山に越して

日々の生活の記録

ミミの旅 10-10

2018-12-06 09:06:17 | 童話

 十

 

 ミミは灯台にお別れを言って、北に向かうか、南にある自分の町に帰ろうか迷っていました。

 リュックサックの中身は空っぽになり、お腹はとっても空いていました。でも、もう一度リュックサックの中を探してみました。リュックサックには、幾つものポケットが付いていて、そのポケットのひとつにチョコレートの欠片が入っていました。ミミはとっても嬉しくなりました。思いがけず一等賞が当たったような、そんな喜びと同じです。ミミは大きな岩に腰掛けて、ゆっくりとチョコレートを食べました。そして、もう少しだけ旅を続けようと思いました。自分が何を探そうとしていたのか、はっきりと分からなかったからです。

 ミミは一生懸命歩いて行きました。左側の、遠くの方に木が茂っていることに気付きました。少しだけ、おかしいなと思いました。でも良く分からなかったので辺りを見渡しました。すると、その向こうに大きな橋が見えてきました。海に橋が架かっていると思ったのですが、海に架かった橋ではなく、ミミは自分の家の方に自然と向かって歩いていたのです。確かに見覚えのある景色で、いつの間にか、自分の家の近くまで来ていたのです。ミミは何となくホッとしました。動物や鳥が、仲間や自分の家に自然と帰るような帰巣(きそう)本能が働いていたのかも知れません。そして、ホッとしたのは、歩き疲れて寂しくなっていたのかも知れません。

 家まで後少しでした。ミミは今日までのことを思い出しました。寒いと生きることが出来ないと言っていたツツドリのケイは、無事南の島に着いたのか・・・。寂しい海岸で、独りぼっちだけど精一杯生きている西洋タンポポさんは元気にしているのか・・・。本当のことを求めて生きなくてはならないと言っていたミラ・・・。自然の許容量と、私自身の許容量を大きくするようにと教えてくれたコメツキガニ・・・。今もポケットの中に入っているビー玉の悲しみ・・・。みんな必要があって生まれ、不必要な物などこの地球には何一つ無いと言った蛾の話・・・。優しくなければ、寂しさも悲しみも理解できない、そして、寂しさや悲しみを知るから人を愛し、楽しさや喜びを知るから人を理解できると言っていた北風さんの言葉・・・。カラスさんには辛くても頑張るようにと言われた・・・。色んな不安があっても、心の中が変わらないように生きるんだと、ヤドカリさんと魚さんが言っていた・・・。

 ミミは旅の途中で知ったことや学んだことを、心の中深くしまい大切に思いました。そして、悲しみや寂しさについて、これからも考え一生懸命生きようと思いました。

 ミミが家に着いて、暫くするとお父さんが帰ってきました。そしてミミに聞きました。

「寂しくなかった?」

「大丈夫だよ」

「何時も独りぼっちにさせて済まないと思っている」

「だって、お父さんには仕事があるよ」

「もう良いんだよ、ミミが大きくなるまでお父さんは仕事を変わろうと思っている」

「私、もう寂しくない。一人でもお留守番が出来るようになる」

「海の上にいても、ミミのことを考えるとお父さんは辛くなる」

「ねえお父さん、私、お父さんが大好き」

「お父さんもミミのことが大好きだよ」

「私、旅をしてきたの」

 と、ミミは打ち明けました。

「どんな旅だった?」

「北風さん、お星様のミラ、カドカリさんやカラスさん、海岸でひっそりと咲いている西洋タンポポさんとも話をしたの」

「そして」

「色んなことを教えて貰った。でも、少し難しかった」

「お父さんにも教えてくれる?」

「ミミがもう少し大きくなってからね」

「楽しみにしているよ」

「ただね、一生懸命生きて、一つ一つのことを真剣に考えて、何故だろうって思わなくてはいけないんだよね」

「動物やお星様とお話出来たことがとっても嬉しいよ。何時までもそんなミミであって欲しいな」

「うん」

「ミミ、星が綺麗だね」

「ミラとお話ししているのかな?」

「そうだね」

 二人は暫くの間星を眺めていました。

「私、もう眠い」

「疲れたんだね。お休み、ミミ」

 ミミは暖かい布団の中に潜り込みました。静かな時間が過ぎ、ミミはお母さんの胸の中で眠っている夢を見ていました。童謡を歌い、絵本を読んでくれた優しいお母さんでした。胸のなかで眠り、お母さんと一緒に遊んでいた。何故泣くのと慰めてくれた。優しく側で笑っていた。何時も何時でも一緒にいたお母さん。私のお母さんは何処に行ってしまったの?会いたくても会えないの?でも、お母さんのことを大好きだと思いました。ミミは、お母さんとお話をしながら朝までぐっすりと眠りました。

 

 きっと、感じることが出来なければ優しさは芽生えないかも知れません。そして、一つ一つのことを一生懸命考えなければ答は見つからないかも知れません。ミミが、そんな大人になってくれることを願っています。

 

                             了

 

追記

 

 ミミは素敵な子供に、そして、優しい大人になってくれることを願っています。私のように歳を取ってしまうと、小さな子はとってもとっても可愛いものです。目の中に入れても痛くはないと言う言葉がありますが、その通りです。

 次の歌を、雛祭りのメロディーで歌ってみて下さい。小さな子は直ぐ眠ってしまいます。

 

ミーコと一緒のお散歩は

とってもとっても楽しいよ

今日も一緒に歩こうね

ミーコと一緒に歩こうね

 

ミーコのあんよは可愛いよ

ミーコのお手ても可愛いよ

ミーコのほっぺも可愛いよ

ミーコはみーんな可愛いよ

 

ミーコは良い子だ可愛い子

ミーコは良い子だ元気な子

ミーコは良い子だ優しい子

ミーコは良い子だねんねしな

 

 ミーコの本当の名前は・・・・・と言います。色んな歌を歌ってあげるのですが、この歌が一番好きなようでした。何度か歌う内に眠りに就きます。胸に張り付いて眠る子ほど可愛くて愛おしく感じるときはありません。

 ・・・は丁度一歳になりました。これからも、ミミのように、風や鳥や花や動物たちと話が出来る、そんな優しさを感じられる子に成長してくれることを願っています。そして、元気な子に育って欲しいと思います。

 

 

次回、疑似短編集冬の霧を予定しています。

ご購読ありがとうございました。