あ、先に言っておきますが、映画そのものとは何の関係もありません。
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『暗いところで待ち合わせ』の中で、中国から日本へ移住した青年は印刷会社に勤めている。彼が印刷機を操作するシーンで、印刷された紙の間に挟まれたメモ用紙に「下ヤレ」と書かれているのを見つけた。おおっ、なんて懐かしい言葉。「下ヤレ」ってことは「ここから下はヤレ」という意味だろう。僕も何年間か印刷会社に勤めていたことがあるので、「ヤレ」という言葉は毎日使っていたものだ。しかし、これ、世間一般じゃ意味は通じないんじゃないか? まあ、映画の内容に関係ないことなので、分からなくても支障はないけど。
簡単に説明すると、ヤレとは「不要な紙」のことだ。大抵の場合、印刷に失敗した紙や試し刷りに使われた紙のことを指すが、裁断されて切り屑になった紙を含めることもある。※こちらにも解説あり。
不要になった紙や切り屑が増えると、先輩から「おーい、ヤレ出しといて」と言われたものだ。ヤレを袋に詰め込んだり紐で縛ったりして、業者さんに引き取ってもらうのだ。紙ってヤツはけっこう重いものなので、これはなかなか難儀な作業である。人手が足りないからと版下作成の連中を呼んで手伝わせて、あとから「しばらく仕事にならんかった」と怒られたこともあった。重いものを運んだので手がプルプルと震えてしまい、真っ直ぐな線が引けなくなった、ということらしいのだ。もちろん、パソコンで版下作成が行われるようになる遙か以前のことである。それどころか、ワープロでさえ普及していなかった。活字を打つ時はタイプライター、という時代である。線を引くにはロットリング。さすがに烏口は使っていなかったと思う。えっと、ご存じない方のために書いておくと、ロットリングも烏口も線を引くための道具です。ロットリングの方は正確にはメーカー名ですが。
どんな業界、どんな現場にも専門用語は存在する。僕が何年かを過ごした製本の部署では、「ヤレ」以外にこんなのがあった。まずは「丁合」。これは、印刷された紙をページ順に重ねていく、という作業だ。会議用資料など薄い冊子の場合は手で行う。指サックを嵌め、横一列に並べられた印刷物を一枚ずつ引き抜いていくのだ。「中綴じ」「無線綴じ」は一般的にも知られているから説明不要だろう。念のために書いておくと、とらばーゆや週刊文春みたいなのが中綴じで、電話帳や週刊少年ジャンプみたいなのが無線綴じね。
そんな専門用語の中に、「化粧」ってのもあった。ファウンデーションや口紅を使って顔を綺麗に飾ること……ではなく、製本された本や冊子の三方(当然、綴じてある方以外)、ペラもの(チラシなど)の場合なら四方を切り揃える作業のことだ。印刷・製本作業の最終工程である。断裁機(裁断機とも呼ぶ)という機械を使う。
大抵の場合、冊子の場合ならA4もしくはB5サイズに切り揃える。しかし、中には「ちょっとだけフチを切り落とせばオッケー」という場合もある。そんな場合は「化粧」ではなく「薄化粧」と呼ばれた。
想像していただきたい。白昼堂々、むさ苦しい男どもが「○○君、ちょっと薄化粧しといて」「先輩、薄化粧ならオレがやっときましょうか」「誰でもいいから、さっさと薄化粧しとけよ」というような会話を交わしているのである。それが製本作業の現場だったのだ。今から思えば、ずいぶん気持ち悪いぞ。
僕? もちろん、毎日何度も薄化粧してました。おほほほっ。
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