【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
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社長、減価償却をストップしましょうか?

2020-11-22 12:01:00 | 起業(会社設立など)と経営
利益を捻出するために減価償却をストップする(減価償却費を計上しない)というのは稚拙な金融機関対策として、古今東西、津々浦々で行われてきたことです。法人税法上、減価償却は限度額内で自由に行えばいいのですが、金融機関の視点である会計理論上、減価償却は毎期継続して一定の方法で行わなければなりません。減価償却費をストップするというのは、本来計上しなければならない費用を過少に計上し利益を過大にする不正な会計処理なのです。

◆法人税法上の赤字の繰越期間は10年間

法人税の計算において、ある事業年度の赤字を翌事業年度以降に繰越せるということはよく知られています。ただし、それには青色申告で申告しなければなりません。たとえば、当期が100万円の赤字であれば、翌事業年度に100万円の黒字になっても前事業年度の100万円の赤字と相殺できるので法人税は課税されません。

この繰越しができる期間は翌事業年度以降10年間ですので、繰越赤字の相殺がこの10年間でできなかった場合には、その分の赤字は法人税の計算上は消滅します。

「たった!10年ですよ。たった!」

◆減価償却をストップする(減価償却費を計上しない)ほうがいい場合

赤字の額があまりにも大きく、赤字の大きな原因が減価償却である場合には、減価償却をストップするというのも一法です。

「これ以上、金融機関から融資は受けない。」
「赤字を取り返すのに最低でも数年は要する。」
「この先、10年以上は会社を継続する。」

というのであれば、減価償却をストップすることをおすすめします。

「あの頃の赤字は、もう今の利益と相殺できないのか・・・」
「なにが金融機関の評価だ!この10年間、1円も新規に借りていないのに・・・」

そうでないと10年後、このように後悔します。実際、こういうことがあります。10年なんてあっという間に経ちます。「10年では何もできなかった(現状維持で精いっぱいだった)」になるかもしれません。また、10年後は後継者が手腕を発揮して利益体質に変貌しているかもしれません。

◆減価償却資産を廃棄あるいは売却すれば過去の償却不足が顕在化する

法人税法上、減価償却は限度内で自由にすればいいので、「先送り」できるということです。しかし、減価償却資産を廃棄や売却をすれば過去の償却不足が一気に顕在化します。

取得価額100万円、耐用年数5年の減価償却資産の減価償却を取得から4年間行わず、5年目に廃棄すれば、100万円の廃棄損(費用)が一気に生じます。売却した場合には、この100万円と売却収入(収益)との差額が利益から減額されます。

「減価償却は利益が出ればすればよい」といっても「永遠に」先送りができるというわけではありません。廃棄や売却をしているのに、その処理を先送りすることまでも認められないのです。

◆定率法から定額法に変更する(税務署に届けが必要)

減価償却費の負担が重いのであれば、定率法から定額法に変更するというのも一法です。特に、比較的耐用年数の短い(10年以内)多額の減価償却資産を常備し定期的に更新する必要がある事業の場合には、定率法による「減価償却の早期化」を食い止めることができます。

定率法というのは、取得後の早い事業年度に減価償却費が多額に計上されますので、目先の節税志向が強い会社が選択する償却方法です。赤字の場合には、あえて定率法を選択する必要はありません。むしろ、減価償却費が各事業年度に定額で(均等に)計上される定額法のほうが会計理論上(仮説としては)は正しいともいえます(国際的には定額法が主流です)。

◆減価償却の開始日を同一事業年度中で遅らせる

「小細工」かもしれませんが、減価償却の開始日を同一事業年度中で遅らせるのも一法です。たとえば、事業年度(1年間とします)の1か月目に購入し使用を開始した資産の償却開始日を、本来の1か月目からではなく12か月目からにすれば減価償却費は減ります。耐用年数が短く定率法を採用している場合には「効果絶大」です。

◆やっぱり融資を受けたい

「もう、融資は受けない!」と考えていても、環境と心境が変化することがあります。償却不足があれば金融機関の評価は下がります。そこで、どこかの事業年度で不足額をまとめて費用処理しなければなりません。しかし、決算書においては過去の償却不足を費用処理することはできても、法人税法上は認められませんので不足分相当額は損金不算入になります。この損金不算入分は次の事業年度以降の償却限度額に充当され、償却全額が終了した年度で不足額は解消されます。

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【参考】減価償却「できない」資産

次のような資産は減価償却をすることができません。

〇購入したけれども全く使用していない
例:メーカー出荷時の梱包状態のパソコン

〇使用を停止して倉庫などに保管している
例:休止している製造ラインに属する機械

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