少年トッパ

『鍵がない』<ネタバレ少しあり>

 これは、都会に住む平凡な人々の一夜の出来事を描いた作品。鍵をなくした20代前半の女と、その元恋人であるバツイチ男、その新しい彼女。東京での生活に疲れた路上ミュージシャン。恋人に別れを切り出す煮え切らないハンサム男と、そんな男を叱責しつつも優しく包みこむ女。そして、20年前の決断を悔やみ続けるバス運転手。それぞれが誰かの愛を欲し、誰かとの関係に疑問を持ち、過去の出来事を後悔しながら、日々を過ごしている。ものすごく不幸なわけではないのだが、かといって幸せでもない。そんなありふれた人々を優しい眼差しで見つめた作品である。
 途中、物語がファンタジーのような展開になる。ご覧になった方はお分かりだろうが、例のバスの中での出来事だ。「実は夢の中の出来事でした」というオチになるかと思ったら、そうはならなかった。物語に辻褄や整合性を求めがちな僕としては好きになれないタイプの展開だが、この映画に関しては許せてしまう。他にも気になるところはあるのだが、「まあ、細かいことはいいや」と思わせてしまう。そんな不思議な魔力みたいなものが、この映画には漂っていると思う。
 特筆すべきは、音楽の使い方である。実にセンスが良い。単に使われている楽曲が良いというのではなく(もちろん良いのだが)、音楽が流れ出すタイミングが絶妙なのだ。これは映像に関しても同様で、たとえばメインタイトルの出し方には「うむ」と唸らされるし、書体の選び方にも文字の間隔にもセンスの良さが感じられる。あと、途中で挿入されるアニメはストーリーもキャラクターも素晴らしすぎるほど素晴らしく、しかも寓意に富んでいる。これだけで一本の短編映画として成立する作品だ。
 惜しいのは全編ビデオ撮影であること。フィルムに比べれば画質は粗いし、やや奥行きがない印象を受ける。もうちょっと予算を足してフィルムで撮ってほしかった、とは思う。あと、些細なことだが、冒頭の階段のシーンは、ちょっと中心に人が寄りすぎで不自然。まあ、そんな小姑みたいなツッコミはいいか。出てくる女性がみんなキレイすぎるのも現実味に欠けるけど、それはまあ、映画だからね。目の保養になりましたわ。

 そんなこんなで、この映画はオススメ。にも関わらず、今のところ東京と名古屋でしか公開されていないし、名古屋ではレイトで4日間のみ(しかも今日まで)なのよ。もったいないなぁ。もしもお近くで上映される機会があれば、ぜひご覧くださいませ。ただし「ものすごい傑作」ってわけじゃないので、あまり期待しすぎないようにね。
 ちなみに劇中で使われる4曲のうち、僕が一番気に入ったのは『恋の行かねば娘』。これ、ゴキゲンなパーティーチューンなのよ。CD化してほしいなぁ。

『鍵がない』公式サイト→http://www.kagiganai.com/

コメント一覧

トッパさん
えっと、あとから「面白くなかった」と言われるの
がイヤなので、いつもそういう書き方をしてるんで
すよ(笑)。多少の欠点はあるものの、『鍵がない』
は大好きな作品です。

それに比べると、『空中庭園』は「見応えある部分
はあるけど、好きじゃない」という感じでした。で
も、小泉今日子演じる主人公の心情は、かなり理解
できます。その辺についてはまた改めて書く……か
も。書かないかも(笑)。
SKDさん
>ただし「ものすごい傑作」ってわけじゃないので、あまり期待しすぎないようにね。

こういう時は遠慮した方が安全かも?
「空中庭園」なんてホラーかと思っちゃいました(^^;ゞ
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