【独話回覧】一帯一路は“コロナ・ロード”か 習主席が救世主!?支援名目で恩を売る中国の欺瞞 (1/3ページ)
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- トランプ米大統領は、「『私は中国に対して厳しいが、退屈なジョー・バイデン氏は弱腰だ』とし、バイデン氏の『中国ファースト、米国ラストの腐敗したたくらみ』に立ち向かおうと呼びかけた」(4月23日付、産経新聞デジタル版)と、民主党の大統領候補指名確実のバイデン元副大統領を非難している。中国・武漢発の新型コロナウイルス感染爆発を受けた米国の反中世論の高まりを背景に、「親中派バイデン」を印象づける作戦なのだが、確かにバイデン副大統領時代のオバマ政権は対中融和路線をとった。
中国の対米など対外経済攻勢は輸出や投資ばかりではない。「経済合作」という名目での建設プロジェクト受注で、建設労働者付きでの工事請け負いで、モノの輸出と同じく外貨、ドルの獲得が目的だ。合作による進出は2008年9月のリーマン・ショック以降、先進国、発展途上国を問わず契約を増やしてきた。合作による労務者など中国人の派遣数は年間100万人規模に上る。習近平国家主席が14年に打ち出した拡大中華経済圏構想「一帯一路」はその延長線上にある。
グラフを見ると、ばらつきはあるが、米国を筆頭に経済合作規模に応じてコロナ感染者の数が変動している印象を受ける。中国商務省統計によれば、合作プロジェクトの完工額は、18年米国が23・4億ドルで、中国の友好国イランの23・1億ドルを上回る。対欧州では英国、イタリア、スペイン向けに急増させてきた。それらの国は軒並み、新型コロナウイルス感染症で「医療崩壊」状態に追い込まれている。
習政権にとっては相手国が一帯一路に公式参加しようと、しまいと、合作に応じる国や地域は一帯一路の沿線となる。イタリア、英国、スペイン、トルコ、ポルトガル、ギリシャ、米国の沿海部、中米は習政権の構想の中では一帯一路に組み込まれている。北海道もそうで、都道府県別では最初にコロナ感染で非常事態に陥った。そう考えると、一帯一路は「コロナ・ロード」とみなされてもおかしくない。
昨年3月、習主席は訪問先のローマでイタリアのコンテ首相と会談、一帯一路協力の覚書を交わし、主要先進7カ国(G7)のメンバーを初めて組み込んだ。中国資本はアドリア海に面するトリエステ港の機能強化に向け、ターミナルや周辺の鉄道網の整備を引き受ける。ジェノバ近郊では世界最大級のコンテナ船が入港できるターミナルの建設に着手済みだ。ミラノなどイタリア北部にはブランド物などの生産請け負いビジネスを見込んで数十万人もの中国人が住み着いている。スペインは一帯一路の参加国ではないが、イタリア同様、取り込まれている。
両国、さらに英国など欧州のコロナ蔓延(まんえん)国は、緊縮財政により医療支出を抑制してきた。リーマン・ショック後に悪化した財政収支改善に迫られたのだ。これらの国々は緊縮路線の中でローン、ヒト付きの中国からの投資を喜んで受け入れた。その結果がパンデミックだった。
3月18日にはドイツのメルケル首相が悲痛な声で「第二次大戦以来の試練」と述べ、19日にはイタリアの新型コロナによる死者がとうとう発生源中国を上回った。同日、習政権は勝ち誇るかのように湖北省の新規感染者の発生がゼロになったと発表した。その前には、イタリアやイランに医療支援団を派遣し、フランス、ギリシャ、セルビアなどに防疫物質の支援を約束した。習氏はスペインのサンチェス大統領と電話会談し、「力の及ぶ限り」の支援を表明した。
習氏の手にかかると、新型コロナウイルス・ショックの元凶が、瞬く間に救済主となる。今後、一帯一路に参加している東南アジア、ロシア、中央アジア、中近東、アフリカ、インド洋や太平洋の諸島、さらに中南米へと感染爆発が起きると、中国は「支援」の名のもとに相手国に恩を売り、影響力を増していくソフトパワー攻勢をかけるだろう。この欺瞞(ぎまん)を許してはならないが、日本の政財界やメディアは親中派が多数を占め、NHKや朝日新聞などは中国寄りの世界保健機関(WHO)への協力を催促し、WHO非難のトランプ氏を批判する始末だ。
■田村秀男(たむら・ひでお) 産経新聞社特別記者。1946年高知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後の70年日本経済新聞社入社。ワシントン特派員、米アジア財団(サンフランシスコ)上級研究員、日経香港支局長などを経て2006年産経新聞社に移籍した。近著に『検証 米中貿易戦争』(ML新書)、『消費増税の黒いシナリオ デフレ脱却はなぜ挫折するのか』(幻冬舎ルネッサンス新書)など多数。