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本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

☆< 風雲児たち 月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと )>

2020年10月07日 | ☆映画館で見た映画。
シネマ歌舞伎。三谷幸喜だーっ!風雲児たちだーっ!と
テンションがあがって前売りを買い、それで安心してしまって、
風雲児たちのなかの何の話かも、キャストも把握していなかったから、
突然船の話から始まって戸惑った。
よく考えれば一口に「風雲児たち」といっても、色々な話がありますからね。

大黒屋光太夫の話だったんですね!

大黒屋光太夫といえば「おろしや国酔夢譚」がありますが……
さて、歌舞伎で三谷幸喜、大黒屋光太夫とはどうなることか。


かなり期待が高く――しかし前半は少々退屈になってきていた。
わりと絵柄が変わらないし、話も地味だもんね。
でも前半部の苦労を描かなければ後半にも繋がらないし、
多人数のキャラクターの見せ場を作ってあげるのが三谷さんの作劇法だから、
まあ仕方ないかなと思う。

後半になってから話が面白くなった感じ。
ただ舞台がロシアで、衣装が西洋時代もので、八嶋智人が出て来て、
特に鳴り物や語りがないとなると、ほぼ歌舞伎ではないですな。
この辺は普通の舞台劇になっていた。
舞台の広さも全く行かせてなかった。

脚本的には――三谷幸喜が大好きな「風雲児たち」を素材に書いたんだから、
つまんないわけない!と思って見に行った期待よりは、ほんのわずかに落ちたか。
前半の地味さは納得出来るけれども、納得できないのは
最後の一番盛り上がるべき「別れ」ですな。

あそこで猿之助が光太夫を「あんたについて来た結果がこれだ!」と糾弾し、
光太夫が土下座して謝り、そこからキスになって、猿之助が取り乱し、
それを振り切って光太夫がむりくり離れていく、愛之助も帰りたいと取り乱す、
それは正解じゃないと思う。

猿之助が光太夫をこの期に及んで責めるのは余計だし、
幸四郎の土下座がコミカルで全然重みがないし、
そこからキスするだけの盛り上がりには決定的に欠けるし、
猿之助が実際にすがるのも変だし、
それを幸四郎が振り放してというのも変だし、
愛之助が間抜けに見える。

ここは責めなくても良かった。むしろ光太夫が重々しく謝罪をして、
猿之助が「運命だ」と平静に言い、こらえきれなくなった光太夫がキス、
その衝撃のまま光太夫が出発し、その後姿を見て耐えられなくなった猿之助が
渾身の慟哭。しかし光太夫はその時もう花道まで来ていて、
耳にかすかに聞こえる叫びを振り切るように出発。じゃなきゃおかしい。

これはそのまま「おろしや国酔夢譚」の流れかと思いますけどね。

愛之助がいることで、若干緊迫感は削がれるなあ。
愛之助はサンクトペテルブルグで見せ場があったから、
この場にはいなくても良かったんじゃないかなあ。

猿之助の慟哭を存分に見せた上で、陰からそっと姿を現し、
その後2人の慟哭でも良かった。
そして猿之助には最後の最後は取り乱して終わるのではなくて、
正教会十字にすがって欲しかった。

ここは三谷幸喜の明確な失敗だと思う。



たーくさんいた役者たちの中で……

まず主役の幸四郎。まだ幸四郎と呼ぶには全然違和感があるけれども。
わたしは昔から、この人を評価してないんだよね。
この人、線が細い美形なので色悪はけっこうはまったんだけど、
どっしりした役がねえ……。

今回の大黒屋光太夫は「おろしや国酔夢譚」で緒形拳が演じた役。
未曾有の危機、絶望的な状況の中でみんなを導く、カリスマ性と肝っ玉の太さが
ないと話にならない。
が、幸四郎は今回単に調整役だったですな。最初のシーンなんてあまりにも軽すぎて。
あの「六百里」のところですよ。あの軽さでよもや光太夫はないと思った。

エカテリーナ謁見の場面も、本来なら光太夫の見せ場になるはずだったのに、
どう考えて白鴎の方がその場の主役だったですからね。
白鴎の迫力と輝きが強すぎて……。3倍くらいあった。
白鴎ももう少し手加減してやればいいのではないかと思ったくらいだ。
あなたの息子がもっと骨太で、がっつり組み合えるのならば
ガチの対決もいいだろうが、幸四郎にそこまでの力量はありませんよ。

わたしは何となく高麗屋を好かない。松本白鴎はすごくいい役者だと思うけど、
うっすらうっとおしいし、松たか子はいい舞台女優だと思うけど、
やはりうっすら虫が好かない。そして幸四郎は好きではない。

が、今回初めて存在を知った染五郎は可愛かったですね!
幸四郎が「親じゃあねえが」と2、3回言って観客が受けていたのを聞いても
息子だとは気づかなかったが。歌舞伎はこういう内輪受け好きですもんね。わたしも好きだ。

真面目そうに見えるので、今後愚直に歌舞伎に邁進して欲しい。
高麗屋はわりと歌舞伎外にフィールドを広げがちで、それはすごくいいことだと
思うけど、歌舞伎での力量があってこそのことだと思う。

幸四郎は歌舞伎に浸かる前の若い頃に他のフィールドに出ちゃった気がするから。
まあ幸四郎も人に合った役ならいいのかもしれないが、今回の光太夫は不可。
染五郎には親だけではなく、広く先達を見て欲しいです。


今回役柄的に得をしたのは猿之助。
一番歌舞伎的な見せ場があった。むしろ光太夫は猿之助の方が合っていたと思う。
そうすると幸四郎の出番がないわけだが。幸四郎が庄蔵を出来るわけでもなく。
今回の当てがきは猿之助に一番特化していただろうな。

別れの場面、「俊寛」の演技は良かったなー。前後の流れが超絶悪いに関わらず泣けた。
そしてエカテリーナを猿之助がやっていたのは全く気づかなかった……。
女形の顔は見分けがつかん。
ただ、ポチョムキンを目くばせで黙らせるというより、威厳で黙らせる脚本に
して欲しかった。


愛之助は良かった。細かい表情の演技が良かった。
ロシアに残るというシーンは良かったなー。
しかしこの人ががっつり歌舞伎をしているのを現時点で見たことがないので、
歌舞伎役者としてはどうなんだろうなーと思う。役者としては好きですけど。

あとは……小市良かった。が、本人を知らない……。
市川男女蔵らしいです。写楽の浮世絵でしか知らんなあ。

白鴎はやりすぎなくらい上手い。出て来ただけで全舞台を制圧する。
華があるというか、華というより溶岩のような底力というか、
まあまずすごい役者だと感じたよ。
が、一人であれをやっちゃうと舞台のバランスが崩れる。
今回の幸四郎が気の毒なくらいだ。

八嶋智人は三谷さんの自家薬籠中のものだから、脚本を書く方も演じる方も、
のびのびしている。なんだったら一番生き生きしていた。
親子二役という外し技も持ってくる……。お楽しみですね。

女形のみなさんは外国の衣装をつけていても、しっかり女形なんだなあ、と感心。
あ!あれが良かったですよ、愛之助の恋人のマリアンナ。
坂東新悟。多分まだ若いよね?今後が楽しみ。覚えておこう。
役柄的にも面白かった。面白いだけじゃなくて、しんみりもした。
その機微がうまくでていた。


最後のシーン、死んだ人も含めてみんな出て来て一列に並んで見栄を切るのは
良かったな。あれが歌舞伎のいいところ。

しかし総じて、歌舞伎の良さを十全に活かせたとはいいがたいは言い難い。
まあしょうがないよね。三谷幸喜はあくまでも他の畑から来ている人だから。

舞台としては面白かった。わたしは三谷幸喜による「風雲児たち」を
心待ちにしているので、またやって欲しい。
今回も良かったけど、また正月の特番ドラマで見たいな。


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