靖国参拝という大役を果たし(ただし、賽銭箱に10円玉を投げ入れただけ)、次に向かったのは遊就館。英霊の遺品などが展示されている博物館だ。入場料800円が必要だけど、この機会を逃したら次にいつ来られるか分からないもんね。なので、迷わず入場。しかし、受付のねえちゃん、チケットを買おうとしたらすげー素っ気ない口調で「自動販売機をご利用ください」と言いやがったけどさ、だったら「入口→自販機→受付」という並びにしとけよっ。入ってすぐに受付があったら、そこでチケットを売ってると思うのが普通じゃん。
気を取り直して、エスカレーターで2階の展示室へ。とりあえず、1階に展示されている零戦を撮影。
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撮ってから「撮影禁止」という表示を発見。まあ、過ぎたことは仕方ないですね。
少し進むと、映像ホールってのがあった。へーっ、映画を上映してるんだ。撮影禁止と知りつつ、ポスターを撮影。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/54/3e/a5d3b772438332c580ac925e44e4247e.jpg)
『みたまを継ぐもの』だって。どうやら劇映画のようだ。
ここで悩む。映画好きとしては、こういう場所で上映されている作品がどんなものなのか、猛烈に気になる。しかし、そうそう時間に余裕があるわけでもない。できればライブの前に神保町へ行って少しブラブラしたいし、昼ご飯だって食べなきゃならないもんね。そう思いながら時間をチェックすると、次の回は11:30からで、長さは1時間20分。13時ちょっと前には終わるわけだ。じゃあ、観てみよう。というか、せっかく800円も払ったんだから観ておかなきゃ損だ。
もうひとつホールがあって、そっちでは『私たちは忘れない』というドキュメンタリーを上映しているようだ。それも気になるが、やはりドキュメンタリーよりも劇映画の方に興味が湧く。よし、11:30からの『みたまを継ぐもの』を観よう。その前に展示物をサササッと見てしまおう。
そう決意して展示室に足を踏み入れて、あらららビックリ。ものすごくキレイ。素晴らしく整然と、諸々の品が陳列されているのだ。急いで回っちゃうのはもったいないが、時間がないから仕方ない。まあ、もともと槍とか甲冑とか刀とかにゃ興味がないし。
3つ目の展示室では「明治維新」、その次では「西南戦争」と、歴史の流れに沿って諸々の資料が展示されている。歴史オタクにゃたまらんだろうなぁ。僕も中学生の頃は日本史が大好きだったので(その後、なぜか興味を失っちまいました)、その頃に覚えた知識を記憶の底からほじくり返しながら、急ぎ足で展示物を見る。「支那事変」のあたりでは、船戸与一先生の『満州国演義』シリーズで描かれた出来事と照らし合わせ……たいところだが、そんな時間はないのでチャチャッと眺めて通り過ぎる。ああ、こんなことなら、もっと早い時間に来るべきだった。
順路に従って1階に下り、次の展示室へ。ここからは第二次世界大戦(ここでは「大東亜戦争」で統一されている)に関する資料が展示されている。思わず立ち止まって凝視してしまったのは、かの栗林忠道が家族に宛てて書いた手紙。イラストを添えて自分の近況を知らせているのだが、その絵がものすごく達者なのだ。これには仰天。だって、当時は紙も筆記用具もふんだんにあるわけじゃないでしょ? 見た感じでは、鉛筆で下書きしてからペン入れしたわけではなく、最初からペンもしくは筆で書いたみたいなのよ。なのに、こんなに完璧なんだもん。ひたすら感嘆するばかり。はっきり言って、この手紙を見られただけでも、800円の価値は充分すぎるほどあった。
ご存知の方も多いだろうが、栗林忠道というのは、クリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』で渡辺謙が演じた軍人。映画の中でも立派な人物として描かれていたけど、この手紙を見たらそれが美化されたものじゃないことがひしひしと伝わってきた。こんなに優しく繊細で、なおかつ遊び心に満ちた絵を描くのだから、どう考えても素晴らしい人物に決まってます。
おっと、あんまりじっくりと見ていたら時間がなくなる。残りは少しだろうから、パパッと済ませて映像ホールへ戻ろう。
そう思って急ぎ足で進んでいたのだが、壁に貼られた大量の白黒写真を見て、思わず立ち止まってしまった。写っているのは、戦争で亡くなった兵隊や女工たちの顔だ。みんな、驚くほど若い。いや、若いというよりも幼い。中学生のように見える者も多い。戦死した方々の多くが10代や20代だったことは知っていたが、こうして顔写真を見ると改めて酷さや痛ましさが心に突き刺さってくる。平和を享受している僕には計り知れない悲しみや絶望を抱えて彼ら彼女たちは他界したのだろう。厳粛な想いに包まれるとともに、情けないが泣けてきてしまった。
時計を見ると、映画が始まるまで5分弱。僕は慌てて順路を逆行し、映像ホールに向かった。
<つづく>