少年トッパ

『カーテンコール』<ネタバレあり>



↑画像は名演小劇場に貼られたポスター。佐々部清監督のサイン入りです。上手く撮れてなくてゴメン。

※※※これはオススメ作品なので、僕の感想を先に読んじゃダメっ。※※※

 おっとっと、そっち方面に行くのかよ。ヒンシュクを買うのを承知で言えば、そう思った。この映画が「在日」を扱った作品だとは、僕は全然知らなかったのである。だから、正直言って面食らった。襟を正して観なきゃ、という気分にもなった。古き佳き時代を懐かしむ単純明快な娯楽作かと思いきや、現代にも根強く残る差別について描いた社会派作品だったのだ。いや、だからって映画の価値が上がったり下がったりするわけじゃないだろうけど、やっぱり構えて観ちゃうよねぇ。

 かつて人気者だった幕間芸人は、映画産業の衰退とともに居場所を失い、姿を消す。タウン誌の臨時記者が、その行方を追って奔走する――というのが後半の展開だ。だが、それよりもまず、前半で語られる回想シーンに触れておこう。舞台は昭和30年代。映画産業の全盛期だ。映画館で働く一人の青年が、ちょっとしたきっかけで幕間芸人になる。映画と映画の間にコントや歌を披露するのだ。彼は多くの客に気に入られ、人気者になる。そして、熱心なファンである女性と恋をする――。このあたりの展開には、ものすごく心躍らされ、幸せな気分になった。映画館で働く女性は、芸人に仄かな想いを寄せつつも、彼と恋人との恋が成就するのを見守る。その微妙な感情が伝わってきて切なくもなるが、健気さに心打たれたりもする。
 甘酸っぱさとほろ苦さを絶妙に織り交ぜながら幸福な物語は進むが、やはり現実は厳しい。次第に映画産業は衰退し、幕間芸人は必要とされなくなっていくのだ。彼は映画館をクビになり、その後の行方は分からないままだ。と、ここまでが回想で語られる内容。何より素晴らしいのは、幕間芸人を演じる藤井隆である。あくまで私見だが、この映画の魅力の7割は彼の明朗さによるものだろう。なので、終盤で年老いた幕間芸人が登場した時、それが藤井隆じゃなくて井上尭之だったのでコケそうになっちまった。いや、井上さんの歌も佇まいも、すごく味わい深くて良かったけどね。

 一方、現代を舞台した物語も同時に語られる。主人公の香織は東京のマスコミ業界で働いていたが、ある事件が原因となって福岡のタウン誌編集部へ異動するよう命じられる。そこで「昭和30年代に活躍した幕間芸人を取材してほしい」というハガキを見つけ、その取材にのめり込んでいくのだ。
 しかし、過去を描いた部分がほろ苦くも幸福な雰囲気に満ちていたのに対して、現代が舞台の場面はどこも薄っぺらだ。何よりの欠点は、登場する人物がいずれも類型的であり、現実味に乏しいことだろう。中でもタウン誌の編集長である女性の描き方は類型の極み。観ている方が気恥ずかしくなるほどだ。在日韓国人である夫婦が焼肉屋を経営しているというのも、ちょっとベタすぎじゃないかな。まあ、いいけど。
 なぜ人物描写が薄っぺらに思えたのかというと、現在を描いた部分はどれも「筋運びのための人物設定」に感じられるからである。「人物ありき」ではなく「物語ありき」で作られているから、ほとんどの人物が活き活きとしていないのだ。しかも、物語の流れにも不自然さを感じさせる箇所が多い。たとえば、幕間芸人の家族の消息を調べるために主人公が役所を訪れるシーンだ。主人公は自分から「そういうことは教えてもらえませんよね」みたいなことを言って諦める。ところが、次に訪れた「民団」では、スラスラと教えてくれる。これは「在日の人々は物分かりが良いから、何でも親切に教えてくれる」ということを言いたかったのかもしれないが、いきなり訪ねてきた雑誌記者に個人情報をペラペラ教えちゃう方が問題じゃない? ついでに書くと、その民団に関して何の説明もないのは少々不親切じゃないかな。「そんなの知ってて当たり前」と思ったのかもしれないが、若い観客のためにも一言ぐらい補足すべきだろう。あと、主人公が韓国で最初に出会うタクシー運転手さんがあまりにも親切すぎるのも少し不自然な気がしたけど、そんなことばっか書いてると自分の性格がひねくれているように思えてきたので、イチャモンはここまで。

 ついつい苦言を呈してしまったけど、基本的には好きな作品であるし、こうした題材に挑んだことも素晴らしいと思う。というか、良い作品だからこそ「惜しい!」と思っちゃうのよ。以上、なんとなく尻すぼみな感想になっちまって失礼!

<付け足し>
 メル友から「30年振りのステージの観客が若すぎやしない?」というメールがあった。うん、僕も同感。たぶん、エキストラを募集したら若い人ばかりが集まったんだろうね。

コメント一覧

トッパさん
牛が歩く光景、のどかでいいですねぇ。でも、けっ
こう臭いですよね(笑)。昔、実家の近くでも牛を
飼ってました。

確かに「韓国人は貧しくて実直」というイメージを
強調しすぎている感じがしました。まあ、だからっ
て『悪い男』や『オールドボーイ』に出てくるよう
な血の気の多い韓国人を登場させる必要もないんで
すけどね(笑)。

『半落ち』も佐々木監督ですよね。ひとりよがりと
聞いて、あの映画の吉岡秀隆を思い出しました
(笑)。
高い志を持った監督さんみたいだから、がんばって
ほしいですね。
トッパさん
あ、済州島ロケは実際にやったみたいよ。こちらを
参照。
http://www.curtaincall-movie.jp/productionnote/
index.html

ラストは悪くなかったけど、恋人との仲はどうなっ
たのかとかも少しは描いてほしかったなぁ。ちょっ
と中途半端な気がしたもん。
文緒さん
>現代が舞台の場面はどこも薄っぺらだ。

あ、それ、同感。
済州島のシーンとか、ウソっぽかった。
あれ、日本で撮影したんじゃない?

印象に残ったのは、
映画館で働く女性(藤村志保)の、あごのホクロに指で触れる癖が昔から変わってない点。
それと。
主人公の香織を斜め下から見上げる形で撮ったラストシーン。
正面からのアップより、力強さや清々しさを感じました。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「<映画> 映画の感想」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事