ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

着物は農業

2010-08-30 15:13:50 | 本・マンガ・絵
ご心配をおかけいたしました。とんぼ、元気です。
なんか「書いていること」がかえってお薬のような…アホかいなの私です。
無理せず続けていこうと思います。


写真は、この本の「帯」です。
だいぶ前に買っておいた本です。なかなか全部読めなくて…。
まだ途中なんですが、とてもいい本なので、ご紹介させていただきます。

きものという農業―大地からきものを作る人たち
中谷 比佐子
三五館

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内容は…と細かく書いてたら長くなりますので、
カバーの内側にかかれている本文の抜粋を…

「きものは素晴らしい、と誰もがいう。
 しかしその陰にいる、
 自然と融合しながら
 きものをつくる人たちのことを
 理解することによって
 きものと私たちはもっと
 寄りそえるのではないかと思う」

カバーにかかった帯にはデカデカと
「”綿”の自給率0% 天と地の恩恵を忘れたとき、きものが消える」

私は、たまたまですが母が着物を着るヒトであったため、
いつから一人で着られるようになったか覚えていないくらい、
ずっと着物が自然とそばにありました。
まぁさまざま家庭の事情ってのもありまして、
10年くらい、年に一度も着ない年なんてのもありました。
でも私にとって着物を着るということは特別なことではなく、
今日はちょっとオシャレしてスカート穿くか…と同じ程度のことです。
着物は私の中では「洋服、和服」の区別はなく、どっちも「着るもの」ということです。
だからこそ、さして深くは考えず、ただ当たり前にそこにあるものとして
一緒に暮らしてきたわけですが…ふときがつけば、
世の中「着物は別物」になってしまっていた…。

それを切実に考えるようになったのは、ここ数年のこと。
これは私自身がこのブログを書くことと、それを読んでくださる皆様に、
私自身の気持ちを育てていただいた結果だと、そう思っています。
そして、この本を読んだとき「あぁそうなのよね」と、ストンと落ちました。
いつもうまく言葉にして表現できなかったこと、「命」というものについて。

私はいつも、昔のヒトは「着物」を最初の巻物(反物)から、
最後の糸くずになるまで、大切に使った…というお話をします。
それは「貧しかったから」だけではありません。
それが「自然の命」をいただいて作ったものだったからです。
この本には、着物のこともたくさん書いてありますが、
何々染めがいいとか、何々織りの歴史はこうだとか、
そういう紹介の本ではありません。それらが全て「自然のものであり」
「ヒトが作っているものである」という立ち居地でのお話です。
そして、それを自然にしていくことは農業であり、
着物は大地から生まれる…というお話です。

今、有機野菜、が何かと評価されています。
お蚕さんには「農薬のついた桑」は禁物…当たり前ですが…。
実はよそから飛んできた農薬によって桑の葉が汚染されて…
ということもあるのだそうです。
人間は便利に暮らすために、いろいろなものを考え出し、作り出してきましたが、
怖いのは「それによって失うもの」が、なかなか見えてこないこと。
とんでもなく話しが飛びますが、先日「帰国」というドラマがありました。
戦後65年目に、南の海に沈む英霊たちが数時間だけ、今の日本に帰ってくる、
というお話です。もう戻るというとき、隊長役の長渕剛が、
今の日本の暮らしのさまざまについて「便利ということは怠けること」と言います。
何でもスイッチポンの今、私たちは手間や時間をかけることを、
ムダとか面倒…ととりますが、便利の代償として何を失うか…です。

農業は手間をかけるのが当たり前の仕事です。
着物は、その農業があるからつながっている…この本は、
着物のお話をしながら、実は今の日本のことも踏まえているお話です。
絹・麻・木綿、それぞれの生育のこと、それを使っての染物のこと、
今着ている着物は「どんな育ち」なのか、を教えてくれます。
そして「手間をかけること」の大切さを知ると、
今手元にある着物をどうやって大切にしたらよかんべ、と、
切ないほどのいとおしさを感じます。

この本には蚕の「まぶし」の写真とか、麻の作業工程とか、
木綿の棉繰りや弓打ち(棉をほぐす作業)などの写真も、少ないですが載っています。
織物染物をなさっておられる方はもちろんですが、
私のように「着るだけ」の立場であっても、この本はいい本だと思います。
着物の命が見える本です。
そして、私はこんなふうに「生きているものを、生きている人間が、
生かして使わせてもらうこと」を知ることは、
突き詰めて言えば「ヒトの生き様」をも考えるよすがになる…と思いました。
やたらとすぐに「キレ」て、いい年をした親が家に火をつけたり、
怒られたから、わかってくれないからと、親を殺したり、
自殺を考えさせるほど追い詰めていじめたり、
そのいじめを親にも言えなくて自殺したり…。
みんな「命」というものの大切さを、どこかで忘れている…。
それを思い出さなきゃならないときに思い出せない、
それが今の時代の「病気」のような気がします。

日本人は勤勉に、自然の中で、自然の恵みを最大限生かして生きてきた民族。
それが今、食物自給率が40%を切ってる…。
米が主食の国だというのに、米を作るなといい、
作れるはずの生糸も外から買い、大昔によその国の決めたことを、検証もおろそかにして
一番自然のためにいい「麻」を作らせない…。
麻は手のかからない、この本によれば「農業にならない」というくらい、丈夫なものです。
母も言ってました「麻は土を育てる」って。
麻を植えた土地は、土が生きかえってよい作物が実るのです。

まっすぐなきゅうりしか買わない、大きさがそろったパックがいい…。
ゆかたはTシャツ感覚、「今年のゆかた」だから高いものはいらない…。
農耕民族の知恵も、農業国のプライドも「そんなものあったっけ?」になってしまう…。

着物の話の本ですけれど、今の暮らしを足元から見つめなおしたくなる、
そんな本です。
よろしかったらご一読ください。











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4 コメント

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Unknown (陽花)
2010-08-30 18:56:54
母は自然から授かったもの、人の手をくぐって
できたもの、どれも粗末にしたらバチが
当たると口癖のように言っていました。

田んぼも畑も機械があっという間にして
くれると、自然の恵みの有難さも薄らぐ
ような気がします。
やっぱり大変な思いをした分、達成感や
喜びも大きいと思うんですけど・・・

何をするにも手間暇が掛かった時代の親の
姿を見ていたから、なおさらこんな事で
いいのかなぁと思いますね。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-08-31 20:56:09
陽花様

ご飯粒ひとつでも、ソマツにすれば
叱られましたよね。
作り手も売り手も買い手も、もう少し
距離が近かったように思います。

使い捨て、はようやく「やめたほうが…」の
風潮ですが、それでもまだまだですね。
返信する
いい本です (きてぃ。)
2010-08-31 21:50:52
私も拙ブログで紹介しておりますが、とてもよい本ですよね!
著者の中谷さんは、私の母校とでも言うべき野村町にもお越しくださっています。
昨年の東京シルクのシンポジウムでは多分私の先生の手によると思われる着物をお召しでした。

私はこれから養蚕にも携わっていくのですが、絹を始めとするこの日本文化そのものを、
どうにかして今の方々に広く知っていただけるような施設を作って行きたいです。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-09-01 01:00:11
きてぃ。様

本当に、着物好きに限らず、
読んでいただきたいと思います。
農業を大切にしなくなった農業国なんて、
うまくいくわけないんですよ。
戦争はゼッタイいやですが、
もし、戦前のように外国との交易を断たれたら
今の日本、昔ほどがんばれない気がします。
養蚕、がんばってください。
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