老化研究の栞

最新の老化研究でわかってきたことをわかりやすく解説し、老化を防止するための方法を考えるヒントを与えられるようなブログ

精子や卵子も老化する? 体外受精による出産の課題。

2016-09-20 13:45:00 | Weblog
 2016年9月17日に配信された読売新聞電子版の中で、「諏訪マタニティークリニック(⻑野県下諏訪町、根津⼋紘(やひろ)院⻑)で、今年7⽉末までの約20年間に夫の実⽗から精⼦提供を受けた夫婦114組から、体外受精で計173⼈の⼦どもが誕⽣していたことが分かった。(⻑野県松本市で開かれる信州産婦⼈科連合会学術講演会で発表される)」ことが報じられました。その記事によりますと「夫に精⼦がない160組が、夫の実⽗(50歳代〜70歳代)の精⼦と妻の卵⼦で体外受精を⾏い、妻の⼦宮に移植。142組が妊娠し、114組が実際に出産した」とのことです。
 私は生殖医療の専門家ではありませんが、高齢の実父から提供された精子を使用することに一抹の不安が残りますので、気になったことを書かせて頂きます。
 そもそもヒトは年を取ると全身の細胞で老化が起きてきます。細胞の老化がなぜ起きるかについてはまだ完全には解明されていませんが、生きるために必要な酸素の一部が体内で活性酸素に変わり、遺伝子(DNA)やタンパク質を酸化変性させることがわかっています。精子や卵子などの生殖細胞も例外ではありません。
 精子は精母細胞から、卵子は卵母細胞からそれぞれ細胞分裂によって作られますが、元になる精母細胞や欄簿細胞自身も老化を起こすと考えられています。(女性の「閉経」は卵母細胞の老化によるものです)そのため、高齢出産ではダウン症などの先天異常の発症率が高まります。
 一般に精子の方が卵子に比べ老化の影響が少ないと考えられており、先の体外受精の例でも「夫の実⽗(50歳代〜70歳代)の精⼦」が使われたのはこのためですが、現実には精母細胞も老化を起こしており、高齢者では精子の数の減少や鞭毛の運動性の低下などが見られます。通常の自然な受精の場合には非常に多くの精子の中から運動性に優れた精子が競争に打ち勝って受精が成立しますので、異常な遺伝子を持つ精子は排除される確率が高いのですが、体外で人工的に受精を行う場合には比較的少数の精子が使用されますので、異常な遺伝子を持つ精子であっても受精が成立してしまうリスクが高まります。