英語生活ノおト 第2巻(補)> 英語のバックグラウンド(3)> 聖書のいろいろ
世界一発行部数の多い書物は聖書だということはギネスにも登録されています。約3900億部。どのあたりからいうのかわかりませんが、グーテンベルグの活版印刷技術の発明により聖書の大量発行が可能になった15世紀からもすでに700年以上たっています、この700年間積み上げられてきた数字ですから、まずこの記録は破られることはないでしょうね。
さて、旧約、新約とはいったい何ぞやですが、イエス・キリストが生まれる前にあった書物群を旧約、生誕後に書かれた書物や日記をまとめたものを新約といいます。キリスト教にとっては新約聖書、旧約聖書ともに正典(一番大事な書物)、ユダヤ教にとっては旧約聖書のみが正典です。イスラム教にとっては新約聖書、旧約聖書ともに経典(正典の次に大事な書物)で、旧約聖書のことを「完全無欠」とたたえますが、新約聖書に関しては誤りが多いものとみし(イエスは神の子ではなく、モハメッドに先立つ偉大な預言者という見方をします)、コーランの記述を優先します。
歴史的に見れば当然イエスの生きていた時代にはまだキリスト教は生まれていない、聖書と言えば旧約聖書のこと、人間としてのイエスはユダヤ教の預言者であると自分を見なしていたでしょうし、モハメッドは自分を神格化することなく、イエスより偉大な預言者であると自分を見なしております。繰り返しになりますが、イエス・キリストの神性は認めておりません。
こんなことを言うとあちこちから叱られそうですが、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、大局的に見ればエホバ、ヤーウェ、アラーと呼ばれている唯一神信仰から派生した3つのセクトです。イスラム国との戦争もまあセクトの内ゲバみたいなもので、仲よくすればいいのにね。実際イスラムの穏健派でクリスチャンと結婚した女性を知っています。
旧約聖書はもともとヘブライ語で書かれ、新約聖書はギリシャ語で書かれたました。写本の時代ですので、オリジナルがどれかわからない状態も結構あり、大体現在のものにまとまったのは中世くらいだそうです。また、ヘブライ語とギリシャ語で聖書を読める人は専門家しかおりません、たいていは翻訳で読んでいるわけですが、そうなってくると訳によっていろいろ訳し方やニュアンスが違い、言葉フェチの管理人にとっては大変興味深い。そこで日本語訳と英訳それぞれ、ちょっと調べたものが以下。もともと教材用に作ったものをすこし改定。引用箇所は新約聖書、ルカによる福音書(イエス・キリストの言行をまとめたもの)第1章28~29節、天使ガブリエルがマリアに「おめどとう」と言ったくだりです。
(なお、今日はまだクリスマスです。イエス・キリストが生まれたのを知った博士達(占星術の)がベツレヘムに到着するまで結構長い距離を旅し、2週間後にやっと会えた、そのことを記念するために1月6日が公現日と定められ、ここまでをクリスマスとします。)
文語訳
新約聖書はヘボン(明治学院の創設者、ヘボン式ローマ字の考案者)、S.R.ブラウンを中心とする「翻訳委員社中」や、「聖書常置委員会」が中心となり、欽定訳英語聖書を参考に1887(明治20)年全部の翻訳が完成しました。これが、「明治訳」(元訳)と言われるもので、その旧約聖書は、今でも「文語訳」として用いられています。「明治訳」の新約聖書はその後改訳されて、1917(大正6)年10月に出版されました。つまり文語聖書の旧約部分は明治訳、新約部分は大正訳ということになります。ギツラフの聖書など、先行する翻訳はいくつかありますが、新約、旧約全巻まとまった日本語訳はこれが最初のようです。
御使(みつかひ)、處女(おとめ)の許(もと)にきたりて言ふ、『めでたし、恵まるる者よ、主なんぢと偕(とも)に在(い)ませり』マリヤこの言(ことば)によりて、心いたく騒ぎ、斯(かか)る挨拶は如何(いか)なる事ぞと思ひ廻(めぐ)らしたるに、
口語訳
1951(昭和26)年4月、時代の要請に応えて、口語編纂への改訳が始まりました。作業は、東京・銀座の日本聖書協会(今も同じ場所、銀座教文館ビルの中にあります)の一室で行われ、着手後3年半で、新約がまず完成、1955(昭和30)年には旧訳も完成しました。
御使がマリヤのところにきて言った、「恵まれた女よ、おめでとう、主があなたと共におられます」。この言葉にマリヤはひどく胸騒ぎがして、このあいさつはなんの事であろうかと、思いめぐらしていた。
新共同訳
1968(昭和43)年、聖書協会世界連盟(UBS)とローマ・カトリック教会の間で協議が成立し、プロテスタントとカトリックが同じ聖書を用いるための聖書翻訳の「標準原則」がまとめられ、世界各国で「共同訳」の翻訳が開始されます。日本では1970(昭和45)年、「共同訳聖書実行委員会」が組織され、18年の歳月を費やし、1987(昭和62)年9月5日、『聖書 新共同訳』が発刊されました。いままで英語訳に頼っていたところをかなり原典にまでさかのぼって訳したため、これほど時間がかかったそうです。
天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。
新改訳
一方1970年、日本聖書刊行会は聖書を『誤りなき神のみことば』と告白する福音主義の立場に立つ委員会訳であること」、「特定の神学的立場に傾かないで、言語的に妥当であるかを尊重すること」などを基本方針とし、1970年に新共同訳と別に「新改訳」を発行します。現在でも福音系の教会で多く用いられています。福音系って?誤解を恐れずに言い切れば「保守系」。
御使いは、はいって来ると、マリヤに言った、「おめでとう。恵まれた方、主が、あなたとともにおられます。」しかし、マリヤはこのことばに、ひどくとまどって、これはいったい何のあいさつかと考え込んだ。
New King James Version (英国改定訳NKJV )
英語で一番有名な聖書は1611年に出版されたシェイクスピア時代の「ジェームズ王欽定訳」(欽定訳)でこれをを1885年に改定したものがこちら。ヘブライ語およびギリシア語原典から訳したと序文にはありますが、実際にはウィリアム・ティンダルら先行する英語翻訳にかなりの部分で依拠しています。かなり難解ですが、言い方を変えれば「格調高い」、日本語文語訳同様、文語の世界です。語順の倒置がふんだん。
And having come in, the angel said to her, "Rejoice, highly favored [one], the Lord [is] with you; blessed [are] you among women!"
But when she saw [him], she was troubled at his saying, and considered what manner of greeting this was.
New Revised Standard Version (改定標準訳NRSV )
欽定訳を1901年に改定した(アメリカ標準訳 RSV)を1952年に再改定したものです。NRSVの編集にはカトリックや正教会やユダヤ人学者が招かれており、アメリカでプロテスタント・カトリック共に使用しています。
And he came to her and said, ‘Greetings, favoured one! The Lord is with you.’
But she was much perplexed by his words and pondered what sort of greeting this might be.
New Jerusalem Bible(NJB)
もともとはフランス語バージョンだったみたい。1966年刊。特徴のあるこなれた文体でファンが多い聖書です。
He went in and said to her, 'Rejoice, you who enjoy God's favour! The Lord is with you.'
She was deeply disturbed by these words and asked herself what this greeting could mean,
New International Version (NIV)
アメリカのファンダメンタリズム・福音主義教会が使用しています。1978年。新改訳のところで述べた運動の発端かもしれません。
The angel went to her and said, "Greetings, you who are highly favored! The Lord is with you."
Mary was greatly troubled at his words and wondered what kind of greeting this might be.
Today's English Version (TEV) / Good News Bible (GNB)
名前が2種類あるが中身は同じです。意訳を多くして、母国語が英語以外の人にも読みやすくなっています。1976年、現代人に親しみやすい聖書をということで、アメリカ聖書協会が作成しました。今後はこの聖書が中心となっていくみたいです。
The angel came to her and said, "Peace be with you! The Lord is with you and has greatly blessed you!"
Mary was deeply troubled by the angel's message, and she wondered what his words meant.
いろんな訳し方、言い方があるもんです。これだけ違うと使う聖書によりキリスト教そのものの理解も違うんでは、と思いたくなりますが、それは一面真実。キリスト教の本質にまで関係するかどうかは何とも。個人的には格調高い文語聖書、欽定訳が好きですね。
(初出2011年6月11日)

さて、旧約、新約とはいったい何ぞやですが、イエス・キリストが生まれる前にあった書物群を旧約、生誕後に書かれた書物や日記をまとめたものを新約といいます。キリスト教にとっては新約聖書、旧約聖書ともに正典(一番大事な書物)、ユダヤ教にとっては旧約聖書のみが正典です。イスラム教にとっては新約聖書、旧約聖書ともに経典(正典の次に大事な書物)で、旧約聖書のことを「完全無欠」とたたえますが、新約聖書に関しては誤りが多いものとみし(イエスは神の子ではなく、モハメッドに先立つ偉大な預言者という見方をします)、コーランの記述を優先します。
歴史的に見れば当然イエスの生きていた時代にはまだキリスト教は生まれていない、聖書と言えば旧約聖書のこと、人間としてのイエスはユダヤ教の預言者であると自分を見なしていたでしょうし、モハメッドは自分を神格化することなく、イエスより偉大な預言者であると自分を見なしております。繰り返しになりますが、イエス・キリストの神性は認めておりません。
こんなことを言うとあちこちから叱られそうですが、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、大局的に見ればエホバ、ヤーウェ、アラーと呼ばれている唯一神信仰から派生した3つのセクトです。イスラム国との戦争もまあセクトの内ゲバみたいなもので、仲よくすればいいのにね。実際イスラムの穏健派でクリスチャンと結婚した女性を知っています。
旧約聖書はもともとヘブライ語で書かれ、新約聖書はギリシャ語で書かれたました。写本の時代ですので、オリジナルがどれかわからない状態も結構あり、大体現在のものにまとまったのは中世くらいだそうです。また、ヘブライ語とギリシャ語で聖書を読める人は専門家しかおりません、たいていは翻訳で読んでいるわけですが、そうなってくると訳によっていろいろ訳し方やニュアンスが違い、言葉フェチの管理人にとっては大変興味深い。そこで日本語訳と英訳それぞれ、ちょっと調べたものが以下。もともと教材用に作ったものをすこし改定。引用箇所は新約聖書、ルカによる福音書(イエス・キリストの言行をまとめたもの)第1章28~29節、天使ガブリエルがマリアに「おめどとう」と言ったくだりです。
(なお、今日はまだクリスマスです。イエス・キリストが生まれたのを知った博士達(占星術の)がベツレヘムに到着するまで結構長い距離を旅し、2週間後にやっと会えた、そのことを記念するために1月6日が公現日と定められ、ここまでをクリスマスとします。)
文語訳
新約聖書はヘボン(明治学院の創設者、ヘボン式ローマ字の考案者)、S.R.ブラウンを中心とする「翻訳委員社中」や、「聖書常置委員会」が中心となり、欽定訳英語聖書を参考に1887(明治20)年全部の翻訳が完成しました。これが、「明治訳」(元訳)と言われるもので、その旧約聖書は、今でも「文語訳」として用いられています。「明治訳」の新約聖書はその後改訳されて、1917(大正6)年10月に出版されました。つまり文語聖書の旧約部分は明治訳、新約部分は大正訳ということになります。ギツラフの聖書など、先行する翻訳はいくつかありますが、新約、旧約全巻まとまった日本語訳はこれが最初のようです。
御使(みつかひ)、處女(おとめ)の許(もと)にきたりて言ふ、『めでたし、恵まるる者よ、主なんぢと偕(とも)に在(い)ませり』マリヤこの言(ことば)によりて、心いたく騒ぎ、斯(かか)る挨拶は如何(いか)なる事ぞと思ひ廻(めぐ)らしたるに、
口語訳
1951(昭和26)年4月、時代の要請に応えて、口語編纂への改訳が始まりました。作業は、東京・銀座の日本聖書協会(今も同じ場所、銀座教文館ビルの中にあります)の一室で行われ、着手後3年半で、新約がまず完成、1955(昭和30)年には旧訳も完成しました。
御使がマリヤのところにきて言った、「恵まれた女よ、おめでとう、主があなたと共におられます」。この言葉にマリヤはひどく胸騒ぎがして、このあいさつはなんの事であろうかと、思いめぐらしていた。
新共同訳
1968(昭和43)年、聖書協会世界連盟(UBS)とローマ・カトリック教会の間で協議が成立し、プロテスタントとカトリックが同じ聖書を用いるための聖書翻訳の「標準原則」がまとめられ、世界各国で「共同訳」の翻訳が開始されます。日本では1970(昭和45)年、「共同訳聖書実行委員会」が組織され、18年の歳月を費やし、1987(昭和62)年9月5日、『聖書 新共同訳』が発刊されました。いままで英語訳に頼っていたところをかなり原典にまでさかのぼって訳したため、これほど時間がかかったそうです。
天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。
新改訳
一方1970年、日本聖書刊行会は聖書を『誤りなき神のみことば』と告白する福音主義の立場に立つ委員会訳であること」、「特定の神学的立場に傾かないで、言語的に妥当であるかを尊重すること」などを基本方針とし、1970年に新共同訳と別に「新改訳」を発行します。現在でも福音系の教会で多く用いられています。福音系って?誤解を恐れずに言い切れば「保守系」。
御使いは、はいって来ると、マリヤに言った、「おめでとう。恵まれた方、主が、あなたとともにおられます。」しかし、マリヤはこのことばに、ひどくとまどって、これはいったい何のあいさつかと考え込んだ。
New King James Version (英国改定訳NKJV )
英語で一番有名な聖書は1611年に出版されたシェイクスピア時代の「ジェームズ王欽定訳」(欽定訳)でこれをを1885年に改定したものがこちら。ヘブライ語およびギリシア語原典から訳したと序文にはありますが、実際にはウィリアム・ティンダルら先行する英語翻訳にかなりの部分で依拠しています。かなり難解ですが、言い方を変えれば「格調高い」、日本語文語訳同様、文語の世界です。語順の倒置がふんだん。
And having come in, the angel said to her, "Rejoice, highly favored [one], the Lord [is] with you; blessed [are] you among women!"
But when she saw [him], she was troubled at his saying, and considered what manner of greeting this was.
New Revised Standard Version (改定標準訳NRSV )
欽定訳を1901年に改定した(アメリカ標準訳 RSV)を1952年に再改定したものです。NRSVの編集にはカトリックや正教会やユダヤ人学者が招かれており、アメリカでプロテスタント・カトリック共に使用しています。
And he came to her and said, ‘Greetings, favoured one! The Lord is with you.’
But she was much perplexed by his words and pondered what sort of greeting this might be.
New Jerusalem Bible(NJB)
もともとはフランス語バージョンだったみたい。1966年刊。特徴のあるこなれた文体でファンが多い聖書です。
He went in and said to her, 'Rejoice, you who enjoy God's favour! The Lord is with you.'
She was deeply disturbed by these words and asked herself what this greeting could mean,
New International Version (NIV)
アメリカのファンダメンタリズム・福音主義教会が使用しています。1978年。新改訳のところで述べた運動の発端かもしれません。
The angel went to her and said, "Greetings, you who are highly favored! The Lord is with you."
Mary was greatly troubled at his words and wondered what kind of greeting this might be.
Today's English Version (TEV) / Good News Bible (GNB)
名前が2種類あるが中身は同じです。意訳を多くして、母国語が英語以外の人にも読みやすくなっています。1976年、現代人に親しみやすい聖書をということで、アメリカ聖書協会が作成しました。今後はこの聖書が中心となっていくみたいです。
The angel came to her and said, "Peace be with you! The Lord is with you and has greatly blessed you!"
Mary was deeply troubled by the angel's message, and she wondered what his words meant.
いろんな訳し方、言い方があるもんです。これだけ違うと使う聖書によりキリスト教そのものの理解も違うんでは、と思いたくなりますが、それは一面真実。キリスト教の本質にまで関係するかどうかは何とも。個人的には格調高い文語聖書、欽定訳が好きですね。
(初出2011年6月11日)