Baby Greens
友人のマイケルはベジタリアンです。妻のジェニーはベジタリアンではありませんでしたが、レストランではベジタリアンではないメニューを選ぶことがあっても、家庭では、夫のライフスタイルを尊重したベジタリアンの食生活を通すというふうに暮らしていました。
このカップルに赤ちゃんが生まれました。夫婦二人だけの時は、それぞれが相手を尊重しながら、自分のライフスタイルを持ってゆるやかに協調して暮らしていればよかったのですが、まだ自分で選べない赤ちゃんにどういうライフスタイルを選ぶかという問題に直面してマイケルとジェニーは大いに悩み、結局、家庭の食卓はベジタリアンでという結論を出しました。
ところが実際に離乳食が始まると、改めていろいろに悩むことになりました。赤ちゃんが食べられる菜食メニューだけで赤ちゃんが育つに十分な栄養を摂れるのだろうか?菜食だけで赤ちゃんの味覚を十全に育てることができるだろうか?そもそもベジタリアンの子どもは、他の子どもたちとどう交わっていけるのだろうか?などなど。
私たちは「個性的であれ」「自分らしくあれ」と言われ続けて育ちます。でも実際には、ほとんどの人が踏襲しているスタンダードな生き方の枠を超えて「ひとと違う本当に個性的な生き方」をするのは、現代でも案外むずかしいのではないでしょうか?
2002年にCNN/Time誌がおこなった調査から推定されるところでは、ベジタリアンは米国人口の約4%だけですから、やはり標準的なライフスタイルというわけにはいきません。
Baby Greens はベジタリアンとしての子育てについて書かれた本です。アメリカではベジタリアン、特に "自称ベジタリアン" には解釈にかなりの幅があり、(できるだけ)野菜しか食べない(ようにしている)といういわば "なんちゃってベジタリアン” から、卵とミルクだけは摂るスタイル、そして卵も乳製品も動物性食品はいっさい食べないビーガンVegan、さらに厳しい"菜食生食"だけのスタイルまであります。Baby Greensは"菜食生食"だけのライフスタイルをとる立場から書かれています。
著者のミカエラ・リン(Michaela Lynn)は理論家でも評論家でもありません。子どもたちや父兄からミッキーの愛称で親しまれながら、"菜食生食"のライフスタイルで保育園を営み、その経験をベースにして本書を執筆しました。執筆のきっかけは、いくら探してもベジタリアンのための育児書も手引き書も見つからなかったから・・・とミッキーは書いています。
本書の後半部分に掲載された豊富なレシピは、すべてミッキー自身の経験をくぐって完成されたものです。妊娠期の栄養の摂り方、かたいものが食べられるようになるまでの赤ちゃんの育て方と離乳食のレシピ、そして小さな子どもたちを「いかに食事作りに巻き込みながら、食を通してライフスタイルを考えさせていくか」のアイディアまでが満載です。
生野菜を「美味しく、栄養バランスよく、楽しく、食べる/食べさせる」の知恵に満ちた本書は、巧まずして、ベジタリアンだけでなく、子どもに野菜を食べさせるのに苦労している親たちへ、そして、すべての子育て中のひとへの福音書となっています。