『ダンシング・ハバナ』※ネタバレあり

　バナナ君は悩んでいた。僕には何も取り柄がない。勉強はできないし、特技があるわけでもないし、見た目も冴えない。そもそも、どう見ても安っぽい存在だ。メロンのような高級感とは無縁だし、スイカのような巨体で相手を威圧することもできない。パイナップルのように目立つルックスでもないし、イチゴのように女の子から好かれるわけでもない。気が付いたらそこにいる、という程度の存在なのだ。
　そんな風に思って悶々とした日々を過ごしていたバナナ君に転機が訪れる。キューバ音楽との出会いだ。陽気なリズムに合わせて腰をクイクイッとひねり、クルッとターンしてみる。おおっ、オレ、けっこう踊れるじゃん。
　自分の中に眠っていたダンスの才能に気付いたバナナ君は、本格的な特訓を始める。パートナーはリンゴちゃん。彼女もいつも赤い顔をしていることにコンプレックスを抱いていた。さあ、二人で踊ろう。そして、世間に僕らの存在価値を知らしめてやるんだ！
　華麗に踊るバナナ君。その姿を見た者は、彼をこう呼ぶようになった――ダンシング・バナナ。

　以上、大ざっぱにストーリーを説明してみました。しかしバナナが主人公の映画ってのも珍しいよねぇ。観る価値アリよ。……え？　何か間違ってる？　あわわっ、よく見たらバナナじゃなくてハバナだった！　えっと、キューバを舞台にした青春映画？　そうそう、そうでした。ってことは、バナナが主人公の映画は夢の中で観たのか？

　というわけで、『ダンシング・ハバナ』。原題は『Dirty Dancing2：Havana Nights』である。そう、パトリック・スウェイジ主演の『ダーティー・ダンシング』のパート2だ。とはいえ、続編ではない。ま、「姉妹編」といった感じだろうか。なんて言ってみたものの、すでに『ダーティー・ダンシング』の内容を覚えてないのでストーリーに関連性があるのかどうか断言できないのだが。あ、パトリック・スウェイジは今回も出てるけどね。この人の身のこなし、カッコいいねぇ。

　じゃ、ホントのストーリーを書こう。舞台はカストロ革命前夜のキューバ。アメリカから来た18歳の女学生がキューバ人青年に出会い、お互いに惹かれ合う。もちろん「身分の差」があるから、たやすく恋が成就するわけではない。二人はダンス大会に出る決意をする。優勝すれば多額の賞金が手に入り、青年は家族と共にアメリカへ移住することができるのだ。二人は練習に励む。その中で、ますます強く惹かれ合っていく――。
　この映画、はっきり言って内容的には凡庸で大味だ。人物の掘り下げも甘すぎる。気の毒なのは、金持ちの御曹司であるジェームズ君だ。ご覧になった方は分かるだろうが、彼は決して悪いヤツではない。むしろ親切な好青年である。なのに、いきなりキスされそうになったからって「紳士じゃない」なんて責めるのは、あまりに可哀想すぎるって。自分が扇情的な恰好をしてるという自覚がないのか？　そもそも店に一緒に来たジェームズ君を残して踊りに興ずるってのは無神経ちゃう？　この時点で僕はヒロインに「減点1！」と心の中で叫んだものだ。
　そうしたツッコミどころは数々あるのだが、やはり観ていてワクワクさせられる映画だ。全編に流れるキューバ音楽には胸躍らされるし、それに合わせて人々が身をくねらせて踊るシーンはどれも素晴らしい。最初は高慢そうだったヒロインも、いつしかキューバ人のように猥雑で官能的な動きを見せる。腰をひねり、身体を反らせ、ターンを決め、堂々かつ挑発的に自分のしなやかな肉体をパートナーと観衆に誇示する。観ているこっちも、いつの間にか気分を高揚させられている。一緒に踊りたくなってくる（まともに踊れないけど）。これがキューバ音楽、そしてキューバのダンスの魅力であろう。いや、専門的なことは分からないけど。

　とにかく、音楽とダンスをたっぷりと味わいたい方なら、きっと楽しめる映画じゃないかな。贅沢を言えば、もっともっとダンスのシーンが多くても良かったくらい。ほら、決勝大会の場面とかね。あれはもう少し長くて見せてほしかったなぁ。
　なお、この映画を気に入った方には、『サルサ！』もご覧になることをオススメします。こちらも何かとツッコミどころはある映画だけど、キューバ音楽とダンスをしっかり堪能できますんで。というか、実はお気に入り度数は『サルサ！』の方が1.5倍ぐらい上だったりするのよ。レンタルビデオでも出ているので、ぜひ探してみてね。

『ダンシング・ハバナ』公式サイト→http://www.gaga.ne.jp/dancing_havana/
『サルサ！』公式サイト（？）→http://www.kinetique.co.jp/salsa/