※ ※ ※ ※ ※ ※
この映画の追憶部分に出てくる人物は、誰もみな善良だ。アリーの両親は二人の仲を裂こうとするが、それでも基本的には善人で、アリーを心から愛している。アリーと婚約するロンは、ものすごく寛容で心優しく、しかもカッコいい。戦争未亡人は物分かりが良い好人物だ。そう、誰もみな不自然なほど好人物である……というか、不自然で薄っぺらである。だが、すべてがアリーの主観で書かれたものなら、そういった違和感もそれなりに解消する。ズバリ言っちゃうと、あのノートに書かれた物語は、アリーによって脚色され、簡略化され、美化され、幾らかは歪曲された事実なのだ。
だから、この物語の「語られなかった部分」に想いを馳せると、思わず慄然とする……ってのは大げさだが、かなり切ない気分にさせられてしまう。アリーに逃げられたロンは、あのあとどうなったんだろう。相当荒れたんじゃないか? 結婚の約束を交わした女に逃げられたんだもん、僕なら自暴自棄になるだろう。だが、そういうことはアリーが執筆した物語の中では、もちろん描かれない。
誤解してほしくないのは、僕は決して「だからこの映画はダメ」と言いたいわけじゃないってことだ。この映画を好きか嫌いかと誰かに聞かれたら僕は「好き」と答えるだろう。年老いたノアがアリーの記憶を呼び戻そうと腐心する姿には胸が熱くなったし、現実的にはあり得ないであろうラストも気に入っている。老夫婦を演じるジェームズ・ガーナーとジーナ・ローランズには気品が感じられるし、風景の美しさにも感動させられる。お金を払って映画館で観る価値は充分にある映画だ。
にも関わらず文句みたいなことをダラダラと書いたのは、まあ、要するに僕が天の邪鬼な男だからである。ひねくれ者なのよ。
人は誰も自分の主観でしか物事を見ることができないし、時と共に自分の都合のいいように記憶を修正する傾向がある。僕だって、いつか自分の自叙伝みたいなものを書くとしたら、アリーのように都合良く脚色するだろうし、触れてほしくない部分は隠蔽するだろう。いや、アリーよりも遙かに邪気に満ちた僕は、もっと作為を凝らして、自分を良い人だと思わせるように事実を歪めるだろう。
おそらく僕が若き日のアリーを好きになれなかったのは、彼女があまりにも伸びやかで自由奔放で無邪気だったからだろう。ひがみっぽい男でゴメンね。
そうそう、この邦題はお見事だよね。原題の『THE NOTEBOOK』を直訳して『帳面』なんてタイトルにしたら台無しだもん。ってのは冗談だけど、『きみに読む物語』ってのはマジで良いタイトルだと思うよ。
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