脱走した少年は、一人の少女と出会う。母親を亡くし、父親から虐げられている少女である。年齢は少年と同じく12歳だ。
この二人が行動を共にするようになる辺りの描写は、瑞々しさと躍動感に満ちている。少女の口数が多すぎるのは少々リアリティに欠けるが、それでも二人のやり取りには――それが痛ましい過去について話す時でも――微笑ましさが感じられ、応援したい気持ちにさせられるのだ。だからこそ思う。この物語は、あくまでもこの二人の視線で描かれるべきだった、と。終盤、すでに教団を抜けた者が今なお教団に残っている者と話し合うシーンがあるけど、そういうのは必要なかったんじゃないか? 物語が散漫な印象になってしまっているのだ。
そもそも、登場する大人の大半が魅力に欠ける人物ばかりである。たとえば、高原で出会う二人の女。「道ならぬ恋に落ちた大人たち」の典型を提示したいなら、わざわざレズビアンのカップルにする必要はなかったろう。それとも「愚かで不可解な大人たち」の象徴として登場させたのだろうか? いずれにせよ、彼女たちの描き方は悪趣味に思える。ギターを持った女(演じているつぐみは好きだけど)が『君のひとみは10000ボルト』を歌い始めた時は、笑わせたいのかどうか迷っちゃったよ。あまりにもリアリティがないもん。
中盤で物語は過去に遡り、少年が教団に入信させられてからの日々が描かれる。態度が悪いと懲罰を受け、こっそり手に入れたキャンディを幼い妹に与え、時には同年代の仲間と楽しそうに遊ぶ。この辺りの描き方は実に真実味があり、生々しい。厳しく少年に接しつつも時折優しい態度を見せる信者を演じる西島秀俊。少年を諭す母親を演じる甲田益也子。そして年若き幹部を演じる水橋研二。いずれも本物のオウム信者のような表情と佇まいである。真に迫りすぎていて怖いくらいだ。
東京へ着いた少年は、妹を引き取った祖父の家に辿り着く。しかし、そこには誰も住んでいない。玄関も庭の敷石も嫌がらせの落書きで埋め尽くされ、窓ガラスは投石で割れているのだ。祖父と妹はどこかへ引っ越したのだろう。少年と少女は、その家をあとにする。そして、少女はお金を得るために売春まがいの行動に出るが、それを少年は懸命に阻止する。この辺りは、食い入るように画面を見つめずにはいられない。
そのあと二人は西島秀俊演じる元信者と偶然会い、教団を抜けた者たちが集うリサイクル工場に身を寄せる。この辺の展開は、ちょっとご都合主義すぎる気がするなぁ。もうちょっと必然性のある再会にしてほしかった。とはいえ、安息の場所を見つけた二人の姿を見ていると、こっちも穏やかな気分にさせられる。
祖父の居場所を知った少年は、そこへ向かう。途中で寄った飲食店のテレビで少年は母親が自殺したことを知り、半狂乱になる。そんな少年を残して、少女は一人で目的地に向かう――。
目を疑ったのは、その少しあとのシーンだ。少女を追って現れた少年の髪が真っ白になっていたのである。あまりにも大きなショックを受けると人の髪は瞬時に白くなってしまう、という話はよく聞く。しかし、この映画での白髪は唐突でリアリティがなさすぎ。「どこかで染めてきたのか?」と思ったぐらいキレイに真っ白だもん。ロンブーの亮みたいな感じなのよ。この映画、リアリティがある部分とない部分との差が極端なのである。
祖父の描き方も中途半端。確かに傲慢な男なのだろうけど、あれじゃあどこにでもいるような頑固ジジイにしか見えない。徹底的に糾弾しなければならない「敵」ではないように思えるのだ。絵に描いたようなラストシーンも、ちょっと安直すぎる気がした。
決して嫌いな映画ではないし、難しい題材に挑んだ姿勢には敬意を表したい。しかし、もうちょっと細部まで練ってほしかった。残念である。
最後にミーハー的観点から少々。
ユキを演じた谷村美月って子が伊藤美咲そっくりに思えたのは僕だけかな? すごい美人だよね。しかも演技力は伊藤美咲よりも……おっとっと。いやぁ、これからますますキレイになっていくんだろうねぇ。
劇中で何度も歌われる『銀色の道』は実に良い感じ。調べてみたら、サントラ盤にはバージョン違いで3パターン入ってるらしい。う~ん、ほしいっ。
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トッパさん
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