三度めの打席あたりからオレのヒットがとまった。どういうわけか元球児・αっちが必ず打球の先にいて、簡単に手元におさめてしまうのだ。一方のツカチンも、相変わらず力まかせにαっちのド正面にボールを蹴りこむばかりで、なんの工夫もしようとしなかった。しかしよく観察すると、αっちの守備位置が、毎回じりじりとさがっていく気がする。ツカチンの打球の飛距離が伸びているのだ。頭が悪い分、怪力にまかせて飛ばすことだけを考えているらしかった。
ーまさか、αっちの頭を越そうなんて考えてるんじゃねえだろうな・・・ー
αっちは外野の相当深くを守っている。その頭上を抜くことなどありえない。ましてやツカチンはサンダル履きなのだ。やはりこの男は、ヒットを打って塁間を走り回るのがめんどくさいだけなのだ。見下げ果てたヤローだ。
ところが、点差が伯仲してむかえた最終回、ツカチンの打席でその事件は起きた。
「バカ塚本、αっちをさけろ。勝ちてーんだろうが。まじめにやれ!」
監督直々の命令に、ツカチンは口のへりを上げておだやかに笑っただけだった。αっちは外野真正面の最奥部に位置取っている。いま打席に立つ男が本物のバカなら、きっとあそこに打ちこむだろう。そしてその涼しげな瞳は、今やその場所しか見ていないとわかった。
この試合最後のボールが投げられ、大きなゴムまりはツカチンの足もとに転がっていった。ヤツはかるくステップを合わせて踏みこんだ。足の甲にボールの模様が焼きつけられるほどの勢いで蹴り上げる。
どかん。
青すぎる空に高々とサンダルが飛んだ。オレたちは呆気にとられた。ボールはまっすぐにまっすぐに伸びていった。そして外野を守るαっちのはるか後方ではずみ、悠々と草むらを転がっていく。
ふと見ると、ツカチンは駆け出していた。あんなにも本気で走る人類を見たのは、後にも先にもそれきりだ。その人類は片足ははだしで、もう片方にサンダルを突っかけていた。その滑稽な姿を見たとき、オレはうかつにも大声をあげていた。
「すげえ、すげえっ!」
グラウンドの全サイドから、ものすごい歓声があがっていた。それはただの遊びだったけど、実にバカバカしい一場面ではあったけど、心をふるわせるような光景だった。オレはどうしようもなく、胸が熱くなった。
つまり、ツカチンとはそういうやつだった。
東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園
ーまさか、αっちの頭を越そうなんて考えてるんじゃねえだろうな・・・ー
αっちは外野の相当深くを守っている。その頭上を抜くことなどありえない。ましてやツカチンはサンダル履きなのだ。やはりこの男は、ヒットを打って塁間を走り回るのがめんどくさいだけなのだ。見下げ果てたヤローだ。
ところが、点差が伯仲してむかえた最終回、ツカチンの打席でその事件は起きた。
「バカ塚本、αっちをさけろ。勝ちてーんだろうが。まじめにやれ!」
監督直々の命令に、ツカチンは口のへりを上げておだやかに笑っただけだった。αっちは外野真正面の最奥部に位置取っている。いま打席に立つ男が本物のバカなら、きっとあそこに打ちこむだろう。そしてその涼しげな瞳は、今やその場所しか見ていないとわかった。
この試合最後のボールが投げられ、大きなゴムまりはツカチンの足もとに転がっていった。ヤツはかるくステップを合わせて踏みこんだ。足の甲にボールの模様が焼きつけられるほどの勢いで蹴り上げる。
どかん。
青すぎる空に高々とサンダルが飛んだ。オレたちは呆気にとられた。ボールはまっすぐにまっすぐに伸びていった。そして外野を守るαっちのはるか後方ではずみ、悠々と草むらを転がっていく。
ふと見ると、ツカチンは駆け出していた。あんなにも本気で走る人類を見たのは、後にも先にもそれきりだ。その人類は片足ははだしで、もう片方にサンダルを突っかけていた。その滑稽な姿を見たとき、オレはうかつにも大声をあげていた。
「すげえ、すげえっ!」
グラウンドの全サイドから、ものすごい歓声があがっていた。それはただの遊びだったけど、実にバカバカしい一場面ではあったけど、心をふるわせるような光景だった。オレはどうしようもなく、胸が熱くなった。
つまり、ツカチンとはそういうやつだった。
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