嵐の季節/<詩の朗読>/THANK YOU
のっしのっしのっし。ん? 何の音だ? のっしのっしのっし。あわわ、ステージに大男が! 大変だっ。慌てて逃げようかと思ったが、よく見たら次の出演者であるノアだった。なーんだ。って、こういうふざけたノリで書いても寛大なノアさんは怒ったりしないから大丈夫。たぶん。
このノアという男、ご存じの方も多いだろうが、木更津のミニFM局「FMべる」のDJであり、自主制作のCDを何枚か出しているミュージシャンでもある。だから、人前で話すことにも歌うことにも慣れている。ステージに立つ姿は堂々としたもんであるし、話す内容も的確で分かりやすい。当然、この日の挨拶も冴えていた。
「オーイエイ、名古屋へは16年振りの来日だぁ」。……えっとノアさん、千葉から名古屋へ来ることを「来日」とは言わないんですが。それはともかく、20代の頃に名古屋で働いていたことがあるらしく、86年の甲斐バンド解散コンサートは愛知県体育館で見たそうだ。僕と同じじゃん。もしかしたら、すれ違ったりしたことがあったかもしれないなぁ。
Mick遠藤がギターを弾き、ノアが歌い始める。『嵐の季節』だ。身振り手振りを交え、言葉を噛みしめるように歌う。うん、説得力があるなぁ。客席からも歌声が聞こえる。
続いて、ポエトリー・リーディング。詩の朗読だ。Mick遠藤がローリング・ストーンズの『ワイルド・ホース』を奏でる中、ノアが語り始める。ミスター・ギブソンへの想いを綴った詩である。一応説明しておくけど、ギブソンってのはギターのメーカー名ね。ギター弾きの方々には常識中の常識だろうが、大森信和氏が愛用していたレスポール(ギターの機種名)のメーカーなのよ。つまりノアは大森さんのことを「ミスター・ギブソン」と呼んでいるのだ。決してメル・ギブソンのことじゃないからお間違えなく。「僕は『マッド・マックス』の一作目であなたに出会いました。場所はセントラル劇場。今はピカデリー2って名前になってます」なんて言ってるわけじゃないからね。すんません、独りよがりなことを書いちゃいました。
ノアの詩は実に感動的だった。高校時代に教室で甲斐バンドの曲を歌った思い出が語られ、昨年7月に亡くなった大森さんへの想いが語られ、11月に武道館で甲斐よしひろが『100万$ナイト』を歌った時のことが語られる。そう、あの武道館では、おそらく誰もが大森さんのことを思い浮かべていたはずだ。そして、その想いはきっと雲の上の大森さんに届いたことだろう。
ノアの朗読には独特の味わいがある。決してスムーズに読み進むわけではなく、つっかえたり言い淀んだりすることも多い。しかし、それが逆に持ち味となるのだ。笑福亭鶴瓶に近い芸風、と言えば分かっていただけるだろうか。
朗読を終えたノアは、今度は自分でギターを弾いて歌い始める。『THANK YOU』だ。おっとっと、一番から思いっきり歌詞を間違えてる。まあ、それも持ち味ってことで。
歌い終えたノアは、メモを取り出す。そして今回のイベントの裏方たちの名前を読み上げる。中にはOYSのスタッフの名前も含まれている。こういう気遣いができるところが、ノアという男の素晴らしいところだ。身体がデカいだけじゃなく、心も広いのである。僕とは大違いだ。あ、そういえば僕の名前も読まれたんだ。恐縮っす。
ノアは次の出演者であるNIGHT SWEETの名前を呼び、ステージを去ろうとする。ちょ、ちょっと待った。アンタ、自分のツアーの告知は? アルバムの宣伝は? そう、ノアは全国約20ヶ所でコンサートを行っている真っ最中であり、明日には一宮でライブを行うのだ。オリジナル曲を集めたアルバムも完成しており、今日も大量に持ってきているはずだ。それを宣伝しないでどうすんのよ、アンタ。しかし、そんな僕の心の声は届かず、ノアは拍手に包まれながらステージを降りた。
※ ※ ※ ※ ※
せっかくなので翌日のライブに関しても少し書いておこうかな。場所は一宮の「おんさ」という店。昼間は喫茶&軽食の店、夜はお酒を楽しめる店であり、ライブも不定期に開かれる。過去には中野督夫や湯川トーベン、斉藤哲夫、王様もライブを行ったことがあるという由緒ある店なのだ。
この日のライブには計4組が出演した。ノア以外はすべて地元のアマチュアミュージシャンである。いわば他流試合なのだが、ノアは少しも臆することなく堂々とした歌いっぷりを見せてくれた。いや、堂々としているのはいつものことだが、このライブで特筆すべきは、ものすごく丁寧にノアが歌っていたことである。前日のライブ、そして僕が今までラジオなどで聴いてきた印象では、基本的に「その場の勢い重視」だったように思う。歌詞を間違えたり演奏をトチったりしても構わない、細かいことは気にせず楽しもう。そういうノリで歌い、演奏しているように思えたのだ。
しかし、おんさでのノアは全然違っていた。驚くほど丁寧に優しく歌っているのだ。「繊細」などという言葉さえ思い浮かんでしまったほどだ。あの外見には思いっきり似つかわしくない言葉なのに。おっと失礼。でもホント、ノアの新しい一面を見たようで、かなり新鮮だったのよ。今まで隠してたのか?
※「おんさ」のサイト→http://onsa.jp/
そして、その1ヶ月後、僕らは東京で再会する。Mick遠藤も出演した「Blue Letter ―大森さんへの手紙―」だ。この時、ノアはミスター・ギブソンへの想いを綴った詩の新バージョンを披露し、またもや会場は感動に包まれたのである。
※このライブについては、大森信和ファンサイト「REMEMBER.COM」で詳しく紹介されています。「BLUE LETTER '05」→「BLUE LETTER REPORT」へとお進みください。
http://www.remember335.com/index.htm
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