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※こちらが中編→http://diary.jp.aol.com/toppa/183.html
* * * * *
イクサは微動だにしない。こっちはハンドルに身を預けるような姿勢で前に屈みながら自転車を漕ぐ。気付かれないようにしてイクサを見るが、イクサの視線が僕の方を向いているかどうか判別できない。真っ直ぐに前方を凝視しているようにも思えるし、横目で僕を睨んでいるような気もするのだ。噂で聞いたイクサの武勇伝を思い出す。ヨソの学校の不良ども数十人に一人で立ち向かったとか、先生を殴って入院させたとか。
2メートル、1メートル、0メートル。ついに僕はイクサの真横に来た。道路の真ん中に立つイクサとは1メートル半ぐらいの距離があるだろうか。イクサが僕にちょっかいを出す気配はない。そのまま僕は息を殺して自転車を漕ぎ、イクサから離れる。そして、その先30メートルぐらいの位置にある信号の前で停止した。
自転車にまたがったまま、僕は信号が青に変わるのを待った。振り向きたいが振り向けない。振り向いた時にイクサがこっちを見ていたら、卒倒してしまうかもしれないのだ。ようやく信号が青になり、僕は自転車を漕ぎ始める。さらに進み、街灯が点っていない辺りに来てから、僕は振り返った。イクサの後ろ姿が見える。まだ仁王立ちしたままだ。ホッ。危機は切り抜けた。イクサはマコトが来るのを待っているのだろうか。雑魚は相手にしない、ってことで僕を無視したのだろうか。良かった、雑魚で。
マコトがボコボコにされたという話は、すぐ翌日に伝わってきた。でも、マコトの姿を見る限り、大したことはなさそうだ。ケガもしていない。もっとも、単にマコトが強がっていただけかもしれないが。どっちにせよ、その後もマコトはユウジの子分であり、ユウジはイクサの子分だった。多少の造反劇はあったかもしれないが、それに僕が巻き込まれることはなかった。おそらくイクサは僕のことなど知らないだろう。
やがて3月になり、イクサを含む不良グループは一斉に卒業した。卒業式の日も不良連中は全員が太いズボンを思いっきり低い位置で穿き、卒業証書を受け取る時も周りを威嚇しまくっていた。式の前後には一部の先生が「お礼参り」されたという噂も飛び交ったが、真偽の程は分からない。
イクサたちが去れば、次はユウジたちの時代だ。だが、ユウジたちは何もかもイクサたちの半分以下のスケールでしかなく、存在感が薄かった。自転車のアクロバット走行を見せることもなかった。おかげで学校のワル度数が一気に下がり、ずいぶん呑気な雰囲気になったような気がする。いかついツラの不良どもがたむろしていた場所は、普通の生徒たちの溜まり場となった。学校に平和が訪れた、と言ってもいいだろう。
<つづく>
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