菊間アナ転落事故.映像
ひょんな事から、以前から見たいと思っていた映像を見ることができた。
フジテレビの菊間アナのビル5階からの転落事故である。
現在話題になっている彼女の問題に関しては前回に書いたのでここでは批評はしない。
1998年、9月2日。朝の情報番組「めざましテレビ」、7時28分頃。防災避難ロープの体験で事故は起こった。この事故での問題点をいくつか述べよう。
1:避難ロープについて
この避難ロープの資料がないので詳細はわからないが、説明では「“NASA”が新開発したロープの素材を使った」避難ロープであるらしい。ここで重要なのはこの商品は、あくまでも”NASA”が開発した“素材を使った”ということで、「“NASA”が全てを作った避難ロープ」ではないことである。
ここに、この商品の評価を誤らせる大きな要因がある。確かに、この素材は「乗用車を吊り下げられることのできる」ものであるらしいのだが、それを構成する機構(メカニズム)が「乗用車を吊り下げることができる」ものであるかは判別できない。
「“NASA”が開発した」という、うたい文句を付ければ、宇宙開発に携わっている先進的な技術力を持つ"NASA”の全面的な後ろ盾をもらったような錯覚に陥る。しかし、“NASA”が開発したのはあくまでも“素材”であって商品そのものではないケースはいたるところにある。それを世界最高の安全性や技術力を持つものとしてとらえるのは、間違いである。
しかも、場合によっては“NASA”が開発してもいない素材を、偽って販売しているケースも多いと言う。
この商品も、そんな真偽を見分けられないフジテレビスタッフによって、企画として取り上げられるようになったのかもしれない。この商品の本当の性能は今となっては知ることも出来ないが、テレビの生放送中に事故を起こした商品を買う人は、まったくいなかったであろう。
2:安全対策について
映像を見てもらえば分かると思うのだが、第一に安全対策がまったく不備である。
ビルの5階からの避難降下を体験するというのに、二次的な安全対策がひざ下程の薄い、ウレタンマットひとつだけなのである。全くの素人である私でも安全性を疑問視できるほどの、貧弱なウレタンマットである。しかもその路上に並べられた様をよく見て欲しい。6つの狭いウレタンマットを並べているだけなのである。もしこのウレタンマットの隙間に落ちていたら、体は地面に直撃のはずである。実際に落ちた後にはウレタンマットがずれて間が開いていることがわかる。
テレビでスタントマンがビルから落ちるシーンを紹介していることがあるが、下に引いてあるものは、ウレタンマットではなく落下の衝撃を和らげるエアーマットあたりを使用しているはずである。このウレタンマットでは、映像の落下の瞬間の音を聞いてもらえば、落下の衝撃をほとんど吸収していないことがわかる。それでも、これがなければほぼ確実にこのアナウンサーは生命の危機にさらされていたのであるが。
また、なぜ、別のロープで体の確保をしなかったのであろうか?新開発のロープに全面的に信頼をおいていたのであろうか?
「事前にこのロープをテストして、安全性を確かめていた」とのフジ側の説明があったようなのだが、ビルの5階から降下するのに、別の命綱を使わないでどのように安全を確保できるというのだろう。ロープを使うレスキュー隊や自衛隊、登山をする人達には、この考え方はまったく理解出来ないはずである。自分の命をあずけるのに、歴史もない、信頼性もない「新開発の」商品を使うことなど。
この企画をするにあたっては、フジテレビスタッフは専門家の意見など絶対に聞いていないはずである。一般の社会の常識が欠落しているのがテレビの人間達であろうか。バラエティのお笑い感覚で番組を作られては人の命がいくつあっても足りないであろう。
3:状況について
妙に急ぎ過ぎている感がある。菊間アナは窓枠をまたいでなお、この避難ロープの装着を完了していない。窓枠を越えて体をビルの外に出て手で窓枠をつかんでから、やっと装着が終わったように思われるのである。そしてスタジオの二人のアナウンサーが「大丈夫?」と聞く間もなく、手を離しているのである。朝の生放送中であるとはいえ、なぜこんなにも急ぐ必要があったのだろう?せめて装着を完了した後、確実に装着されているか、ビル室内に繋げてあるフックは十分耐えられるか?を確認してもよかったはずである。しかし、そのような確認作業は全くなされていない。ここでも安全に対する配慮の欠片もない。この事故は起こるべきして起ったとも言えそうである。
この事故を見て思ったことは、「無知は怖いな」ということである。勇気ある行動と無謀な行為は全く違う。「死」すらを認知しない人達には、生きる術(すべ)すら知ることが出来ないように思える。この事件は不慮の事故ではなく、全くの人災である。