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50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

スケーティング・リンクで話が弾んだ後は、

2016-05-14 20:23:34 | 小説
スケーティング・リンクで話が弾んだ後は、近くの店へとどちらからともなく誘って出かけていった。御堂筋にいってみないかと言う話になって、
「ぼくとしましては曲に乗って滑れた時より嬉しい」
と啓らしくない軽いジョークを飛ばしたもので、
「御堂筋は私の一番好きな街なんやわ」と和子は声を弾ませた。

(「南幻想曲」つづく)

もううつむくことはないだろう。・・・

2016-05-04 06:32:39 | 小説
もううつむくことはないだろう。時どきここにこうして佇んでいたい。『楽しければ』
啓は脳裏の囁き声を訊いていて、和子はこうもらしている。
「<ふしぎの森のイメージ>ペアの曲ね」
啓は二十八歳だが、今日は会社の代休をとって、唯一の楽しみといってもいいだろうスケートをしに出かけた。啓はかって和歌山の南端の町から大学に入って中退、以来大阪でアパート暮らしだが、和子の方はこう言っていた。
「大阪の街を庭のようにして育ったわけ」
「センスが抜群や思った。音感がすばらしい」
「曲に乗って滑れるやなんて思わんかったわ。ペアはあなたが初めてなんやから、私は」

(「南幻想曲」つづく)

啓は今日偶然和子を知った。

2016-04-29 07:03:13 | 小説
啓は今日偶然和子を知った。ジーンズをそっと赤いコートに寄り添わせる外ないが、和子の方は以前からスケーティング・リンクで熱い目を注いでいたが、それは啓の知らないことだった。和子に合わせた年上らしい調子だった。「乗れたのは楽しい曲やからやねん」大阪弁には親しみがこもっていた。和子の視線を追ってみるとイチョウの葉が、浮き雲に黄色い歌を聴かせている。風も止んできた。で和子は啓の脇腹深く抱きついたままで、大きくうなづいている。気ぜわしく通る歩行者の列を気にかける理由もなく、気にすることもないようだった。啓はジーンズの胸に股に、太陽が風の止んだ歩道にあたためにきていて、熱のこもる息を覚えた。

(「南幻想曲」つづく)

楽しい時には大阪弁がふさわしいし、・・・

2016-04-23 13:40:11 | 小説
楽しい時には大阪弁がふさわしいし、今御堂筋は二人にこそふさわしいだろう。寂しさを拒むからだ。よく人も街も寂しさを表現するとか、それは嘘に相違なかった。
二人の間には難しい話はまだない。そうして、あの曲はこの御堂筋をシンボライズとか思ったが口にしなかった。リアリストの街がとも。それにしても和子の急な接近が嬉しい。

(「南幻想曲」つづく)