「メジャーの打法」~ブログ編

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続・投球のバイオメカニクス(10)

2011年07月30日 | 投法

 Jobe(1984) その5

 この行き違いは「解析手法がふたつあって、その一方に欠陥がある」ことによるのでは、断じて、ない。原因は、一にかかって、Jobeがアメリカにおいては一般的でない投法の投手を被験者に選んだとにあるのだ。
 4人を選ぶ過程に作為があったのは察しがつく。しかしそれは非難するには当たらない。投球動作の複雑さからすれば、むしろ賢明だった。Fleisig(1995)のようにあまりに散漫になったのでは、考察ができなかったろう。

 論文の、キネマティックな特徴について触れている部分、

In all subjects, the major activation occurred during acceleration as the scapula moved laterally and while rotating downward.

に注目したい。「肩甲骨が、外転してから、下方回旋している加速期に筋活動が活発だ」というわけだ。しかし、この下方回旋はアメリカン投法にはない。

 さらに、フォロースルーが特徴的で、

Follow-through was not only a time of eccentric contraction with muscle activity decelerating the upper extremity complex, it was also an active event with the shoulder moving across the body and the elbow into extension with forearm pronation.

とあり(抄録)、下のようなイラストが載っている。

 このようなフォロースルーは、日本ではおなじみで、「最後まで腕を振り切れ」という言い方がされる。Jobeは、イラストでもわかるように、このとき三頭筋が重要な役割を果たす、とする。

リンスカムは父親から「投げ終わった後、地面に置いてあるものを拾うように腕を振れ」と教わったそうだ。彼は非連続型。


 それに対してアメリカン投法はというと、F&D(1986)にもFeltner(1989)にもフォロースルーにおいて伸展トルクは生じていない。Werner(1993)も然りで、筋活動もない。つまり、Jobeの言うフォロースルーをやらないのだ。アメリカンは肘においては屈曲トルクを働かせる。腕は斜めに振り下ろすのではなく、前方に振り出された勢いにブレーキを掛ける。このアメリカ式がそれまでの常識となっていたのに、Jobeはそれとは異質のものを見出したから、論文で強調したわけなのだ。


 このふたつの点にも投法間の違いが現れている。そして同時に、肩甲骨の動きにせよ、フォロースルーの動作にせよ、見ればわかるのだから、被験者選別において当たりをつける有力な手がかりになっただろう。


 Jobeはなぜそのようなタイプの投手にこだわったのか?

 彼がドジャースの医療コンサルタントであることと関係していると見る(1964-)。
 当時のエースはD・サットンで(1966-1980在籍)、アーム式だ。普通のアメリカン投法とは見た目にかなり違って、体幹前屈のあとに肩を中心に腕を腕を振り下ろす感じになる。
 また、1980年にはバレンズエラが入団している(1980-1990)。そしてなんと言っても、サットンの前のエースで、史上最高のサウスポーとされるコーファックス(1955-1966)。ふたりもサットンと同じ投法だ。3人とも、アメリカン投法の特徴である、「肩を90度の外転位に保ちつつ腰をひねって投げる」(宮西)などということはやってない。

 ドジャースのピッチングスタッフにはドライスデールのようなアメリカンもいたのだが、アーム式に優越性があるとするのが首脳陣の投球観ではなかったか? ドジャースが長年投手王国であることはその考え方を裏付けることになるだろう。球団顧問であるジョーブは理想の投法としてこのタイプを選んだ、というのは十分考えられることなのだ。




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