The Snowy Day
The Snowy Day(日本語訳:ゆきのひ)は20世紀を代表する絵本作家のひとりEzra Jack Keats(エズラ・ジャック・キーツ)の代表作です。
ある朝、ピーター(Peter)が目覚めると、外は一面の雪!なにもかもが真っ白です。雪に覆われた街からはいつもの喧騒が嘘のように消え、しんとして、まるで息をひそめているかのように静かです。
わぁ!こんな雪、見たこともない!ピーターは大喜びで外に遊びに行きます。
ピーターはそおっと雪に足跡をつけてみます。靴の下で雪がきしみます。一歩また一歩、足跡が残ります。バサッ!静まり返った街では街路樹の枝から雪が落ちる音が大きく聴こえます。ピーターはだんだん大胆になって、積もった雪に体を押し付けて、両手を動かして羽の形にして・・・ほら、天使になった!公園に行くと、大きな男の子たちが雪合戦をしています。ピーターは「仲間に入りたいなぁ・・」と思います。が、まだ小さいから無理・・・自分でよく分かっているので、離れたところから眺めるだけ。
帰り道、あんまり白くてきれいなので、ピーターは雪の塊を大事に上着のポケットにしまって持って帰りました。
舞台はニューヨーク。幼い主人公のピーターはアフリカ系アメリカ人の男の子です。コラージュの手法を取り入れた素朴であたたかなイラストで、街を覆い尽くした真っ白な雪を背景にピーターの肌の色と朱赤のマントがきれいに映える美しい色遣いの印象深い作品です。シンプルで、ごく短いテキストだけで書かれているのに、不思議なほどに抒情的な絵本でもあります。
記録的な大雪だった今年のニューヨーク。セントラルパークでは、きっと、まさに「ゆきのひ」の絵本そのままの光景が繰り広げられたことと思います。
付録のCDはゆったりとした抑制のきいた朗読が作品の上品な持ち味を引き立てています。ゆっくりと朗読されているので、聴きながら、きれいな絵をゆっくり眺める時間があります。寒い冬の日、温かな部屋で子どもを膝にだっこして一緒に絵本を眺めながら聴くのも楽しいですし、雪が降ったら、また降る所に行ったら、親子でピーターの真似をして遊ぶのもまた楽しいものです。
The Snowy Dayは1963年のカルデコット賞に輝いた作品ですが、実は、アフリカ系アメリカ人の子どもを主人公にした作品が同賞を受賞するのは、これが初めて。その意味で時代を画した作品です。
作者のキーツはアーティストとしても、作家としても、子供向けの作品にさまざまな革新的な試みを持ち込んだ絵本作家で、『初めて』を冠した数々のエピソードの持ち主です。コラージュ手法を持ち込んだのも、絵本といえば牧歌的な田舎の自然が描かれるものと考えられていた当時の常識を覆し、大都会を舞台に、街の子どもを主人公にした絵本を描いたのも、キーツが最初と言われています。またピーターのような、それまで英語の絵本には登場しなかったマイノリティの子どもたちを主人公にして作品を書いたのも彼が始めてと言われています。
昨年アメリカでは、史上初めてアフリカ系アメリカ人の大統領が誕生しました。The Snow Dayのカルデコット賞受賞からかぞえると45年目です。
さてキーツの絵本では、子どもがその年齢相応の問題に直面しつつ、これを解決したり乗り越えたりしながら成長していく様子が丁寧に描かれています。これも従来のシリーズ絵本の常識からは外れていますが、キーツは主人公が同じ年齢の子供のままとどまったシリーズを描く代わりに、作品を追うごとに主人公が成長する様子を描くシリーズを書いてます。ピーターも例外ではなく、The snowy Dayでは4-5歳の男の子ですが、その後ほかの絵本にも順次登場し、登場するたびにだんだん成長しています(Peter's Chair, A Letter to Amy, Goggles!)。ピーターの”その後”を、お子さんの成長に合わせて、読んであげてください。