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本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 辻由美「若き祖父と老いた孫の物語 東京・ストラスブール・マルセイユ」

2022年11月03日 | ◇読んだ本の感想。
タイトルからもしかしてフィクションなのか?と思ったが、
この人は翻訳家であり、ノンフィクション作家なので、そんなわけはなく、
この本もノンフィクション。若い頃日本にお雇い外国人として
滞在した祖父の遺品を、80歳になってから家の奥から発掘した孫の話。

この人の作品はたしか3冊目。3冊目を読んで、好きだわ、この人。と思った。
翻訳史のエピソードをつづった「翻訳史のプロムナード」も良かったし、
昔、有名な事件だったらしい「カルト教団太陽寺院事件」もサスペンスフルだった。
今回のこれも。全体的に肌に合う。

総じて主題の掘り下げ方は浅いかもしれない――少し物足りなさはあるかも。
だがわたしはこのくらいでもいいと思うな。
たしかにもう少し深く知りたいと思うことはあるが、
あんまり詳しいと本としてのボリュームが増えて読むのが大ごとになるとか、
いろいろ覚えなきゃないことが増えるとか、マイナス点もある。
このくらいで、重くも軽くもなく、ちょうど良く読めるというのは中庸の美徳。


今回の本は、ストラスブールのことを書いてくれたのがお手柄。
アルザス地方はフランスとドイツが取ったり取られたりを繰り返した地方だと
たしか授業で習った。

祖父は普仏戦争の頃に生きた人。パリ理工科大学への受験期にストラスブールは
ドイツからの攻撃を受けており、建物が崩れ落ちるなか、パリからは
口頭試験に来いというハガキが届く。
その熱量の差に驚いた。戦場になっていないパリと戦場のストラスブール。

祖父の日記などから、ストラスブールへの攻撃の様子が細かくわかる。
生きるか死ぬかの日々。

フランスが負けたことによりストラスブールはドイツ領になり、
フランス国籍のままでいようとすればストラスブールから退去しなければならない。
祖父はストラスブールを離れ、その両親はとどまってドイツ国籍となる。
祖父が両親の家を訪れようと思えば、滞在は最長一週間まで、
それも家の外では監視付き。

もう少し祖父の日本時代のことを詳しく……という不満もうっすらと感じるんだけど、
ストラスブールにおける戦争は、この本を読まなければわたしは
知らなかったと思うので、読めて良かった。

タイトルに「老いた孫の物語」とついているのは、孫が祖父の遺品を見出した
経緯がそれなりにドラマチックだから。
放っておいた家族の遺品を取り出してみたら、結果的に面白く
歴史的価値もあった、というだけともいえるが、それに触れた時、孫は80歳。

そこから詳しくその遺品を調べはじめ、日記なんかも人を雇って全部デジタル化し、
研究を始めたのだからやはりなかなか出来ることではない。
そのまま捨ててしまえばそれだけのことになってしまう可能性もあった。
お雇い外国人が見た日本の記録は多少は数があるだろうが、総数からすれば
数が少ない。日の目を見たのは重畳だろう。


辻由美は翻訳家なので、翻訳した作品はそこそこあるんだけど、
ノンフィクションはそこまで図書館にないんだよね。7,8冊かなあ。
これを全部読んで、翻訳作品も1冊は読んでみよう。
久々に気に入った書き手だった。




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