少年トッパ

薄化粧する男の悲劇。

 この話に続編があるとは思わなかったでしょ? まあ、続編ってわけじゃないけど。
 ここからは少々痛~い話なので、覚悟して読んでくださいませ。

 断裁機ってのは、かなり怖い機械である。何しろ大量の紙を一度にスパッと切るのだ。刃の鋭さは相当なものである。ちなみに高さは20センチ、幅は1メートル、厚さは2センチぐらいだったと思う。怖そうでしょ?
 なので大抵の場合、両手でボタンを押さなければ裁断できない(刃が下りない)構造になっている。順序立てて言うと、こんな感じ。

1 印刷物を断裁機に載せ、寸法に合った位置にセットする。
     ↓
2 足でレバーを踏む。
     ↓
3 印刷物に重し(デカい文鎮みたいなもの)が載り、固定される。
     ↓
4 断裁機の両端にあるボタンを両手で押す。
     ↓
5 刃が下りてきて、印刷物が裁断される。
     ↓
6 レバーから足を放し、印刷物を動かす。

 三方を切る場合なら3回、四方を切る場合なら4回、この作業を繰り返すわけである。鉄のテーブルの上で印刷物を滑らせ、手早く作業を進める。もちろん、慎重に。だが、中には、あんまり慎重でない者もいる。

 その日、僕は印刷機を回していた。病気で入院した先輩に代わって、しばらく印刷の部署に移っていたのだ。
 指をインクだらけにして仕事をしていると、いきなりアコーディオンカーテンが開いた。その向こう側は製本の部署だ。血相を変えた先輩がそこで何か叫んでいる。慌ててそちらに向かった僕は、断裁機の前で後輩が痛そうに顔を歪めているのを見た。片手でもう片方の手を包み込んでいる。
 僕より年上だったが、まだ入社して一年に満たない新人だ。別の者が電話口に向かって上擦った声で何か言っている。救急車を呼んでいるようだ。ま、まさか……?
 そう思った僕の視界に入ったのは、奇妙な物体だった。印刷物の上にウインナーの切れ端のようなものが載っているのだ。よく見ると、それは……爪の下の部分からちぎれた人差し指の先っぽだった。うげげげっ。

 両手でボタンを押さなければ刃は下りない。しかし、ボタンを押して刃が下り始めた直後に指を放しても、そのまま刃は下りてくる。その後輩は、裁断すべき印刷物の一部分がほんの少し歪んでいるのを急いで直そうと思って、刃の下に指を突き出したのだった。しかしアンタ、それは無謀すぎ。

 その後しばらく、断裁機を使う時は脚がガクガク震えそうになったもんである。ああ、思い出すだけでも痛い。痛いったらありゃしない。
 あ、でも、すぐに病院へ行ったら、ちぎれた指は見事にくっついたそうです。何事も素早い処置が大切! これがこの話の教訓、ってことで。
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