ホームに設置された、警視庁などの痴漢防止キャンペーンの横断幕=15日午前8時10分、JR新宿駅
【衝撃事件の核心】見知らぬ仲で“痴漢電車”の異常空間 隠語飛び交うネット社会
《金曜18:00に埼京線の4番ホームの先頭に集合》-。インターネット上で電車内での痴漢を呼びかける掲示板が乱立し、警察当局が神経を尖(とが)らせている。警視庁によると、これまでにネット上で確認された「痴漢掲示板」は実に100以上。“実績”を自慢する書き込みのほか、具体的な日時を指定して集団痴漢を持ちかけるケースもあり、警視庁は「こうした書き込みが実際の痴漢行為を誘発し、一部は痴漢電車と化している」と判断。掲示板の管理者に書き込みの削除要請を行ったり、多数の捜査員をホームに投入したりと、取り締まり強化に乗り出した。ネット上で広がる“痴漢ネットワーク”と痴漢電車の実態を探ってみると…。(滝口亜希)
密室状態で人気?の埼京線
「ネットにあるように、埼京線はそんなにすごいものか自分で確かめたくなった」
今年4月、東京の赤羽-十条駅間を走行していたJR埼京線の車内で、近くにいた女子高生に痴漢をしたとして、東京都迷惑防止条例違反の疑いで逮捕された会社員の男(23)は、警視庁の調べに動機をこう供述した。
会社員が話した「ネット」とは、掲示板「2ちゃんねる」のこと。2ちゃんねる上には痴漢関連のスレッド(特定テーマ)が複数存在し、「痴漢されたい女性が多い時間帯」などと“指南”する書き込みもある。
こうした痴漢掲示板で取り上げられることが圧倒的に多いのが埼京線だ。
警視庁によると、東京都内で過去5年間に摘発された電車内の痴漢は、年平均1500~1800件で推移。今年は上半期だけで708件が摘発され、このうち1割強の75件が埼京線内で起きたものだった。特に、通勤?通学時間帯にあたる午前7~8時台に被害の約4割が集中。被害者の年齢は、15~24歳が約6割を占めた。
「電車によっては、15分以上も片側のドアしか開かないことがある。このため、開かない方のドア周辺は人が動かない“密室状態”となるため、痴漢がしやすいと思われているのではないか」
埼京線が“人気”の理由について、警視庁の捜査幹部はそう分析する。
こうしたうわさを聞きつけて、痴漢目的で埼京線を利用するケースも少なくないようだ。
前出の会社員の男は、わざわざ勤務先の休暇をとって静岡市から上京し、通勤?通学時間帯の埼京線を何往復もしながらターゲットを物色していたという。
また、新宿-池袋駅間を走っていた埼京線内で、女子高生に痴漢をしたとして5月に逮捕された別の会社員の男(33)も、通勤経路とは関係なく埼京線を利用。「痴漢専門の携帯サイトを見ていたら欲望が抑えきれなくなった」と動機を語っている。
「ホームでターゲットを見つけてから乗車」
痴漢被害が多発するという通勤?通学時間帯の埼京線はどんな様子なのか。実際に乗ってみた。
午前8時11分、新宿発の埼京線はすでにすし詰め状態。痴漢に間違われないよう対策しているのか、かばんを両足にはさみ、両手でつり革をつかむ「バンザイ体勢」をとる男性の姿もちらほらと見受けられた。
続く池袋駅では大量に降りる客もいたが、乗り込む客も多く、相変わらずの満員状態。板橋駅でようやく車内にゆとりがでて、終点の赤羽駅に到着した。
新宿駅に折り返すため、赤羽駅で同じホームの反対側に止まっていた電車に乗り込んだ。ホーム上にあふれかえった人々がドアが開くと同時に車内へとなだれ込み、想像していた以上の満員電車となった。
続く十条、板橋駅でもさらに大量の人が乗り込んでくるため、まったく身動きがとれない。立っているのがやっとで、苦しそうに顔をゆがめる人も見られた。車内アナウンスがなければ、どの駅に止まっているかも分からない状態だ。
これでは痴漢どころではないはず-。そんな疑問を警視庁の捜査幹部にぶつけると、次のような答えが返ってきた。
「乗り換え客などで込み合う埼京線の先頭車両は自然に女性と密着できるため、痴漢常習者にとっては逆に『おいしい状況』なんです。ただ、込みすぎているため、電車に乗ってからターゲットを探すのは不可能。だから、ホームで電車待ちをしている間に目当ての女性を見つけ、後ろにくっつくようにして乗車するんです」
情報交換に隠語飛び交い…
物色の時間が限られているだけに、常習者にとってはどの電車が“痴漢向き”なのかという情報は重要なようだ。
《安定して混雑するのは17時台より18時台》
《誰か触らせてくれる子はいないかな?》
痴漢掲示板では盛んに情報交換が行われており、中には女性を自称し、「痴漢されたい」といった内容を書き込んだものもある。
警視庁は「書き込みの真偽は定かではない」とした上で、こうした書き込みに誘発され、実際に現場へ足を運ぶケースが増加しているとみている。
一方、摘発を意識してか、掲示板上では隠語でのやり取りも飛び交う。
《学校帰りのJKがぎょーさん乗ってくる電車に乗りました》
《俺の目の前でK2くらいの子が二人股広げてケラケラしゃべりながら座ってます》
「JK」は女子高生、「K2」は高校2年生を指す隠語で、ほかにも「JC(女子中学生)」「JD(女子大生)」といった隠語が存在する。
《1755渋から乗り込んだJK惜しかった》
「1755」は「午後5時55分」の意味で、電車が渋谷駅を発車する時刻を指すとみられる。痴漢行為に抵抗できずにいる女子大生を「OK JD」と表現するケースもあるようだ。
難しい「囲み痴漢」の共犯立証
《我々のグループは、お互いに名前も素性もしらない者同士ですが、囲み痴漢を実践しているグループです》
2ちゃんねる上の掲示板「埼京線での囲み痴漢の会」には、こんな“活動紹介”の一文があった。電車の発車時刻や駅名を指定し、集団での痴漢行為を呼びかける書き込みもみられることから、警視庁は警戒を強めている。
平成19年7月には埼京線の車内で20歳代の女性会社員に痴漢行為をしたとして、40歳代の会社員の男2人が警視庁に逮捕された。
1人が女性の前方に、もう1人が後方に立って、それぞれ女性の尻を触っていたという。女性が被害を訴え出たことなどから、2人は都迷惑防止条例違反の現行犯で逮捕された。
後方から痴漢をしていた会社員は、警視庁の調べに「数人が女性を囲んでいるのを見て、(女性側も痴漢をされて)OKなんだと思った」と供述した。
捜査幹部は「掲示板などの“集団痴漢予告”に影響され、実際に痴漢行為に及んだ可能性が高い」とみるが、事前に打ち合わせをしていたわけではないため共犯関係の立証は難しいという。逮捕された2人も互いに面識はなかった。
ホーム、私服警戒、削除要請…対策の効果は?
こうした状況を受け、警視庁は9月中旬に「痴漢被害STOP!」と題した痴漢の取り締まり作戦に乗り出した。
埼京線を皮切りに、山手線や中央線など計9路線を「重点警戒路線」と位置づけ、主要駅のホームでの警戒を強化。「スリと痴漢は目の動きが似ている」(警視庁)ことから、スリ犯を担当する捜査員も投入し、車内での私服警戒にあたるなどして、作戦期間中の5日間で31件の痴漢を摘発した。
痴漢被害を助長すると判断した書き込みについては今後、掲示板の管理者に削除要請を出す方針だが、取り締まり強化を受けて既に自主的に削除したとみられるケースもある。ただ、すべての書き込みを削除できるわけではなく、現実的にはイタチごっこだ。
一方、今年上半期の摘発件数は前年同期より91件減少したが、ある捜査関係者は「痴漢のほとんどは、被害者である女性が駅員などに訴え出ることで逮捕につながっている。摘発件数が減っているということは、泣き寝入りが増えているのではないか」と懸念する。
警視庁が取り締まり強化を発表した後も、掲示板には痴漢対策をあざ笑うかのうような書き込みが残されていた。
《祝日だと(電車が)満員にならないなぁ???押しつけたい揉(も)みたい》
「ゲーム感覚で行っていても、痴漢は卑劣で重大な犯罪。逮捕されれば取り返しのつかないことになる」
捜査関係者はそう警告するのだが…。
Source来源:http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090926/crm0909261302004-n1.htm; http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090926/crm0909261302004-n2.htm;http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090926/crm0909261302004-n3.htm;http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090926/crm0909261302004-n4.htm;http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090926/crm0909261302004-n5.htm.
写真source:http://sankei.jp.msn.com/photos/affairs/crime/090926/crm0909261302004-p1.htm