円、このうち新規国債は44.3兆円、復興債11.6兆円、財投債14兆円、借換債111.3兆円となっている。いまさらそれぞれの国債については説明はいらないと思うが、もしわからない者がいたら、参考文献にしておいた久保田博幸氏の「国債の基本とカラクリがよ~くわかる本」でチェックしておくように。これだけ多くの国債が発行されているが、たとえば10年国債の昨年4月から12月の応札倍率の平均は約3倍程度となるなど、順調に消化されており、札割れも生じていない。

(ゼミ生、岡野)札割れと言えば、昨年ドイツの国債入札で札割れが発生したときには、結構、市場では大騒ぎになったと聞いていますが、どんな状況だったのでしょうか。

(小川)札割れというのは、国債の発行予定額に対し、入札された額が届かなかったことを言うが、その国々によって国債の入札の仕方には違いがあり、たとえばドイツの場合には国債入札において、札割れそのものは珍しいものではない。ただし、昨年11月のドイツの10年債入札では足りなかった割合が39%とかなり高くなっていることが市場では嫌気され、それがドイツ国債の売り要因となり、日本の国債市場にも影響を与えた。しかし、結果としてその影響は一時的なものであった。

(糸川教授)日本でもたしか2002年9月に、10年国債で初めて国債入札での札割れが発生した。このとき日本の国債相場も急落したが、影響はやはり一時的であった。ただし、今後、札割れが頻発するような事態がもし日本国債で発生すると、市場ではかなり不安感が強まる可能性はある。

(小川)しかし教授、日本でも米国のプライマリー・ディーラー制度といえる国債市場特別参加者制度が機能していることで、何かしらの影響で一時的な札割れが起きるとしても何回も続くなんてことは考えづらいのではないでしょうか。

(糸川)その特別参加者は無理矢理国債を引き受けているわけではない。もし日本国債に対する懸念が強まった際に、国債市場を機能させるため、多少無理しても札を入れることはあるかもしれないが、投資家のニーズがないところに大量に国債を落札することはリスクを抱え込むことになるため、やはり避けるだろう。このあたりのことについては、もう少しあとで議論したいので、小川君、現状に関する説明を続けてくれたまえ。

(小川)はい。今度は国債の残高について確認しておくと、ひとつの目安の数字として、2011年度末として普通国債667兆円、財投債114兆円、政府短期証券156兆円となっている。また、国債の保有者としては国庫短期証券は含まずの数字では、銀行などが38.0%、民間の保険・年金24.8%、公的年金9.4%、日本銀行8.5%、海外6.3%、投信など金融仲介機関が5.3%、家計が3.9%、財政融資資金0.1%、その他が3.6%となっている。ちなみに、海外については国庫短期証券を含むと8.2%に膨らむ。

(ゼミ生、森岡)日本国債の場合の特徴のひとつに海外投資家による保有が少ないことが挙げられますが、それでもここにきて海外投資家の保有が増加していますが、これは良い兆候と捉えても良いのでしょうか。

(糸川)日本国債の海外保有が少ないということは、それだけ巨額の国債を消化するだけの資金が国内に存在しているということにもなり、それが今後の日本国債の安全性をはかる上でのキーポイントにもなる。さらに海外からの国債保有額が増えれば、今後の国債需給には良いニュースではある。しかし、昨年の海外からの日本国債への投資は、どちらかといえば、欧州の信用不安によりリスク回避の資金が逃げてきただけだと思われる。これはユーロ圏の債務危機の強まりにより、米国債やドイツ国債、英国債が買われていたり、また外為市場で円が買われていたことからも、その解釈で正しいと思われる。

続く