十勝の活性化を考える会

     
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アイヌと神々の物語

2020-11-07 00:00:00 | 投稿

萱野 茂著「アイヌと神々の物語」より

萱野 茂氏はアイヌ語を母語としアイヌ語の伝承保存のため、町内在住の古老を中心にアイヌの昔話・カムイユカラ・子守唄等の録音収集を行い、現代人にわかるように翻訳・編集しました。お子様やお孫様に読み聞かせていただけるとありがたいです。

 

私は十三人兄弟の末っ子


父は天の国にいる神で、私には十三人の兄弟がいて、そのうちのいちばん末っ子が私でした。
私の兄たちがアイヌの国へ遊びに行くと、人間も神も兄たちを怖がってみんな逃げてしまい、兄たちは遊ぶこともできないと、泣きながら帰ってきます。その様子を見ていた私は、なんとかして私たちが神であることをアイヌに知らせて、ほかの神々と同じようにイナウ(木を削って作った御幣)や酒を贈ってもらえればいいなあと考えていました。
ほかの神たちへは、人間が贈ってよこすイワナや酒が引きも切らず、お祝いに敷くござを上げる暇もないぐらいにぎやかです。その様子を見て、父や母は泣きながらうらやましがっています。そんな父たちを見てかわいそうに思った私は、私たちが神であることを、なんとかして人間に覚えさせたいものだと、天の国から人間のコタン(村)を見ていました。しかし、なかなかそのようなきっかけがないまま、何年も人間のコタンを見守っていました。
 それが、ある時に釧路川の中ほどのコタンへ、遠くの方から夜盗が来ることになっていることに、私は気づいたのです。よし、いいきっかけだ。このような場合に人間のコタンを救ってあげよう。そうすれば、神である私たちのことを知ってくれる。私はそう思いました。
すぐに人間のコタンへ降りようと思ったのですが、昼の間であれば、以前の兄たちと同じように私の姿を見て、神や人間が逃げるに違いなく、それも腹が立つので、日暮れを待ちました。
そして私は、人間の姿に身を変えて釧路川の中ほどのコタンの、村おさの家へ行きました。家の外で、「エヘン、エヘン」とせきばらいをすると、きれいな娘が出てきて、
 「どうぞお入りください」
と言われたので家の中へ入りました。
家の中には、老人夫婦と娘一人に若者が二人いたので、丁寧にオンカミ(礼拝)をしました。老人は、私にも礼拝を返したあと、
 「神か人間か知らないけれど、どちらから来られた若者ですか」
と、私に聞きました。私は素性を明らかにするのが嫌で、あまりはっきりと返事をしませんでしたが、老人はそれ以上無理に聞こうとはせず、そのうち外は真っ暗になりました。
娘がおいしい食べ物をたくさん煮て、私にも食べさせてくれました。若者たちは狩りの名人らしく、クマを捕った話やシカを捕った話をいろいろと聞かせてくれたので、私は天の国の話を若者たちに聞かせました。
私は話を聞きながらも、家の外へ全神経を集中させていました。そのうちに夜盗どもの呪文が人間にききはじめたらしく、老人と若者たちも、自分の懐へ顔を埋めるように居眠りをしています。そのうち、若者たちはばたばたと後ろへひっくり返って眠ってしまったのです。
私は立ち上がって窓の所に行き、外の様子をうかがうと、夜盗どものひそひそ声が聞こえたので、入口から外へ出て、夜盗どもをばったばったと斬りまくり、一人残らず殺してしまいました。殺し終わってから、もう一度家へ入って寝ましたが、朝までいて素性を知られるのも嫌なので、私はさっさと天の国の自分の家へ帰ってきて、知らんぷりをして寝ていました。
 夜が明けて外へ出た、釧路川の中ほどの村おさは、人間の死体の山を見て、腰を抜かさんばかりに驚きました。これは、昨夜来ていた若者が助けてくれたに違いない。どこのなんという神であったのか、と何回も何回も礼拝をし、家族の無事を喜びました。
そして、たくさんのイナウを削り酒を醸し、火の神様を通じて、
 「私ども人間は、どこの神がこうして命を救ってくれたのかわかりません。どうぞ、あの時助けてくれた若い神様へ届けてください]
とお願いをしました。
火の神様はさっそく私の父の家へ、イナウや酒を贈りとどけてくれたのです。天の国にある私の父の家の窓から戸から、山のようにイナウや酒が贈られてきました。それを見た父や母は、泣きながら喜んでいます。
そこで私は、釧路川の中ほどの村おさに、次のような夢を見せました。
「私の父は天の国にいるウサギ神で、大勢の仲間がいるが、人間のコタンへ兄たちが遊びに行くと、神も人間も兄たちを怖がりみんな逃げてしまう。それで、兄たちは泣きながら帰ってきた。私はそれを見て腹を立てていたが、あなたのコタンが夜盗に襲われ全滅しそうになっているのが見えたので、助けに行ったのだ。これからは、私の父を神として祭ってくれるならば、いつまでも守ってやるであろう」
それで、天の国にウサギ神がいて、人間を守ったことを知った釧路川の中ほどのコタンの人は、ウサギを一番の神として祭るようになりました。
 そのようなわけで、大昔はウサギぐらい位の高い神はいませんでしたが、今いる人間は、ウサギを捕ってもあまり大事にしないことは困ったことです。
ですから、今いる人間よ、ウサギを捕ったら、イナウで包み大事にしなさい、と一人のアイヌが語りながら世を去りました。
語り手 平取町ペナコリ 川上うっぷ
(昭和36年10月30日採録)

 

萱野 茂(かやの しげる、1926年6月15日 - 2006年5月6日)は、日本のアイヌ文化研究者。アイヌ文化、アイヌ語の保存・継承のために活動を続けた。二風谷アイヌ資料館を創設し、館長を務めた。アイヌ初の国会議員(1994年から1998年まで参議院議員)。「日本にも大和民族以外の民族がいることを知って欲しい」という理由で、委員会において史上初のアイヌ語による質問を行ったことでも知られる。

息子の萱野志朗は、萱野茂二風谷アイヌ資料館館長、世界先住民族ネットワーク・AINU代表、FMピパウシ運営者、世界先住民族サミット2008の実行委員会最高責任者。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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