ディラン18枚組解説 ~ ディスク18(最終回)


 こんにちは。風邪で寝込んでますVKです。冬になると一回は風邪をひく自分ですが、この秋から冬にかけてもう三度目の風邪です。そんなときに聴くディランていうのもなかなかへヴィだったりするわけですが、このディスク18も結構なへヴィさです。しかし濃密なボックスですなぁ。

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『ザ・カッティング・エッジ 1965-1966:ザ・ブートレッグ・シリーズ第12集』(ウルトラ・デラックス・コレクターズ・エディション)
 SOLD OUT

[Disc 18](全21トラック、未発表録音集)
(1) Remember Me
(2) More And More
(3) Blues Stay Away From Me
(4) Weary Blues From Waitin’
(5) Lost Highway
(6) I’m So Lonesome I Could Cry
(7) Young But Daily Growing
(8) Wild Mountain Thyme
 (1)~(8) (5/04/1965) Savoy Hotel, London.

(9) I Can’t Leave Her Behind (1)
(10) I Can’t Leave Her Behind (2)
(11) On A Rainy Afternoon
(12) If I Was A King (1)
(13) If I Was A King (2)
(14) What Kind Of Friend Is This
 (9)~(14) (5/13/1966) North British Station Hotel, Glasgow, Scotland.

(15) Positively Van Gogh (1)
(16) Positively Van Gogh (2)
(17) Positively Van Gogh (3)
(18) Don’t Tell Him, Tell Me
(19) If You Want My Love
(20) Just Like A Woman
(21) Sad-Eyed Lady Of The Lowlands
 (15)~(21) (3/12/1966) Denver, Colorado Hotel Room.

ディスク18はすべてここでしか聴けない音源。ディスク17までの18枚組と6枚組の収録楽曲、その重複についてはこちらをご参照ください。


 18枚組の最後、ディスク18は、それまでのようなスタジオ・テイクでなく、ツアー中に宿泊したホテルの部屋で歌ったものを録音したプライヴェート音源集です。これは、65年から66年にかけてのディランの足跡をたどるこのボックスのテーマに沿ったものであるとはいえ、ディスク17までのスタジオ音源とは視点が異なる、いってみればオマケみたいなもの。公式音源化されていない他人の曲が並ぶディスク18はディラン好き上級者向けのアイテムといえるでしょう。

 (1)~(8)までは、65年4月末から始められた、初のイギリス・ツアー中に録音されたもの。これらの曲、ホテルの一室での簡易録音なのにやたらと音がいいです。ジョーン・バエズとのデュエット曲は録音されるべくして録音されたかのような……。というのも、このツアーの様子は映画『Don't Look Back』のために撮影されていて、ここでの音源も2曲((5)(6))が映画で使われています。つまり、これらの音源はただ単にホテルで録音されたものなどではなく、実は映画の素材として録られていたもの(撮影も)なんですね。おそらくこれら音源すべての映像も残されているはずですが、それはともかく、プライヴェート録音風なのにそれほど乱れた歌になっていないのはやはりカメラやレコーダーを意識していたからでしょう。(※補足)

 (9)~(14)までは66年のヨーロッパ・ツアー最中の音源。エレクトリック転向で物議をかもしていたこの時期ですが、これらアコギ一本の音源からは、それまでのフォーク・シンガーとしてのディランの姿がはっきりと映し出されてます。エレクトリック化した当時のディランへの反感は『ブートレッグ・シリーズ Vol.4』に明らかですが、この音源はなんとそのユダ呼ばわりされたライヴの四日前に録音されていたものだそうで。いろいろなところからバッシングを受けていた時期ゆえか、ディランは少々お疲れ気味ではありますが、実直さがあらわれたこれらの音源を聴くと、当時のディランがけしてフォーク・ミュージックを足蹴にしてエレクトリックに寝返ったのではなかったことがわかります。誰かはわかりませんが、そばにいる男とコードを確認しながらギターを弾き、なにかを探るように歌う彼の純粋さは、エレクトリックで暴れる姿とは正反対。当時のフォーク・ファンが感じていた裏切り者の姿はここにはなく、淡々とフォーク・ソングを歌うディランがあります。

 そして(15)以降は『Blonde On Blonde』のレコーディング直後の音源。ここでのディランの歌声、ヘロヘロです。なんか呑んでる?、なんか吸ってる?、なヨレヨレ具合。スタジオ・レコーディング時のキリッとした歌声とはまったく異なるくだけた調子の歌には、傑作をモノにしたといった雰囲気がまるでなく、力の脱けたディランは無防備でこれこそ真のプライヴェート録音でしょう。公式リリースされた曲((20)(21))でのけだるさなどは、曲の別の一面が垣間見える意味でなかなかおもしろい音源だったりします。が、この音源、かなり音質悪く、ブートレッグ・シリーズすべての音源の中でも劣悪なレベルです。ブートレッグ・シリーズと銘打った音源集で、ブートレッグそのものな音に驚くというのもなんだか妙な感じがしますが……。ノイズだらけのくぐもった音源はとなりの部屋から盗み聴きしているかのよう。たまたま泊まったホテルで、壁の向こうから聞こえてくる物音がディランの歌だったらこんな感じなんでしょうかねぇ。なにかハラハラしてしまう雰囲気がたまりません。

 オマケ音源集ともいえるディスク18。これは伝説として捉えられがちな当時のディランの生身の姿を曝したというだけでも価値が認められるものでしょう。賛否両論渦巻くエレクトリック化の裏でのさりげないフォーク・ミュージック。いわゆるエレクトリックの黄金期をまとめたボックスがフォーク音源で終わるというのもなんだか思わせぶりなエンディングですが、これはなかなか計算された締めではないでしょうか。
VK石井

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※補足:『THE DIG Special Edition ボブ・ディラン ザ・カッティング・エッジ 1965-1966』掲載の同作監督D.A.ペネベイカー・インタヴュー(1986年)には、フィルムに収めたこのホテルの部屋でのセッションについてと、ディランが自分でそのフィルムを観に彼のオフィスを訪れた、という話をするくだりが実際にあります。つまりこの18枚組でもまだ出してない素材があるってことだよ……。しかも感動で涙が出るほどだったって何だよ……。

 ──というわけで、以上『ザ・カッティング・エッジ 1965-1966:ザ・ブートレッグ・シリーズ第12集』(ウルトラ・デラックス・コレクターズ・エディション)解説でした。VK石井執筆分はともかく、辻口分はあんまり役に立たない内容ですみません。聴いても聴いても終わらない18枚組、途中でまず辻口が飽き始め、続いてVK音を上げ、彼は原稿を送ってきたメールに「これ本当に読んでる人いるんでしょうか?」とストレートな弱音を吐いておりました。が、進めば進むほどアクセス数&新規のページ閲覧数がぐんぐんと伸びてきちゃったのですよ……。お陰で止めるに止められなかったという理由もあります。ともあれ、年内に最後まで行き着けて良かったよかった。VK石井の風邪が治ったら、一緒に池袋に行くことにします。
 そして次回からは通常営業です。年内はあと1~2回くらい更新するかな? 1月発売、『アレサ・フランクリン リスペクト』の内容についてなど。お楽しみに!
辻口稔之





ボブ・ディラン
6CDs『ザ・カッティング・エッジ 1965-1966』(ブートレッグ・シリーズ第12集)(デラックス・エディション)【完全生産限定盤】



ボブ・ディラン
2CDs『ザ・ベスト・オブ・カッティング・エッジ 1965-1966』(ブートレッグ・シリーズ第12集)(通常盤)



THE DIG Special Edition
ボブ・ディラン ザ・カッティング・エッジ 1965-1966








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