ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

背守り

2010-08-26 18:10:11 | とんぼ手帖
先日、いつもコメントをいただくかたから、
「こんな本がありました」とお知らせいただいて、
「アマゾン」で入手しました。「暮らしの手帖」47号で、
「美しい背守り」というタイトルの企画です。
写真もたくさん入っています。私もいくつかは知っていましたが、
こんなにたくさん種類や意味があるんだ…と、驚きました。

暮しの手帖 2010年 08月号 (4世紀47号)

暮しの手帖社

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私も子供の着物はいろいろと手に入れてきましたが、
いつもその背守りの一針一針に、親の思いと祈りを感じてきました。
今よりずっと子供が生きて育つのにたいへんだった時代、
病気や災難を、子供を襲う「魔」として、その魔から子供を護る…。
お守りを持たせたり、着物の柄に強いものや魔を封じるもの、
あるいは長寿や健康わあらわすものを使う…。
「背守り」は、そのひとつの方法でありました。

オーソドックスな縫いの背守りは、まず五色の糸で…まっすぐ縦に9針、
テッペンから3針、男の子は左へ、女の子は右へ。
これがどうしてそうなったのかはわかりませんが、
私の手持ちの着物には、五色の糸のものも、タダの白糸、赤糸のものもあります。
こちらは「絽」の男の子の掛け着、二枚襲で下着も真っ白の絽でした。


      


こちらは、縫いどまりに伸ばした糸があまりに長いので、写してみました。
着物の丈と同じだけあります。


                  


糸を長く引くのは「長寿」を願ってのこと、と聞いていたのですが、
本には「井戸や囲炉裏に落ちたときに、守り神にひきあげてもらうため」とありました。
なるほど…長くしたくなる気持ち、わかります。

こちらは菱紋…武田菱ですが、四角は枡、枡目、というように「目」も表します。
「目」で見守る…という説も聞いていましたが、本には「篭目紋」もありました。
籠はそりゃ「目だらけ」ですもん。「魔」もそそくさと退散したことでしょう。


       


着物の柄を見ていただきたく、ちと引いて…下の本は「かのページ」です。
ちょっとだけ覗かさせていただきました。


       


きれいな柄でしょう?お姉ちゃんの着物の繰り回しと思われます。


日本には、子供に関するさまざまなしきたりや行事があります。
いずれも、子供の誕生や健康を感謝したり、以後の長寿や幸福を願い祈るもの。
今、ユニセフなどで、医療の行き渡らぬ国や、戦乱のある国の子供たちについて
「これをひとつ買えば、何人の子供に予防接種ができる」といったアピールがあります。
実際、国が貧しかったり戦乱にまみれていたりすると、子供が最大の犠牲になりますね。
昔の日本もそうでした。貧富の差が激しく、医療が発達していなかった時代は、
乳幼児の死亡率と出産時、およびその直後の母親の死亡率が高かったのです。
生むことと生まれること、そこから育つことは、文字通り命がけだったわけで、
だからこそ、ある程度育つと「ここまできた」と祝うわけです。
七五三の元である「髪置きの儀」や「袴着の儀」「帯解の儀」など、
いずれも「とりあえずここまで育ってくれた、よかったよかった」ということと、
特に袴儀、帯解などは、大げさに言えば「人として認められる」と言いますか…。
7歳までは神の子、というような考えもあって、ここまできたからようやく人間として、
一般社会にも認められる…というような意味合いもあったわけです。
子供の死亡率が高く平均寿命の短かった時代は、
一日も早く「一人前」になることが、子供としてのシアワセであり、
親としての願いでもありましたから「元服」という今で言う「成人」の儀も、
平安時代などは今よりずっと早かったわけですね。
おそらく親として「命」を護る…という意味合いでは、
親の思いは今よりずっと切実だったと思います。

また「小さい子は、何かの拍子に魂が抜ける」とも言いました。
沖縄にはその類の話があり、小さい子が例えば何かにびっくりしたり、転んだりして、
あまりのことにかえってぼーっとしたりすると、魂が抜けた…といい、
そばにいる大人が「魂を呼び戻す呪文」を唱えました。
また「赤ちゃんが3回くしゃみをすると魂が飛びだす。それを魔物が喰ってしまう」
という話しもあり、両親が赤ちゃんのそばに寄り添い、くしゃみをしたとたんに
「くすくぇぇ」という言葉(本土でいうところのくそくらえ…)を唱えたので、
魔が退散した…という物語もあります。

赤ちゃん、幼子、というものは、それほど頼りなく強い護りを必要とするもの、
であったわけです。

私は古い着物を手にするとき、いつも「これを着ていたのはどんな女性だったんだろ」とか
「どんなときに着たのかな」とか、そんなことを思いますが、
子供の着物を手にしたときは、いつもそれを着ていた子供のことよりも、
それを作ったり着せたりしていた親のことを思います。
時代によって、それが縫われたのはランプの下であったかもしれないし、
裸電球の下だったかもしれない、
せっせと針を運ぶその横に、赤ちゃんがねていたかもしれない、
向こう側におじいとおばあが座っている囲炉裏っぱただったかもしれない…。
いつの時代であっても、母親や祖母が一心に思いを込めて、祈りながら願いながら、
一針ずつ縫い上げたかと思うと、なんだかキュンとなるのです。
上の紫の着物のように、すばらしく美しい錦紗であっても、
なんとかきれいな色柄に、と、ありったけの赤いものを継ぎ合わせてあっても、
最後に背中に「背守り」を縫うときは、おおきくなぁれ、元気で育て…と、
みんなたがわずそう思ったはずなんですよね。

今の時代は医療も発達し、子供を護ることも昔とは違いますが、
それでもやっぱり小さい子は「護るべきもの」ですね。
この本には「現代の背守り」も載っています。
そうですよね、Tシャツだってブラウスだって、背守り、付けてあげればいいんですね。
昨今のとんでもない子殺しのニュース、育てたはずの子供に親が殺されるニュース
そんなものを見ると、あまりの壊れように、言葉もありません。
小さい子供に、その服や下着に、何かしらお守りのおまじないをつける…
そんな時間を大切にしたら、神様も子供も、その気持ちに応えてくれるのではないか…
そんなことをふっと思いました。











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10 コメント

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おんなじですね (穴熊の女房)
2010-08-26 19:02:17
私も 手元に来た古い布や着物を手にしたとき
この着物の主は 幸せな人生だったのだろうか
どんな人生だったのだろうか とか つぎが当たっていると 其の布や縫い目を見て又想像してしまいます。
それが又楽しいのです。
出したり 引っ込めたりして ながめています。
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Unknown (陽花)
2010-08-26 21:27:43
背守りのついている着物を見る機会も
ほとんどないですが、縫い方や意味が
ある事を知ると、産むのも育てるのも
大変な時代の親の思い、すっごく感じ
ますね。
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Unknown (りのりの)
2010-08-26 21:57:05
この本、本屋で立ち読みしました。子供の背中のお守りの話がおもしろくてつい、熟読して満足して元に戻して帰ってきましたが買えばよかった。
子供の洋服に縫い付けてあげてもかわいいし、なんかすてきですね。「糸くずついてますよ」とか言われてもそれはそれでくっくっく・・・と笑ってしまいそう。
実践しようっと
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Unknown (ゆん)
2010-08-27 17:07:35
 背守りがついてるモノを見ると 必ず喉の奥がちりちりとして困ります。
 親の思いも切ないし、それとは知らず着せられていた人が、長じてそれを知った時の思いも切ない気がします。

 子どもの服は、つい背中に柄やポイントがあるものを選んでしまいます。もしくは何かしらの顔になってるリュックを背負わせたりもしました。なんとなく、後ろに隙を作らないように・って思うんですよね。
 外国では「お面背負って歩け。」と言われたこともありますよ!

 後ろの正面?


 七五三が ただのコスプレ写真撮影の日になり下がらないことを祈りますね、こういうお話を聞くと特に…。

 何処の子供たちも みんな元気で大きくなってほしいです。

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Unknown (あじゃ)
2010-08-27 17:21:10
お手元に届いたんですね~。
ホントに沢山の背守りがあって見ていて楽しくもありますね。
「井戸や囲炉裏に落ちたときに、守り神にひきあげてもらうため」、守り神に引き上げてもらう様子を想像すると
まるで宮崎駿のアニメに出てきそうな場面だと思いました。
現代のお洋服にアレンジした背守りも可愛らしいく。
今はスピリチュアルブームのようですから、このような昔ながらのおまじないも若いお母さんに受け入れらそうな気がします。
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Unknown (とんぼ)
2010-08-27 18:54:19
穴熊の女房様

とても細かくきれいに縫えていたり、
あぁお裁縫にがてだったんだな、なんてのも。
いかにも「お大尽」の着物、
継いで継いで、ものすごい算段しているもの、
いろいろ見ていると、ほんとにいくらでも
想像がふくらみますね。
きちんとお座りして、針箱を横に置いて…
そんな姿もなかなか見なくなりました。

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Unknown (とんぼ)
2010-08-27 18:56:08
陽花様

私も母は自宅でお産婆さんに来てもらっての
出産だったそうですが、
産後のことを、周りのみんなで
気遣ってくれたそうです。
医学は発達しても、ほんと出産も命がけ、
生まれてくるほうも命がけなんですよね。
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Unknown (とんぼ)
2010-08-27 18:59:29
りのりの様

ほんとに今だって使える「ワザ」ですよね。
アタシのTシャツにもつけてみようかしらん。
元々「魔」がこわがって近づいてこない?
ア・アタシはか弱いでっせ…。
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Unknown (とんぼ)
2010-08-27 19:02:19
ゆん様

私もなんとなく、「後ろの目」というの、
気にしていて、息子のリュックには必ず
何かぶらさげてつけてます。
お面、いいねぇ…。

イベント化している七五三、
一応お参りは必須のようになっているけれど、
「心の持ちよう」っていいますかねぇ…。

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Unknown (とんぼ)
2010-08-27 19:04:41
あじゃ様

私も若い方に見ていただきたいなぁと
そんな封に思いました。
文もいいことが書いてありましたね。

けっこう受け入れられるかもです。
でも「デコ」はやめてほしいなぁ…。
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