今さら説明するまでもなく、大評判となった作品だ。帯にも五木寛之や井上ひさしなど著名人の推薦コメントが並んでいる。受賞は逃したものの、直木賞にもノミネートされた。ま、そんな前置きはいいか。
冒頭、いきなり主人公が「戦争」に巻き込まれるくだりが素晴らしい。平凡なサラリーマンである主人公は、もちろん戦争なんてものは体験したことがない。しかも、その戦争は、映画やテレビで見る戦争とは様相が異なり、極めて事務的な手続きに則って行われているのだ。そもそも目に見える範囲では銃撃戦も暴力行為も起こらないし、爆音も銃声も聞こえない。会社では通常の業務が行われている。何も知らなければ戦時中だとは思えない状況なのである。だが、広報紙に戦死者の数が記載されているのを見て、主人公は思い知る。今この瞬間にも、自分が暮らす町の中で誰かが殺されているかもしれないのだ、と。
例外もあるかもしれないが、優れた物語は寓意性を持っているものだ。この作品もその例に洩れず、読み進むうちに世の中で起きている様々な事象に思考が及ぶ。平和ボケした日本人、なんて使い古された言葉を改めて突きつけられているような気分にもなってくる。居心地の悪さと先の展開への期待を抱きながら、読者は(というより僕は)物語を追うことになる。
しかし、そうした緊張感は何故か終盤には霧散してしまう。物語の主眼は「戦争」から「恋愛」に移り(それはそれで当然の流れではあろうが)、いわゆるファンタジーのような味わいで結末を迎えてしまうのだ。肩すかしを食らったような気分になる。いや、だからって陰惨で救いのない終わり方が良いとは言わないが。
というわけで、前半が素晴らしかった分、ちょっと物足らなかった。これが率直な感想。とはいえ、これは確かに話題になる価値のある小説だと思う。ぜひご一読を。
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