最初は「あぶり焚き」だ。窯全体から湿気を抜きながら、じょじょにあたためていくのだ。詰められた作品と、しばらく使われなかった窯自体にも、相当な水分がふくまれている。それを乾かすと同時に、炎を室内にゆきわたらせるプロセスだ。最初は焚き口の外で軽薄なマキを燃やし、その手のひらにのるほどの火をじわじわと奥へ進めていく。するとやがて火先が窯内に引っぱられるようになる。これを「引き」とよぶ。炎はエントツの引きに導かれて中へ吸いこまれ、湿気は炎に押し出されてエントツへと逃げていき、水気をふくんだ重い引きは炎をさらに内部へ引っばりこみ・・・と、その相互作用で、焚き口から煙道へ向かう火道ができていく。と同時に、細くたよりない一方通行がだんだん奔流となる。
窯内の空気が乾いて温まってきたら、ようやく本格的な焼成の開始だ。ところがこの重要なタイミングに、あろうことか、のんき顔でおでん鍋をつつく者や、早くも寝床につく者までが出はじめた。まったくなんたる無気力、なんたる怠慢。今どきの高校生のなまけっぷりときたら、長屋の八っつぁんふうにいえば「だらしねえ、情けねえ、見ちゃらんねえ」という三段重の不届き千万だ。アカギにいたっては、夕焼けのベンチで可憐な女子と愛をささやき合い、背中からハートの虹を立たせている。やる気あんのか?
「まあまあ。先はながいからね」
おでん鍋をつつきながら、Fさんはまたもつぶやく。
ーそっかー
オレははたと気づいた。心の奥底で燃えさかる炎を抑えこみ、高校生たちはあえてじっと息をひそめ、窯焚き後半のハードワークに備えているのだ。彼らは自分のやるべき仕事を理解し、責任とプライドを持って事にのぞんでいる。そして自分たちが動かなければならない最も重要な時間帯を知っている。はねるために、今は強いてしゃがむ。高校生たちは、我々よりもずっと大人だった。
そして一方、我々コドモのような大人たちは、自分の体力もかえりみず、夜通し酒を飲んで無邪気に騒いでしまうのだった。
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
窯内の空気が乾いて温まってきたら、ようやく本格的な焼成の開始だ。ところがこの重要なタイミングに、あろうことか、のんき顔でおでん鍋をつつく者や、早くも寝床につく者までが出はじめた。まったくなんたる無気力、なんたる怠慢。今どきの高校生のなまけっぷりときたら、長屋の八っつぁんふうにいえば「だらしねえ、情けねえ、見ちゃらんねえ」という三段重の不届き千万だ。アカギにいたっては、夕焼けのベンチで可憐な女子と愛をささやき合い、背中からハートの虹を立たせている。やる気あんのか?
「まあまあ。先はながいからね」
おでん鍋をつつきながら、Fさんはまたもつぶやく。
ーそっかー
オレははたと気づいた。心の奥底で燃えさかる炎を抑えこみ、高校生たちはあえてじっと息をひそめ、窯焚き後半のハードワークに備えているのだ。彼らは自分のやるべき仕事を理解し、責任とプライドを持って事にのぞんでいる。そして自分たちが動かなければならない最も重要な時間帯を知っている。はねるために、今は強いてしゃがむ。高校生たちは、我々よりもずっと大人だった。
そして一方、我々コドモのような大人たちは、自分の体力もかえりみず、夜通し酒を飲んで無邪気に騒いでしまうのだった。
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園