プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 江國香織「抱擁 あるいはライスには塩を」

2021年05月20日 | ◇読んだ本の感想。
たしかずっと前に(もう10年近く前のことかもしれない)
NHKの「週刊ブックレビュー」でみんなが褒めていたので読もうと思って
リストアップしておいた。推薦したのは松田哲夫だったかなあ。

「週刊ブックレビュー」は2012年に終了していたんですね。
道理で最近見ないはずだ。もう9年前か。児玉清が亡くなったのも、
じゃあ10年近く前か。この10年くらい居眠りでもしていたような気がする。

江國香織は特に好きではない作家で。
「流しの下の骨」と、その他たしか2、3冊は読んだが、好きにはなれなかった。
「流しの下の骨」も内容は覚えていない。こういうふわーっとした、
ほの明るくほの暗いような雰囲気の話は好きではない。もう読むつもりはなかった。
が、そこまでおすすめするなら。読んでみようじゃないですか。



そして読んでみたところ、これは面白かったです。
ふわーっとしてなかった。適度な歯ごたえがあった。

「いいおうち」の家族の話。中くらいの規模の会社の社長の家。
家は立派な洋館と描写されている。ちょっと立派すぎるかな?と感じるほど。
この屋敷に住む、三世代の人生が個々の視点で語られる。

登場人物は、

祖父と祖母(祖母はロシア人)。
長女、次女、末っ子の弟、長女の夫。
長女夫婦には子どもがいて、第一子は女、第二子は男、第三子は女、第四子は男。

このうち第一子は父が違い、第四子は母が違う(どちらも不倫の結果)。
次女と弟は独身で子どもはいない。
10人家族ですね。祖父はいつの間にか死んでしまっているけれども。
その他に多少「外」の人が語る章もある。

みんな変な人。
……とまとめてしまってはランボーだと思うが、この人はまあ変な人を書くのは
デフォルトでしょう。生きる違和感を書く人だね。
外側から見ると、登場人物はみんな青白い、何を考えているのかわからない人々。
が、内側から見ると外側が怪物に見える。

だが同じ家でも当たり前だが一人一人の人生は違う。
違うことと影響を受けざるを得ないことをどっちも書いている。


章ごとに一人称の視点人物が違うので、そこで若干苦労した。
時間がいったりきたりするから、誰が誰だったか瞬間的にはわからなくなるんだよね。
前述の家系図を思い出して、あ、この人はこれか、とわざわざ辿る。
しかし常に一人か二人、記憶から剥離している。この本は4日くらいで読んだが、
登場人物が出そろったあたりで、一度家系図を書いてみた方がわかりやすかったな。
1人の人物の子どもの頃ー少年の頃―大人になって、と3回くらいずつ出て来るから
余計混乱する。


長女は、若い頃と母になってからの人物にちょっと乖離を感じた。
そういうもんだろうけど。
次女は、見知らぬ場所・人が苦手で大学で教えられるはずはないというのが違和感。
次女こそ家に閉じこもって過ごすタイプ。中年になるとギスギスしたものを
感じてしまう。
末っ子の弟は、半分毛色の変わった、明るい弟。
なぜだか桐谷健太のイメージで読んでいた。
桐谷健太本人のイメージとは違うけれども、実写化するならわりといける気がする。


第一子は印象が強くはなかった。一番普通の人になっていくかも。
そもそも最初のパートである子供時代でもちょっとしか出て来ないんだよな。
4人の子どもたちを中心に書いていくのかと思ったら、そうでもなくて肩透かし。
その時点での視点人物である第三子が中心になるのかと思えばそうでもない。
第二子については本人ではなく、大学生になって出来た彼女が語る。
(この彼女が健やかな人なのが救い)
第三子は最初だけ饒舌だが、その後ほとんど出て来ず、小さい頃の印象とは違って
家に閉じこもり、ひっそりと作家になっている。これも違和感。
第四子は……あれ?どうなったっけ?あ、そうか、実の母と暮らすために家を出るんだ。


読んでる間面白く、満足していたが、読後に浮かんで来る個別の感想は特になかった。
最終的に家族は崩壊に向かうのだろうかと思いながら読んで。
まあ崩壊まではいかない。崩壊といえば崩壊なんだけど。

そこで崩壊を耐え抜くことが「家族」というものの恐ろしさなのかな。
それを恐ろしさととらえるのか、業というのか、救いととるのかは人それぞれ。


ただ最後はわりとバタバタしてしまって、そこは微妙だと感じた。
作者としては、満を持して根源たるおばあ様を出して来たのかもしれないが、
おばあ様の設定がドラマティックで、でもその設定のせいで人物が
深まっていない気がした。設定で安心しちゃうということはありますよ。
おばあ様はそれまで一度も語らないので、話の中であまり息づいていた気がしない。

うがちすぎかもしれんが、これは江國香織なりの大河小説なのかなと思った。
大河小説であれば何巻にもわたってボリュームがあるものを想像するが、
この人はうっすら書く人でしょう。うっすら書く人のボリュームといえばこのくらい。

このくらいの確かさがあれば、わたしは面白く読める。
これが一冊目だったら、わたしの江國香織へのイメージはだいぶ変わっただろうな。
あとは読む予定はないけれども。

あ、ちなみにタイトルの「抱擁」は家族内でのなぐさめのしぐさであり、
「ライスには塩を」は自由を謳歌する時の言挙げだそうです。
この話には家庭内の合言葉がいくつか出て来る。
それはちょっと良いかな、と思わんではないけれども、
でも合言葉は外界(家庭内も含む)への防衛行動なんだよね。





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